犬も年をとると、徐々に視力が低下していきます。中にはほとんど目が見えなくなることもあるでしょう。そんなとき、飼い主さんがきちんとケアをしてあげれば、今までと同じような穏やかな暮らしを続けていくことが可能です。ここでは、目が見えない愛犬と暮らすときに知っておくべきことを、動物行動学に詳しい獣医師の菊池先生に伺います。
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犬の視力が低下すると、どんな変化が現れますか?
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犬は視覚よりも、嗅覚や聴覚に優れた生き物です。視力が低下しても、慣れ親しんだおうちの中やいつも通る散歩道などは、問題なく歩けることが多いです。そのため、飼い主さんが愛犬の視力低下に気付かないのも、珍しいことではありません。ただ、病気が原因で視力が低下しているのであれば、早急に適切な治療を受けさせてあげる必要があります。以下のような様子が見られたときは、一度かかりつけの獣医さんに診てもらうとよいでしょう。
- 散歩を嫌がる
- 物によくぶつかる
- 壁伝いに歩く
- ジャンプをしない
- 段差につまずく
- 階段の昇り降りが苦手になる
- 暗い場所を嫌がる
- 臆病になる
- 音に敏感になる
愛犬の目が見えなくなったとき、お部屋はどうしたらいいですか?
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部屋の配置は大きく変えない
犬は家具の配置や通り道を記憶していて、目が見えなくなったときは記憶の中の地図を頼りにして生活します。そのため、愛犬の目が見えなくなってから部屋の配置を大きく変えるのはやめましょう。模様替えや引っ越しなどで環境がガラリと変わってしまうと、犬はどこに何があるのかわからなくなり、大きなストレスを感じてしまいます。
環境を整える
犬がよく通る場所に荷物を置くのもやめましょう。目が見えていないと荷物があることに気づけず、ぶつかって怪我をしてしまうことがあります。段差につまづくようになったらスロープを設置してあげたり、ちょっとした溝はタイルカーペットで覆ってあげたりして、環境を整えてあげてください。
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<ワンポイントアドバイス>
- 通り道にコード類を置かない。片付けられないときはテープでとめるなどの工夫を。
- トイレトレーを使用している場合は、段差のないトイレトレーに変えてあげて。
- 暗い場所が見えづらいのなら、常夜灯を活用する。
- 体が小さい子の場合、小動物用に作られたスロープも使える。
ぶつかり防止策
目が見えなくなると色々な場所にぶつかるようになります。家具の角にぶつかって怪我をするかもしれませんし、痛い思いをすることで犬がナーバスになってしまうこともあります。痛みや恐怖がきっかけとなり、「分離不安症」という心の病気を発症することもあるのです。
ぶつかっても大丈夫なように、環境を整えてあげてください。
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<ワンポイントアドバイス>
- 家具の角や曲がり角には緩衝材をつける。
- ぶつかることが多い場合は保護帽を被せる。
専用のお部屋を作ってあげるのもおすすめ
仕事や家事などで愛犬のことを見守ってあげられないときは、安全なお部屋を作って、そこに愛犬を入れてあげるのもおすすめです。実際にシニア犬と暮らす飼い主さんが、愛犬のための作ったお部屋をいくつかご紹介します。
■子供用のビニールプール
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こちらの飼い主さんは子供用のビニールプールを愛犬専用のお部屋として活用されています。ビニールプールなら転んでもぶつかっても痛くないですし、お粗相をしたときもお手入れが簡単。子供用のビニールプールはサイズも豊富なので、愛犬の体の大きさに合わせて選べるのもいいですね。底が滑りやすいものもあるので、滑り止めを敷いてあげるといいでしょう。
■柔らかい円形サークル
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柔らかいナイロンでできた円形のサークルを、愛犬のお部屋にしている飼い主さんもいました。側面が柔らかいので、ぶつかっても大丈夫。トイレの失敗が増えた時のために、防水素材を選ぶとよいでしょう。折りたたみできるのも嬉しいポイントです。
■ケージ×クッション
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体が大きい子や歩き回る体力がある子の場合は、ケージや柵を使って広めの専用スペースを確保してあげるとよいでしょう。内側にクッションをつけてあげれば、ぶつかっても痛くありません。
■お風呂マット
浴室の中に敷くお風呂マットをリメイクして、愛犬のお部屋を作っている方もいました。お風呂マットはクッション性が高いので、目が見えない子に優しい素材と言えるでしょう。マットを繋げて丸めたり、カットしてケージに貼り付けてもよいでしょう。
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普段の生活で注意すべきポイントはありますか?
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お皿の見直しを
愛犬の視力が低下してきたときは、食事環境も見直してみてください。目が見えていないと、犬はごはんの匂いを頼りに器の場所を探そうとします。
食欲旺盛でガツガツ食べる子の場合、勢いよく突進してお皿をひっくり返してしまうことがあります。そのようなときは、お皿をしっかり固定できる食事台を使ったり、ズレにくいお皿を選んだりするといいでしょう。
一方、目が見えないことで音に敏感になり、食欲不振に陥ってしまう子もいます。陶器やステンレス製の器に歯が当たって「キン!」と鳴るのが怖くて、食べられなくなることがあるのです。このような場合は柔らかいシリコン製のお皿などに変えてあげると、ストレスなく食事時間を楽しめるようになるでしょう。
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心のケアも大切
目が見えなくなった愛犬に触れるときは、びっくりさせないような工夫が必要です。マッサージやブラッシングなどで愛犬とスキンシップをはかるときは、いきなり触ったりしないで、まずは愛犬の近くに移動して「これから撫でるよ」と伝えてあげるようにしましょう。また、目が見えていない子の口元にいきなりおやつを持っていくのもやめたほうがいいです。びっくりさせてしまうこともありますし、食べ物と飼い主さんの手の区別がつかないので、食べ物の匂いがした途端に本気で噛み付いて、飼い主さんを傷つけてしまう可能性があります。必ずそばにいって声かけをし、愛犬の様子を見ながら与えてください。
それから、音に敏感な子の場合は、掃除機などの大きな音がするものはできるだけ近くで使わないように気をつけて。掃除機をかけるときは、愛犬を他の部屋に移動させてあげるなど、工夫してあげましょう。
目が見えなくなってもお散歩は楽しめますか?
(画像:Instagram / @toshi.3mama )
目が見えなくても、今まで通りお散歩を楽しんでいる子は多いです。ただ、いくつか注意点があるので、ポイントを押さえておきましょう◎
太陽光に注意
視力が低下すると、暗い場所はさらに見えづらくなります。できるだけ明るいうちにお散歩に連れて行ってあげましょう。反対に、直射日光が苦手な子も多いです。日差しが強いと歩けなかったり、日向と日陰の境界を怖がったりするような時は、太陽光が原因かもしれません。また、太陽光に含まれる紫外線は白内障などの病気を進行させることもあるので注意しましょう。
日陰のルートを選んであげたり、日差しが和らぐ時間帯を選んであげたりすると、元気よく歩いてくれることもあります。愛犬が嫌がらないようであれば、つばの長い帽子やサングラスなどで太陽光を防いであげるのもおすすめです。
障害物に注意
犬は目が見えなくなっても、歩き慣れたお散歩道であれば問題なく歩けることが多いです。しかし、予期せぬ障害物に気づくことはできません。縁石にぶつかって怪我をしてしまったり、木の枝やとがった葉の先で目を傷つけてしまったりすることもあります。お散歩に行くときは今まで以上にしっかり見守ってあげ、危ないときはすぐにレスキューしてあげましょう。目を保護してくれる帽子もあるので、気になる方は愛犬にあう帽子を探してみてください。
また、人通りや車の往来が激しい場所は落ち着いて歩けないので、そうしたところは抱っこやカートで移動し、ゆっくり歩けるところまで連れて行ってあげるのもよいでしょう。
イエロードッグプロジェクト
欧米を中心に広がりを見せている「イエロードッグプロジェクト」をご存知ですか?日本ではまだあまり知られていませんが、愛犬の首輪やリードに黄色いリボンをつけてお出かけすると、「うちの子のことはそっとしておいてね。」という意思表示になります。視力が落ちて色んなことを怖がるようになったり、年齢的にワクチン接種ができなくなったりした子は、お出かけの際に黄色いリボンをつけてあげるといいかもしれませんね。
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その他、目が見えない子たちの飼い主さんがお散歩を楽しんでもらうために実践しているアイデアをこちらの記事にまとめました!ぜひあわせてご覧ください♪
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【編集部Choice!!】目が見えない愛犬を守るおすすめアイテム
(画像:Instagram / @moyumori )
目が見えない愛犬との暮らしをサポートしてくれるアイテムがあるので、そういったものも上手に活用しながら環境を整えてあげましょう。
緩衝材
■ペット用ごっつん防止シート
壁面に貼るだけで使える、1.5cmの厚みがあるシートです。廊下の曲がり角やよくぶつかる壁面に貼ってあげると、柔らかいシートが愛犬を守ってくれるでしょう。最大60cmまで伸びるので、用途に合わせて使いやすいと思います◎
■Findbetter コーナーガード
赤ちゃんがいるお家でも使える安心安全な素材でできたコーナーガード。家具の角や階段などに取り付けておくと、愛犬の怪我を防いでくれます。カラー展開が豊富なので、インテリアに合わせて選べるのも嬉しいですよね。
■プチプチ
割れ物などを包むプチプチを活用するのもおすすめです。椅子や机の足に巻いてあげるとぶつかったときに痛くありません。宅急便などに入っているプチプチを活用してもいいですし、ネットなどで購入してもよいでしょう。
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こっつん防止ガード
■盲目犬リング
壁や家具などの障害物から、愛犬の頭や目を守ってくれるリングがついたハーネスです。帽子を嫌がる子やいろんな場所にゴツゴツぶつかるようになった子におすすめ。リードを取り付けることもできるので、装着したままお散歩にも行けます。
■マフィンズヘイロー
デザイン性にこだわるなら、マフィンズヘイローがおすすめです。カラーはホワイトとカモの二色があり、特にホワイトは正面から見ると天使の輪っかのような雰囲気に。サイズはXXS、XS、S、M、Lの5種類あるので、愛犬のサイズに合うものを選んであげてください。
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■ドッグバンパー
ぶつかり防止リングが付いたハーネスは、サイズが合っていないとリングがうまく機能しなかったり、愛犬がつけるのを嫌がったりすることがあります。心配な方はオーダーメイドのハーネスを使うとよいでしょう。ドッグバンパーは金額が少し高めですが、愛犬にぴったりのサイズで作ることができます。
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帽子
愛犬が嫌がらないなら、帽子を被せてあげるのもおすすめです。つばのついたキャップ型の帽子であれば、日差しや障害物から愛犬の目を守ってくれます。最近はオーダーメイドで作ってくれるところもあるので、そうしたアイテムをうまく活用してください。
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最後に
愛犬の視力が低下していることに気づいた時、ショックを受ける飼い主さんもいると思います。けれど、もし犬自身が不安を感じている時に飼い主さんまで暗くなっていると、犬はより大きな不安を感じてしまいます。愛犬の前ではできるだけ明るく前向きに振る舞い、愛犬を安心させてあげてください。