シニア犬のイボやしこりは皮膚の腫瘍?対策を獣医さんに聞きました

シニア犬になるとイボやしこりなどの皮膚トラブルが増えてきます。放っておいてもいいただのイボなこともありますが、中には悪性腫瘍の場合もあるので注意しましょう。ここでは、イボやしこりを見つけたときの対応や、シニア犬に見られる皮膚の腫瘍について、日本獣医がん学会の認定医である吉田先生に詳しくお話を伺います。

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犬の皮膚にもイボやしこりができますよね?

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皮膚にできるイボについて

人間と同じように、犬も高齢になるとイボができやすくなります。イボは正式名称を「乳頭腫(にゅうとうしゅ)」といい、これは様子を見ていても問題のない良性の腫瘍の一種です。イボができる詳しい原因はわかっていませんが、パピローマウイルスというウイルスが原因でイボができることもあります。

皮膚にできるしこりについて

シニア犬になると、体にしこりができることが多くなります。脂肪や角質が皮膚の中にたまっているだけのケース(表皮嚢胞)や、細菌感染や炎症が原因でしこりができることもありますが、中にはガン(悪性腫瘍)が原因でしこりができていることもあるので注意が必要です。悪性腫瘍の場合、早期に治療を開始できるかどうかでその後の経過が大きく変わってくるので、しこりに気付いたらできるだけ早めに動物病院で診てもらうようにしましょう。

シニア犬にイボやしこりができやすいのはなぜですか?

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シニア犬は免疫力が低下する

免疫はウイルスや細菌などの異物から体を守る働きをしていますが、腫瘍細胞などの異常な細胞を排除する重要な役割も担っています。高齢になって免疫力が低下すると、ウイルスや細菌感染にかかりやすくなるだけでなく、腫瘍ができやすくなり、皮膚にイボやしこりができやすくなるのです。

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シニア犬は新陳代謝が低下する

皮膚の細胞は常に新しく生まれ変わっていますが、シニア犬になって新陳代謝が衰えると、古くなった角質がたまりやすくなって、しこりを作ることがあります。また、高齢になって肌のバリア機能が弱くなると、皮膚の状態が悪化して皮膚の一部がかたくなったり、肌荒れや湿疹などを引き起こすこともあります。

愛犬にイボやしこりがあったらどうしたらいいですか?

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まずは動物病院へ

愛犬の皮膚にできたイボやしこりが悪性腫瘍(ガン)なのか、それとも特に処置が必要ないものなのかを、飼い主さんが自分で判断するのは危険です。もしも悪性腫瘍だった場合、早期に治療することが非常に大切なので、愛犬の皮膚にできものを見つけたときはできるだけ早めにかかりつけの動物病院で診てもらいましょう。

その際、どのくらい前にできたものなのか、見つけてから大きさに変化はあるか、大きくなっている場合はどのくらいのスピードで大きくなっているか、という情報を伝えることができると診断の助けになります。

必要な検査

乳頭腫(イボ)である可能性が高い場合や、病変があまりにも小さい場合は、検査をしないで様子を見ることもありますが、皮膚にできものやしこりが見つかったときは、病変のある部分を針で刺し、採取した細胞を顕微鏡で確認する「細胞診」という検査をすることが一般的です。これは麻酔なしでできる検査で、皮膚のしこりやできものが腫瘍なのかそうでないのか、ある程度区別することができます。

腫瘍が疑われる場合には、転移が起きていないか、手術をすることができるか、腫瘍の大きさはどのくらいか、ということを調べるために、必要に応じて血液検査、CTやレントゲンなどの画像検査、リンパ節の検査などを行います。

治療について

しこりやできものの正体によって治療法は異なります。アレルギーや皮膚炎が原因であれば投薬で治療することもありますし、老化によるイボや表皮嚢胞(脂肪や角質が皮膚の中にたまっているもの)であれば、特に治療はせずに定期的な検診だけで済むこともあります。経過観察となった場合は、できものが大きくなったり形状が変化していないか、病変部位や体調の変化を書き留めておくとよいでしょう。

しこりやできものが皮膚の腫瘍だった場合は、腫瘍の種類によって治療法が異なります。もしも悪性腫瘍(ガン)だった場合は、手術で切り取るのが一般的です。

皮膚の腫瘍について教えてください

そもそも腫瘍とは

細胞は必要に応じて分裂しながら増殖していきますが、稀に突然変異を起こして異常な細胞(腫瘍細胞)が生まれることがあります。異常な細胞は体の指令を無視して無秩序に増殖し続け、やがて健康な臓器や骨を圧迫したり、破壊するようになります。こうしてできた異常な細胞の塊を腫瘍と言います。通常、腫瘍細胞は免疫によって排除されますが、シニア犬になって免疫機能が低下すると、腫瘍細胞が成長しやすくなります。

良性と悪性の違い

腫瘍には良性と悪性があります。良性の腫瘍は一般的に増殖スピードがゆっくりで転移もしないので、比較的治療がしやすく、治療後はいい経過を辿ることが多いです。一方、悪性の場合は増殖スピードが早く、体のあちこちに転移をするため、残念ながら治療をしても完治できないケースは少なくありません。良性腫瘍と悪性腫瘍の違いについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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皮膚の腫瘍とは

一概に皮膚の腫瘍といっても、皮膚はさまざまな細胞から構成されているため、どの細胞が腫瘍化したのかによって腫瘍の種類は異なります。

例えば、紫外線から皮膚を守る働きをしているメラニンという色素細胞を作っているメラノサイトがガン化すると「メラノーマ」になりますし、皮下脂肪の脂肪組織が腫瘍化すれば「脂肪腫」になります。腫瘍の種類によってどのような経過を辿るか大きく異なりますが、いずれにせよ早期発見することが非常に大切です。

良性の場合は治療しなくてもいいのでしょうか?

様子を見るケースも

良性腫瘍の中には、特に治療は行わず、定期的に様子を確認するだけで済むケースもあります。例えば、シニア犬によく見られるイボ(乳頭腫)は良性腫瘍の一つですが、痛みがなさそうだったり、犬自身が気にしていないようであれば、治療をしないことも多いです。

ただし、犬自身が気にして噛んでしまったり、できた場所が悪くて床などで擦れてしまったり、大きくなって痛みが出てくるような場合には、犬のQOL(生活の質)が低下してしまうので、手術などでの治療が推奨されることもあります。

良性でも治療したほうがいいことも

良性腫瘍でもだんだん病状が進行してサイズが大きくなってくると、生活する上で邪魔になったり、自壊(腫瘍の内側が破裂して崩れること)して痛みが出るようになったりします。こうなると犬のQOL(生活の質)は大きく低下してしまいますよね。

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腫瘍が小さいうちに手術で切除してしまえば、傷も小さく済みますし、術後にいい経過を辿ることが多いです。そのため、良性であっても手術を推奨されるのは珍しいことではありません。また、初めは良性だった腫瘍が途中で悪性に変異することもあるので、早めに手術で切除しておいた方がいい場合もあります。

良性かどうかを見た目で判断するのは難しい

皮膚の腫瘍が良性なのか悪性なのかを見た目だけで正確に判断することは獣医師であっても困難です。実は、腫瘍の詳細な状況を把握するためには、手術で切り取った腫瘍組織を詳しく調べる「病理検査」が必要になります。病理検査をしてはじめて、その腫瘍が悪性なのか良性なのかを正確に知ることができます。

見た感じや細胞診(病変部位を針で刺し、採取した細胞を調べる検査)で良性のように見えていても、病理検査で詳しく調べてみたら悪性だった、ということもあるので、できれば手術で切除しておいた方が安心なのです。

皮膚の腫瘍にはどのようなものがありますか?

乳頭腫

乳頭腫は良性の腫瘍で、一般的に「イボ」と呼ばれます。若い犬からシニア犬に至るまで、幅広い年代の犬によく見られます。イボができる詳しい原因はわかっていませんが、若い犬の場合は「パピローマウイルス」というウイルスに感染することでできることもあります。特に治療の必要はなく、ウイルス性のものであれば数か月で消失します。

検査や治療をせずに経過観察となることも多いですが、いつ見つけたものなのか、どのくらいの大きさなのか、きちんと記録を残しておきましょう。突然大きくなったり、増えたりしていないか、日々観察するようにしてください。

乳腺腫瘍

避妊手術をしていないメスのシニア犬によく見られる乳腺腫瘍は、乳腺組織の一部が腫瘍化したものです。乳腺にしこりが見つかったらまず乳腺腫瘍が疑われます。良性と悪性の割合は半々ですが、良性であっても床に擦れるほど大きくなったり、悪性に変異することがあるため、できるだけ早く手術で切除することが推奨されています。

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肥満細胞腫

犬の皮膚にできるガン(悪性腫瘍)のうち、最も多いのが「肥満細胞腫」です。これは、皮膚や粘膜、腸などに多く存在している免疫細胞「肥満細胞」が腫瘍化したもので、基本的に全て悪性です。ドーム状のできものができることもあれば、皮膚炎のように見えることもあります。大きくなったり小さくなったりすることもありますが、小さくなったからといって症状が改善しているわけではありません。早期に手術で取り切ることができれば、その後の経過は比較的良好です。

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メラノーマ

メラニン色素を作っている細胞「メラノサイト」も腫瘍化することがあります。良性のものをメラノサイトーマ、悪性のものをメラノーマと言います。

ホクロのような黒い斑点やしこりができるのが特徴ですが、中には茶褐色のものや無色なものもあります。メラノサイトは皮膚だけでなく口の中や眼球などにも存在しているので、口内や眼球にできることもありますが、毛の生えている皮膚にできたものは圧倒的に良性であることが多いです。良性の場合は手術で切除すれば、今まで通り元気に暮らせることがほとんどです。

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脂肪腫

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リンパ腫

リンパ腫はシニア犬によく見られる腫瘍の一つです。血液中に存在しているリンパ球(白血球の仲間)が腫瘍化したもので、全て悪性です。皮膚にできるリンパ腫の場合、最初は普通の皮膚炎のような症状が現れます。進行すると元気や食欲がなくなったり、全身の症状が出てくることもあります。また、リンパ節が腫れることもあり、顎の下や膝裏などの体の表面にあるリンパ節の腫れに飼い主さんが気付いて発覚することも多いです。手術で取り切ることができないので、抗がん剤治療がメインになります。

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組織球腫

組織球腫は良性腫瘍の一つですが、他の腫瘍と比べるとかなり変わった特徴があります。通常、腫瘍はシニア犬に多く見られるものですが、組織球腫はシニア犬でも発症するものの、3歳未満の若い犬に見られることが多いです。突然赤いドーム状のできものができるため、悪性腫瘍と思われるかもしれませんが、そのほとんどは良性で、1〜2ヶ月で自然に小さくなることが多いです。痛みはなく、犬がしこりを気にすることもまれです。

お家でできることはありますか?

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こまめなお手入れ

シニア犬は血行が悪くなり、新陳代謝も衰えるため、皮膚の状態が悪くなりがちです。ブラッシングやマッサージには血行促進の効果があるので、日々の習慣として取り入れてあげてください。毎日丁寧にスキンシップを図ることでしこりやできものを早く見つけることができますし、愛犬のストレス解消にも役立ちます。

また、定期的なシャンプーで皮膚の状態をできるだけ清潔に保ってあげることも大切。シニア犬に優しいシャンプーの仕方はこちらの記事にまとめているので、ぜひあわせてご覧ください。

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犬が気にするときは

積極的な治療が必要ない場合でも、イボやできものが大きくなってくると、犬が気にして噛んだり引っ掻いたりするようになることがあります。このような場合はできるだけ早めにかかりつけの獣医師に相談してください。必要に応じて防護服を着せたり、エリザベスカラーを巻いたりして、患部を保護してあげるとよいでしょう。

最後に

シニア犬になると皮膚にイボやしこりができやすくなります。治療が必要ないものもありますが、中には悪性腫瘍(ガン)の場合もあるので、異変に気づいた時は必ずかかりつけの獣医さんに診てもらいましょう。