老犬が徘徊する原因と、徘徊が始まったときの対処法について

シニア犬になるとお部屋の中をウロウロと歩き回るようになることがあります。なぜ徘徊するようになるのでしょうか?愛犬が徘徊しているとき、飼い主さんはどう対処してあげればいいのでしょうか?ここでは動物行動学に詳しい獣医師の菊池先生に、シニア犬の徘徊について詳しくお話を伺います。

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老犬の徘徊

シニア犬になると「お水を飲みにいく」「トイレに行く」という明確な目的がないのに、部屋の中をウロウロと歩き回るようになることがあります。日中、落ち着きなく歩き回ることもありますし、夜中になると徘徊を始めることもあります。

老犬が徘徊する理由

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愛犬が歩き回るのを見て「ボケてきたのかな」「認知症かな」と考える方は多いでしょう。しかし、犬が徘徊する理由は様々で、複数の要因が重なっていることもあります。ここではシニア犬が徘徊するようになる理由を解説します。

徘徊する理由① 不安やストレス

シニア犬になると今までできていたことが徐々にできなくなっていきます。目が見えにくくなったり、体が思うように動かせなくなったりすると、犬自身も不安やストレスを感じやすくなります。そうした不安を紛らわせるため、気持ちを落ち着かせるために、ウロウロ歩き回るようになるのは珍しいことではありません。逆に、なにかびっくりするようなことがあって、パニックに陥って歩き回っていることもあります。

徘徊する理由② 病気が原因なことも

人間の場合、認知症を発症したお年寄りが徘徊することが多いため、「徘徊=認知症」と思われる方もいるかもしれませんね。しかし犬の場合、徘徊を引き起こす病気は非常にたくさんあります。病気によって治療法が異なるので、まずは何が原因で徘徊を引き起こしているのか、かかりつけの獣医さんに診てもらう必要があります。

老犬が徘徊するとき考えられる病気

認知症(痴呆)

認知症は人間だけでなく犬にも見られる病気です。詳しいことはまだあまりわかっていませんが、年齢とともに脳神経や自律神経がうまく機能しなくなる病気で、徘徊や夜鳴きなどの症状が現れます。認知症は放っておくとどんどん進行します。残念ながら治療法は確立されていませんが、病気の進行を遅らせることはできるので、できるだけ早めに治療を開始することが大切です。犬の認知症の症状や治療法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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脳腫瘍

シニア犬になると免疫力が低下し、腫瘍ができやすくなります。脳に腫瘍ができる脳腫瘍は、シニア犬に比較的よく見られる病気の一つ。初期症状が現れないことが多いですが、病状が進行すると様々な神経症状が現れるようになります。激しい痙攣発作を起こしたり、グルグル旋回するように歩き続けたり、ふらつきなど歩き方に違和感が出るようになることもあります。犬の脳腫瘍の治療法や介護の仕方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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てんかん

周期的に発作が起きるてんかんは、脳内に異常な興奮が起きることにより、痙攣や意識障害などの症状が現れる病気です。若い頃に発症することもあれば、シニア犬になってから発症することもあります。

激しい全身発作が起きる場合もありますし、体の一部だけがピクピク痙攣することもあります。発作が起きた後にウロウロと落ち着きなく歩き回ることもあります。愛犬がてんかん発作を起こしたときの対処法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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前庭疾患

前庭疾患はシニア犬に比較的よく見られる病気の一つで、平衡感覚を司っている「前庭」という部分に異常が起きる病気です。首がガクッと傾いてしまったり(斜頸)、円を描くようにグルグルと歩き続けたり(旋回)するほか、嘔吐や食欲不振などの症状が現れることもあります。

シニア犬の場合、耳の奥にある三半規管などに原因不明の異常が起きて発症することが多いですが、そのようなケースでは特に治療をしなくても、数日〜数週間で症状が改善することが多いです。ただ、中耳炎や外耳炎などの耳の炎症によって前庭疾患を発症することもあるので、愛犬の行動に異常が見られたら、まずはきちんと動物病院で診てもらうようにしましょう。

その他

関節疾患や椎間板ヘルニアのように、動いた時に痛みが出る場合は、あまり動きたがらないことが多いです。しかし、病気などが原因で慢性的に痛みを感じるようなときは、痛みを紛らわすために歩き回ることもあります。

老犬が徘徊を始めたらどう接するべき?

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まずは動物病院へ

病気が原因で徘徊しているのであれば、できるだけ早めに適切な処置をしてあげる必要があります。また、慢性的な痛みのせいで落ち着けないでいるのなら、病気の治療と並行して痛みのケアをしてあげることで、愛犬のQOL(生活の質)を改善させることができるでしょう。

ストレスや不安が原因となっている場合でも、改善のアドバイスをもらえることもあるので、まずはかかりつけの獣医さんにきちんと診てもらってください。その際、徘徊しているときの様子を動画におさめておくと、診断する際の助けになります。

無理に止めるのはNG

高齢になった愛犬がウロウロ歩き回っているのを見て、「体力を消耗してしまうのでは?」と不安になる飼い主さんもいるでしょう。しかし、だからと言って無理に抱き上げたり、歩くのをやめさせようとしてはいけません。病気が原因で徘徊しているのなら、病気の治療をすることが大切ですし、歩き回ることで自分を落ち着かせようとしているのなら、無理に止めてしまうと余計ストレスになってしまう可能性があります。特にてんかん発作の後に徘徊している場合は、下手に刺激を与えないよう気を付けましょう。さらなる発作を誘発してしまう恐れがあります。

老犬が徘徊するときは環境を見直して

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シニア犬が徘徊するようになったときは、家具にぶつかって怪我したりしないよう、居住環境を見直してあげましょう。できるだけ落ち着ける場所を整えてあげてください。

家具の配置をチェック

シニア犬が徘徊するとき、机やソファーなどの家具にゴツゴツぶつかりながら歩くことがあります。怪我の原因となるので、余計な荷物を片付けたり、家具の角に緩衝材をつけてあげるようにしましょう。

また、シニア犬は後ろ歩きが苦手になって、家具の隙間に挟まって身動きが取れなくなることがあります。机と椅子の間、ソファーと壁の隙間など、愛犬が挟まりやすい場所にはクッションを置くなどして、挟まらないように対策をしてあげてください。意外なところで身動きが取れなくなってしまうこともあるので、愛犬が歩き回っているときはできるだけ見守ってあげるようにしましょう。

 

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歩行に優しい環境づくり

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車椅子もおすすめ

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お留守番のときは丸型サークルへ

愛犬の好きなように歩かせてあげたいと思っていても、一日中つきっきりで見守ることは難しいですよね。目を離したすきに何かにぶつかったり、段差につまづいて転んでしまったり、家具の間に挟まって身動きが取れなくなったら大変です。家事をしているときや、仕事や買い物などで外出するときは、愛犬が安全に動ける領域を作ってあげて、お留守番の間はその中で過ごせるようにしておくと安心です。柔らかい円形のサークルなどに入れてあげるとよいでしょう。

夜中に徘徊して寝ないときの対策

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シニア犬になると、夜寝てくれなくなることがあります。夜中にウロウロ徘徊し続けたり、家具の間に挟まって助けを求めて鳴かれたりすると、飼い主さんも不安で眠れなくなってしまいますよね。

日中しっかり運動させて

シニア犬は体内時計が乱れて昼夜逆転してしまうことがあります。一晩中徘徊したり夜鳴きをしたりして、明け方になると眠りにつき、日中ぐっすり眠るようになるのは珍しいことではありません。そんなときは、逆転してしまった生活リズムを元に戻す必要があります。

朝きちんと太陽の光を浴びせて、日中も無理のない範囲で運動させてあげましょう。お家の中では歩きたがらなくても、お外に出ると歩いてくれることもあります。愛犬が楽しく運動できるよう上手に遊びに誘ったり、ノーズワークマットを使って嗅覚を刺激したりしてみましょう。

リラックスさせてあげる

夜なかなか寝付けないときは、体を優しくマッサージしてあげたり、一度抱っこでお外へ連れ出して夜風にあててみたりして、気持ちを落ち着かせてあげるといいでしょう。マッサージには血行を促進する効果もあるので、日々のケアにぜひ取り入れて。マッサージのやり方や注意点はこちらも記事で詳しく解説しています。

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また、しっかり物を噛める子の場合、かためのガムやジャーキーなどをかみかみさせてあげると落ち着いてくれることもあります。

鍼灸もおすすめ

鍼灸は東洋医学の一つで、不眠や冷え、関節の痛みなど、さまざまな体の不調を改善してくれると言われています。体が本来持っている力を引き出し、健康な状態へと導いてくれるものなので、大きな副作用がなく、シニア犬に優しい治療法と言えます。最近は犬に鍼灸をする獣医師も増えてきました。犬の鍼灸についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

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サプリや薬の効果について

認知症が原因で夜中徘徊している場合には、睡眠導入剤などの薬やサプリメントを使用することがあります。サプリメントは症状が悪化する前に飲むといいのですが、強い薬に頼ることに抵抗があるときはサプリメントから始めることもあります。

睡眠導入剤は、大きく分けて「①効き目が強力で副作用が大きいタイプ」と「②効き目に個体差があるものの副作用の少ないタイプ」の二種類があります。①のタイプは認知症をさらに進行させてしまうリスクがあるので、かかりつけの獣医さんにしっかり相談しながら、愛犬にとって最適な方法を選んであげましょう。

こちらの記事では、シニア犬が寝てくれない時の対策、他の飼い主さんたちが眠ってもらうために実践しているアイデア、睡眠導入剤の詳しい情報についてご紹介しています。

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徘徊する愛犬と快適に暮らすためのアイデア

QooppyのInstagramでは、シニア犬と暮らしている飼い主さんたちのリアルな情報を集めてご紹介しています。ここでは、歩き回る子のために飼い主さんたちが実践されているアイデアをいくつかご紹介しましょう。

ビニールプール+滑り止め

 

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こちらの飼い主さんは、お留守番のときだけ子供用のビニールプールに入っててもらうことにしているそうです。そのままだと滑ってしまうので、底に滑り止めを敷いているそう。プールの壁にぶつかったとしても、柔らかいので怪我をしなくてすみますし、使わないときは畳んでしまっておけるのでいいですね◎

円形の柔らかいサークルを活用

 

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ビニール素材でできているサークルなら、ぶつかっても怪我をしなくて済みますよね。ただ、この子はせっかく飼い主さんが準備してくれたサークルが気に入らず、中に入ってからも大暴れだったそう。

ずっと自由に暮らしていると、サークルに入るのを嫌がることもあります。元気なうちから少しずつ練習できたらいいですね。

愛犬のための専用ルーム

 

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愛犬のために、クッションで仕切りを作って専用のお部屋を作っているという飼い主さんもいました。家具とクッションで愛犬のためのスペースを作り、床にはトイレシートを敷き詰め、上から滑らないようバスタオルをかぶせてあげているそうです。足腰が弱ってくるとトイレシートも滑るようになるので、すぐに洗えるバスタオルをかぶせてあげるのは素敵なアイデアですね!

ただ、後ろ歩きが苦手な子の場合は円形サークルやビニールプールの方が安心です。愛犬の状態に合わせて、環境を整えてあげてください。

【番外編】思い詰めないことも大事

 

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愛犬がウロウロ歩き回っているのを見ると、飼い主さんも不安になりますよね。「どこか体が痛いのかな。」「ついに徘徊が始まったんだろうか…。」と、暗い気持ちに引っ張られてしまうかもしれません。

この飼い主さんは、愛犬が歩き回る様子を『自主トレと徘徊の狭間』と呼んでいて、前向きに見守ってあげているそう。「徘徊」というとどうしても暗い方向に考えがいってしまいますが、自主トレって考えるとなんだか可愛いですよね♡

シニア犬の介護は、飼い主さんの方が精神的にも体力的にもまいってしまうことが多いです。困ったときは一人で抱え込まず、かかりつけの獣医さんにも相談しながら、できるだけ思い詰めないように工夫をすることも大切ですよ◎

最後に

愛犬が高齢になって歩き回るようになったときは、原因を把握するためにもまずはかかりつけの獣医さんにきちんと診てもらいましょう。診察をしてもらった上で、他の飼い主さんのアイデアも上手に活用しながら、愛犬がいつまでも快適に暮らせる工夫ができるといいですね。