犬も高齢になると、人間と同じようにガンにかかりやすくなります。ここでは獣医師監修のもと、犬のガンについてわかりやすく解説をしています。いざという時のために、ガンについて正しく理解し、早期発見・早期治療に繋げましょう。
犬の癌とは
現代の犬の死因で最も多い「ガン」。私たち人間にとっても身近な病気なので、漠然とした知識を持っている方は多いでしょう。ここではガンの原因やメカニズムについて解説していきます。
がん細胞はどうやって生まれるの?
犬の体は無数の細胞からできています。普通の細胞は体を成長させるためだったり、寿命を迎えた細胞に置き換わるために成長しますが、稀に細胞が突然変異し、体の命令を無視して無制限にどんどん増殖し続けることがあります。これががん細胞です。通常、がん細胞が生まれても体を守る免疫が退治してくれるのですが、年齢とともに免疫力が低下していくため、がん細胞が成長しやすくなるのです。免疫をすり抜けたがん細胞は、周りの細胞や組織を破壊しながら増殖し、そうして形成された細胞の塊を「腫瘍」と言います。
腫瘍には「良性」と「悪性」がある
腫瘍には「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」があります。ここではそれぞれの腫瘍の特徴を解説します。
悪性腫瘍
悪性腫瘍には三つの特徴があります。
- 自律性増殖:体の命令を無視して、止まることなく勝手に増え続ける。
- 浸潤と転移:大きくなるとき、周囲の細胞に滲み出るように広がる。そして体のあちこちに転移し、次々に新しいがん組織を作っていく。
- 悪質液:正常な細胞が摂取しようとする栄養を奪い取るため、体が衰弱する。
がん細胞が発生した臓器や組織によって「○○癌」「●●肉腫」のように呼び方が変わります。(胃癌、骨肉腫など)。
良性腫瘍
良性腫瘍も、悪性腫瘍と同じように「①自立性増殖」をしますが、「②浸潤と転移」と「③悪質液」がないのが特徴です。増殖のスピードも悪性腫瘍よりゆっくりで、外科手術で完全に切除すれば再発の可能性は一般的にはありません。ただ、腫瘍のできる場所によっては手術ができなかったり、外科手術によって愛犬に大きな負担がかかることもあります。
癌の診断ってどんな検査をするの?
疑われるガンの種類や発生部位によって検査の方法は異なりますが、主な検査法はレントゲンなどの「画像検査」と、細胞を採取して行う「がん細胞の特定」になります。血液やリンパ系のガンの疑いがある場合は、血液検査や骨髄検査をすることもあります。この他にも内視鏡検査や遺伝子変異検査など、ガンの種類に応じて様々な検査を行います。
画像検査
レントゲン、CT、MRI、エコーなどの画像検査や超音波検査によって体の状態を確認します。腫瘍がどのくらい大きくなっているのか、他の組織へ転移していないかを調べます。画像検査ではそれぞれ検出できるものが異なるため、がんの種類によって使い分け、複数の検査を組み合わせて行います。
がん細胞の特定
細い針を刺して細胞を採取し、細胞を検査する「細胞診」では、腫瘍かどうか、良性か悪性かなどを調べることができます。麻酔なしでできる上に痛みもあまりないので、犬への負担が少ないという点がメリットです。ただし、一部の細胞しか採取できないので診断率はあまり高くなく、腫瘍の種類によっては実施しないこともあります。リンパ腫や肥満細胞腫などの腫瘍は細胞診断で診断が可能です。
また、皮膚や内臓の組織の一部を切り取る「組織診」を行う場合もあります。針で採取するより診断精度は上がりますが、発生部位によっては全身麻酔が必要だったり、体調や部位によっては実施できない場合もあります。
癌の症状は?早期に発見するには?
ガンには様々な症状があります。同じガンでも発見時期によって完治率が大きく変わってきますので、起こり得る症状を飼い主さんが把握し、異常があったときにすぐに気付けるようにしておくことが大切です。
しこり・イボには注意
体にできたしこりやイボは腫瘍の可能性があります。シニア犬に多い悪性リンパ腫も、リンパ節が腫れることが一般的です。見た目では腫瘍かどうかの判断ができないので、異常に気づいたらすぐに動物病院に連れて行きましょう。体の表面だけではなく耳、鼻、口の中や肛門周囲もチェックしてあげてください。自宅でのスキンシップが早期発見の鍵になります。
慢性的な体調不良には精密検査を
元気や食欲がなくなってきたり、食べているのに体重が減っていくというのもガンの症状の一つです。体調不良が1~2週間以上続いたり、治ってもすぐ繰り返したりする場合もガンの可能性があるので、動物病院できちんと検査してもらったほうがいいでしょう。
癌の症状
ガンの症状は発生部位によって異なります。肺や心臓に腫瘍があれば呼吸困難の症状が現れますし、胃や腸に腫瘍があれば吐き気や下痢、血便などの症状が現れます。
ここではガンによって引き起こされる体調の変化をまとめています。これらの症状が出たからといってガンとは限りませんが、ガンの可能性もあるので動物病院へ連れていくことをおすすめします。
- 元気食欲・体重の低下
- 多飲多尿
- 咳・呼吸困難
- 鼻血・鼻づまり・くしゃみ
- いびき・鳴き声の変化
- 嘔吐・下痢・便秘
- 血尿・頻尿
- 痙攣
- ふらつき・麻痺
- 腹囲膨張
日頃から愛犬の様子をよく見ておく
人間の場合、自覚症状によってガンを発見できることが多いですが、犬は自覚症状を訴えられないため、飼い主さんが愛犬の変化に気付いてあげる必要があります。日常的に愛犬の様子をよく見て、しっかりスキンシップをとってあげてください。食欲の低下やふらつきなどの体調の変化が現れたときは、「老犬だから」という理由で片付けず、ガンの可能性も視野に入れてすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
癌の治療法にはどんなものがあるの?
ガンは発生部位や種類によって治療法が異なります。高齢になるとどの治療も体への負担が大きくなるので、かかりつけの獣医師としっかり相談して治療法を決めましょう。
手術
手術でがん組織を完全に取り切ることができれば、完治する可能性が高いです。そのため、初期の肥満細胞腫 (皮膚がんの一種)や転移を起こしていない乳がんなどでは手術をすることが一般的です。しかし、ガンが全身に転移していたり、脳のように手術が難しい場所に腫瘍ができていたりすると手術をしないこともあります。同じ腫瘍でも、ガンのステージによって手術が有効ではないこともあります。
また、リンパ腫のような血液系の腫瘍も手術で取り除くことができません。
抗がん剤治療
がん細胞を破壊する薬剤を抗がん剤と言います。点滴や注射をすることもあれば、内服薬で取り込むこともあります。抗がん剤はがん細胞を死滅させ、増殖を抑えることができるので、手術で取り切れないガンや血液系のガンに効果があります。様々な種類があり、ガンの種類や犬の体調によって使い分けます。ただし、がん細胞を破壊する力が強い抗がん剤は、その分健康な細胞にも影響が及びやすく、発熱や下痢、嘔吐などの副作用が強く現れる可能性も高くなります。抗がん剤による吐き気や下痢を予防するために様々な薬を利用できるので、愛犬の症状をみながら獣医師と相談して決める必要があります。
放射線治療
放射線治療はガンの病巣部に放射線を照射することで、がん細胞の成長や分裂を止め、腫瘍を退縮させることを目的とした治療法です。局所的に放射線を当てるので外科手術では切除困難な場所でも治療できます。しかし、種類によっては治療への反応が悪かったり、照射範囲外の腫瘍には効果がないため治療後に転移や再発の可能性が残ること、副作用を伴うなどのデメリットもあります。
また、日本では放射線治療を行う動物病院の数が少ないため、治療を始めるまでに時間がかかることも多く、さらに治療の度に全身麻酔が必要な場合が多いので、老犬にとっては大きな負担がかかります。
食事療法も大切
ガンと闘うためには日々の食事も大切です。栄養管理の重要性をきちんと理解しておきましょう。悪性腫瘍では、きちんと食べているのに痩せてしまうという現象(がん性悪液質)が起こるので、食事の成分に気を付け、「適切な栄養管理をすること」と「免疫力を上げること」が大切になります。また、食事療法を適切に行うことで副作用を軽減する効果も期待されており、生活の質の向上に繋げることができます。
癌の治療法はどう決める?
ガンには様々な治療法があり、どの治療法を選べばいいのか、獣医師としっかり相談した上で決める必要があります。
癌の治療費用は高額になりがち
犬のガン治療は高額になりがちです。内容にもよりますが手術は数万円~数十万円、抗がん剤は1回につき2万円~3万円程度、放射線治療は1回1万円~5万円程度かかると言われています。手術だけではなく通院費用や入院費用も必要になりますので、治療を始める前に獣医師と治療法だけでなく、費用についてもきちんと相談しておきましょう。
飼い主さんが納得できる治療法を
ガンの種類や進行度、犬の年齢によっては、手術や抗がん剤治療ができない場合もありますし、治療費が高額で手術を受けさせてあげられないこともあるでしょう。そのような場合は根治(完全に治すこと)を目指すのではなく、痛みの緩和を優先させるという選択肢もあります。手術や治療ができない場合でも、緩和ケアや食事療法で愛犬の生活の質を保つことはできます。
また、ガンの治療法はたくさんありますので、かかりつけの獣医師と納得するまで相談して最適な治療法を考えましょう。必要に応じてセカンドオピニオンを利用するのもおすすめです。最終的に、愛犬のために飼い主さんが納得できる治療法を選ぶことも大切です。
最後に
ガンには様々な種類があり、手術や治療で治らないものもあります。ただし、早期発見できればその分治療の幅も広がります。高齢になってきたら、今まで以上に愛犬の様子をしっかり見てあげてください。