【獣医師監修】ガン(癌)になった愛犬の痛みを和らげてあげるためにできること

犬も高齢になると、ガンにかかることが増えてきます。ガンの種類やできた場所によっては、ほとんど痛みが出ないこともありますが、中には痛みが強く出てしまうケースもあります。そんなとき、愛犬の痛みを和らげてあげるためにできることはあるのでしょうか?

ガンの治療では痛みのケアも非常に大切

愛犬のQOL(生活の質)について考える

愛犬が苦しそうにしている姿を見るのは、飼い主さんにとっても辛いことです。ガンと診断された愛犬にできるだけ穏やかな老後生活を過ごさせてあげるためには、ガンそのものの治療と並行して愛犬のQOL(生活の質)についてしっかり考えることも大切です。

痛みを和らげ、苦痛を取り除いてあげる方法もあるので、かかりつけの獣医さんと相談しながら、できるだけ愛犬が今まで通りの生活を送れるよう工夫してあげましょう。

治療をする上でも重要

ガンのせいで痛みが出てくると、思うように体を動かせなくなったり、しっかり睡眠をとることができなくなったり、ごはんを食べられなくなったりします。こうなるとどんどん体が衰弱してしまい、治療のために必要な体力がなくなってしまいます。治療に耐えうるだけの体力をつけ、がん細胞を押さえ込む免疫の力を高めることは、ガンと闘うために非常に重要です。ガンと闘う体づくりのためにも、できるだけ健康的な生活を送れるようきちんと痛みのケアをしてあげる必要があるのです。

 ガン(癌)になると痛みが出るのはなぜ?

ガンにかかったからといって、必ず痛みが出るわけではありません。ガンの種類やできた場所によっては、かなり進行してもほとんど痛みが出ないこともあります。痛みがあると犬は辛い思いをすることになりますが、その結果、飼い主さんがいち早く異変に気付けるきっかけにもなります。痛みが出たときは痛みと上手に付き合っていく必要があるので、まずはなぜ痛みが出るのかということを理解しておきましょう。

ガンそのものによる痛み

ガンは、体の命令を無視して無制限に増殖する異常な細胞(がん細胞)の集合体です。周囲に内臓や筋肉、骨などの組織があってもお構いなしに増殖し続けるため、やがて内臓や筋肉、骨などがガンに圧迫されたり傷つけられたりすると痛みを感じるようになります。

ただし、痛みがあるからといって必ずしもガンが進行しているとは限りません。ガンが発生した場所によっては、初期でも痛みが強く出ることがあるからです。痛みが強く出るケースとしては、神経を圧迫するような場所にがんができたとき、ガンが骨に転移したときなどが考えられます。

ガンの治療による痛み

ガンの治療には手術、抗がん剤投与、放射線療法がありますが、これらの治療によって痛みが生じることもあります。例えば、手術後に麻酔が切れると、縫合した箇所が痛くなりますし、抗ガン剤や放射線治療の副作用で口内炎、皮膚炎、腸炎などが生じると、痛みを感じることもあります。

体力の低下による痛み

闘病生活を送っていると、どうしても体を動かす機会が減ってしまうので、筋力が衰えたり関節がこわばったりして、その結果痛みが現れることもあります。また、長時間寝ていることで床ずれを起こして皮膚に痛みが出たり、消化管の働きが鈍って腹痛が現れることもあります。

愛犬の痛みのサイン、見逃さないで!

犬は人間のように、言葉で痛みを伝えることができません。中には痛みが出ていることを隠そうとする子もいるので、飼い主さんは愛犬の様子をしっかり見守り、違和感があるときはできるだけ早めに気付けるようにしておきましょう。

痛がっているのはどんなとき?

犬が痛みを感じているときは、行動に違和感が出ることがあります。シニア犬の場合はそもそもの運動量が少なく、異変に気づきにくいので、飼い主さんはいつも以上に気をつけて、痛みのサインを見逃さないようにしましょう。以下のような行動が見られたら注意が必要です。

<よくある犬の痛みのサイン>

  • 元気、食欲がない。
  • 動きたがらない、散歩に行きたがらない。
  • よろよろする、足をひきずるなど、歩き方がいつもと違う。
  • 背中を丸めた姿勢をよくとる。
  • 好きなものに興味を示さなくなる。
  • 体に触れると、うなったり体を固くしたりする。
  • 無気力になった、怒りっぽくなったなど性格の変化が見られる。
  • 呼吸が荒く、苦しそう。
  • 体のどこかをしきりに舐める。
  • トイレの失敗が増えた。

痛がる様子が見られたら

上記のような様子が見られたら、体のどこかに痛みが出ているのかもしれません。まずはかかりつけの動物病院に相談してみましょう。痛みは長い間我慢すると、より強く痛みを感じるようになり、鎮痛剤が効きにくくなってしまうこともあります。愛犬の行動に違和感が出たときは、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。

動物病院ではどんな治療をする?

ガンによって痛みが現れたときは、鎮痛剤を投与することで痛みをコントロールします。鎮痛剤にはいくつか種類があり、痛みの強さによって使い分けをします。痛みが軽度なときは「フィロコキシブ」「メロキシカム」などの鎮痛剤を使用しますが、さらに痛みが強くなってきたときは、「ブプレノルフィン」「トラマドール」などのようなもう少し強い薬を使用します。これらの鎮痛剤でも痛みを抑えられなくなったときは、モルヒネなどの麻薬性鎮痛剤を使うこともあります。

単独の鎮痛剤では用量を増やした時に副作用が強く出てしまうことがあるので、副作用を軽くする目的や様々な角度から鎮痛を行う目的で、複数の鎮痛剤を併用することもあります。

薬の投与方法もさまざまで、飲み薬、注射、座薬のほか、皮膚に貼るパッチタイプのものもあります。自宅で投与する場合は飲み薬が一般的ですが、吐き気などがあって内服薬を飲み込めない場合は、動物病院で注射してもらうこともあります。

人間用の痛み止めを与えるのは絶対にやめて

愛犬が痛がる様子を見かねて、自宅に置いてある人間用の鎮痛剤を与えてしまいたくなる飼い主さんもいるかもしれません。しかし、人間用の鎮痛剤を犬に与えるのは非常に危険です。中には中毒症状を起こしてしまう場合もあるので、自己判断で人間の薬を投与するのは絶対にやめましょう。

かかりつけの動物病院が空いていない時間帯に強い痛みが出てしまったときは、夜間でも対応してくれる救急病院に連絡してください。

ガン(癌)の痛みを和らげるためにできること

愛犬の痛みを和らげてあげるために、自宅でできることはたくさんあります。かかりつけの獣医師とよく相談しながら、無理のない範囲で取り入れてあげてください。

筋肉をあたためる

体を温めることで痛みが和らぐケースもあります。痛みのせいで筋肉が緊張してこわばると、血液の流れが悪くなり、血液中に老廃物や痛みの原因物質が溜まるようになります。そうすると痛みが悪化してしまうのです。血流をよくして筋肉の緊張をほぐすことができれば、痛みを和らげてあげることができるので、市販されている繰り返し使えるアイマスクなどを使って体を温めてあげましょう。

ただし、ガンがある場所を直接温めると、がん細胞を活性化させてしまう可能性があるので、患部を温めるのは避けてください。例えば、右後ろ足に痛みがあるなら、左後ろ足や前足を温めるとよいでしょう。

また、市販のカイロは低温やけどの可能性があるので、アイマスクなどのように高温にならないアイテムを選びましょう。ホットタオルは皮膚が湿ってしまうので、場所によっては皮膚の状態が悪くなるかもしれません。どんなアイテムを選べばいいか悩んだ時は、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。

尚、患部が熱を持っていたり、腫れがある場合には、温めるよりも冷やした方がいいです。どうしたらいいか悩んだら、かかりつけの獣医師の指示に従ってください。

マッサージも取り入れて

マッサージによって痛みを緩和することもできます。マッサージで血行が良くなると、痛みのもとになっている物質や老廃物の排出が促されるため、痛みが軽くなるのです。痛みがある部分は避け、その周囲をさするようなイメージで優しくマッサージしてあげてください。愛犬がどの部分を痛がっているのかわからない場合には、愛犬が気持ちよさそうにする箇所を探してマッサージしてあげるとよいでしょう。

シニア犬のためのマッサージのやり方、および注意点については、こちらの記事に詳しくまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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マッサージの効果は痛みを和らげるだけではありません。大好きな飼い主さんに体を触ってもらえると、愛犬はリラックスできますよね。精神を安定させ、コミュニケーションの一環にもなるので、ぜひ日々の中でマッサージを取り入れてみてください。

ただし、圧迫することで痛みが悪化してしまう場合もあるので、かかりつけの獣医師にマッサージをしてもいいかどうか確認してから取り入れると安心です。

漢方薬を試すのもオススメ

できる限りのケアをしてもなかなか痛みが取れない場合には、漢方薬を試してみるのもおすすめです。漢方薬は東洋医学に基づき処方される医薬品で、病院で処方される鎮痛剤など、西洋医学に基づく医薬品とは治療に対するアプローチが大きく異なります。今までなかなか症状が改善しなかったものの、漢方薬を取り入れた結果快方に向かったというケースもあるので、興味がある方はぜひ取り入れてみてください。

ただし、漢方薬だけでガンの治療はできませんので、まずはかかりつけの動物病院できちんと治療を受けましょう。そのうえで、漢方薬にも興味があるという方は、東洋医学や漢方薬に詳しい獣医師に相談してみるとよいでしょう。

漢方薬についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ合わせてご覧ください。

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寝床を見直して

ガンにかかった犬はどうしても寝ている時間が長くなります。ずっと同じ姿勢でいると筋肉が緊張したり関節がこわばったりして痛みが出ることがあります。また、特定の部位が圧迫された状態が続くと、その部分の血行が悪くなり床ずれを起こしてしまうので注意が必要です。

体の痛みや床ずれを予防するためには、ベッドの素材を一度見直してみてください。あまりに柔らかすぎるベッドは踏ん張りが効かず、体を起こしにくくなります。シニア犬の床ずれ予防については、こちらの記事も参考にしてください。

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食事の見直しも大切

愛犬がガンになったときは食事の管理も大切です。きちんと栄養が摂れていると体力がつき、治療がしやすくなったり、何よりもQOL(生活の質)の改善につながります。結果的に痛みを和らげることにも繋がるので、ぜひ食事内容も見直してみてください。

ガンと闘う体を作るため食事療法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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最後に

ガンにかかった愛犬が痛そうにしている様子を見るのは辛いですよね。しかし、痛みを和らげてあげるためにできることはたくさんあるので、まずはかかりつけの獣医さんに相談してみましょう。その上で、愛犬ができるだけ穏やかに過ごせるよう工夫してみてください。