【老犬のてんかん】症状や対策をわかりやすく解説◎

周期的に発作が起きるてんかんは、人間だけでなく犬にも発症する病気です。ここでは、犬のてんかんに詳しい獣医師の菊池先生に、シニア犬のてんかんの症状や原因、抗てんかん薬の効果や副作用について詳しく伺います。 

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犬のてんかんとは

そもそもてんかんとは

脳を構成している神経細胞は、お互いに電気的なシグナルを発して情報をやり取りしています。通常、脳の内部には緩やかな電気シグナルが規則正しく流れていますが、突然激しい放電が起こり、電気的な乱れが起きることがあります。これが「てんかん」です。

てんかんでは、激しい脳波の乱れによって痙攣や意識障害など様々な症状が現れます。てんかんによって現れる発作を「てんかん発作」と言います。

てんかんの原因

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てんかんには、脳にはっきりとした原因が認められないのに周期的にてんかん発作が起きる「特発性てんかん」と、脳の外傷や脳腫瘍などの病気によって引き起こされる「症候性てんかん」の2種類があります。

はっきりした原因が認められない「特発性てんかん」は遺伝的な要因が強く、1歳前後~5歳で発症することが多いです。投薬による治療がうまくいっていれば重症化することはほとんどなく、年齢とともに症状が落ち着いてくるケースもあります。

一方、シニア犬になってから初めててんかん発作を起こした場合は、症候性てんかんであることが多いです。脳腫瘍などの病気によって脳内に異常な興奮が起き、発作が現れている可能性が考えられます。

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てんかんの症状とてんかん発作

てんかんの症状は?

てんかん発作は大きく「焦点性発作」と「全般発作」に分けられます。

焦点性発作は脳の一部の電気的興奮によって引き起こされる発作で、脳のどこで興奮が起きたかによって症状が異なります。体の機能に関する部分が興奮すれば、体の一部だけ痙攣しますし、意識に関する部分が興奮すれば、意識消失、大量のよだれ、瞳孔が開く、などの症状が見られます。

一方、脳全体に電気的興奮が起きている「全般発作」では、全身が激しく痙攣します。寒さや恐怖で体がブルブル震えているのとは全くの別物で、意識がないことがほとんどです。瞳孔は開き、失禁したり泡を吹いたりすることもありますし、奇声を発することもあります。

動画で見るてんかん発作

こちらは全般発作が起きている様子を動画におさめたものです。

激しい症状に飼い主さんも大きなショックを受けると思いますが、多くのてんかん発作は数秒~2、3分、長くても5分で自然に消失します。

発作の前後に異変が現れることも

てんかん発作が起きる前、犬が普段と違う行動をすることがあります。突然震え出す、いきなり倒れる、急に動きが止まるなどは、てんかん発作の前兆として代表的なものです。また、てんかん発作の後に異変が起きることもあります。激しい発作を起こした後にケロッと元通りになることもあれば、発作が起きた後、しばらく意識が朦朧としたり、落ち着きなく徘徊したりすることもあります。発作が起きた後、なかなか通常の様子に戻らないときはかかりつけの動物病院に連絡して指示を仰ぎましょう。

発作が起きる頻度とタイミング

どれくらいの頻度でてんかん発作が起こるかは、個体によって大きく異なります。数年に1回の頻度で発作が起きるケースもあれば、月に何度も発作が起きることもあります。一般的には、「1ヶ月に1回以上、もしくは3ヶ月に2回以上の頻度でてんかん発作が見られる」というのが、治療開始の一つの目安になっています。

また、その日の体調や気候、「インターホンが鳴る」「家族が帰宅して興奮した」などのような特定の要因によって、てんかん発作が誘発されることもあります。てんかん発作が起こったときの対処法については後述しますが、どのような体調や状況、環境で発作が起きることが多いのかを把握しておくことは、発作の予防にとても重要です。

似たような症状が現れる病気

てんかん以外にも、てんかん発作と似たような症状を示す病気があります。例えば、シニア犬に多い腎臓病や心臓病などを患っていると痙攣が起きることがあります。また、中毒物質を誤飲したときや熱中症にかかったときも痙攣することがあります。

これらはいずれも緊急を要する事態で、命に関わる危険があります。以下のようなケースでは早急な処置が必要になるので、すみやかに動物病院を受診してください。

  • 痙攣を起こす前から具合が悪そうだった。
  • 痙攣以外にも食欲不振、嘔吐、体重減少など他の症状が見られる。
  • 痙攣がおさまった後もぐったりして元気がない。
  • 10分以上痙攣が続いている。
  • 腎臓病、心臓病、肝臓病など治療中の病気がある。

犬のてんかんで必要になる検査

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治療前に必要な検査

発作が現れたとき、動物病院ではまず、発作の原因が脳にあるのかどうかを調べます。問診と身体検査の他に、神経学的検査によって犬の状態を確認します。神経学的検査では、呼びかけに対する反応や歩き方、静止時の体のバランスなど様々な項目をチェックしながら神経の反射や知覚、動きなどに異常がないかを調べます。

特発性てんかんの場合、現れる症状はてんかん発作だけですが、脳腫瘍などが原因となっている症候性てんかんの場合は発作以外にも様々な神経学的な異常が認められることがあります。また、脳以外に原因がないか調べるために血液検査や尿検査を行うこともあります。

ここまでの検査でおおまかな診断はできますが、さらに詳しい検査が必要な場合はMRI検査や脳脊髄液検査、脳波の検査などを行います。

老犬が注意したいポイント

MRI検査や脳脊髄液検査、脳波の検査などは、一般的には全身麻酔が必要になります。特に高齢の子や持病がある子は、呼吸困難、血圧低下など、全身麻酔による副作用のリスクが高くなります。全身麻酔をかけて検査をしても何も異常が見つからない、という可能性もありますし、脳腫瘍が見つかったとしても手術するのは難しい、という可能性もあります。精密検査を受けるべきかどうか、かかりつけの獣医師としっかり相談してから決めましょう。

犬のてんかんの治療について

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投薬による治療がメイン

てんかんと診断されたら、投薬による治療が基本です。原因がはっきりしない特発性てんかんの場合は、抗てんかん薬を長期的に服用することでてんかん発作を予防・軽減します。

一方、シニア犬で発症することが多い症候性てんかんの場合は、てんかん発作の原因となっている病気を治療することが大切です。ただし、脳腫瘍などの疾患を治療するのはとても困難で、症状を和らげる緩和治療が選択されることも多いです。そのような場合は抗てんかん薬を投与して、できる限りてんかん発作が起きるの防ぎます。

てんかんは治る?

抗てんかん薬はてんかんを治すための薬ではなく、てんかん発作の頻度を減らしたり、1回のてんかん発作の程度を弱くしたりするためのものです。そのため、特発性てんかんの場合は生涯に渡って抗てんかん薬の投与が必要となるケースが多いです。

ただし、年齢を重ねるにつれて症状が軽くなっていくこともあります。犬の状態や体調にもよりますが、6ヶ月間程度てんかん発作が起こっていない場合は、獣医師の指示に従って抗てんかん薬を少しずつ(最低でも1ヶ月かけて)減らして様子を見ていくのが一般的です。薬を減らして問題がなければ、抗てんかん薬はこれ以上投与しなくてよいと判断されるケースもあります。

一方、脳の障害によって引き起こされる症候性てんかんの場合、元の疾患を完治させることができれば、てんかん発作もおさまります。

てんかんの薬について

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てんかんの治療で使われる薬

てんかん発作は、まず脳の神経細胞に過剰な電気的興奮が起こり、その乱れが脳内へ拡張していくことによって起こります。抗てんかん薬には、最初に起きる興奮を抑えるタイプと、興奮の広がりを抑えるタイプがあります。どちらのタイプの薬を使うかは、てんかん発作の種類や症状などにより判断されます。発作が重症のときは、発作の最中に発作を鎮めるための注射薬や坐薬を使用することもあります。

尚、抗てんかん薬は効果や副作用の現れ方が個体によって大きく異なります。薬の効果を確認するために投薬を開始した後、定期的な通院が必要になります。そうして治療効果があり、なおかつ副作用が少ない、その子にとって最適な薬の種類や用量を決定していきます。

抗てんかん薬の副作用について

抗てんかん薬は薬の種類にもよりますが、ふらつき、多飲多尿、食欲の亢進や減退、吐き気などの副作用があります。投薬を開始してから1~2週間は副作用が出やすいので、愛犬の様子を注意して見守ってください。副作用が出ても次第におさまっていくことが多いので、しばらく様子を見て問題がなければ投薬を続けますが、あまりにも初期の副作用が強いと休薬する場合もあります。副作用が現れたときは必ずかかりつけの獣医さんに伝えましょう。

また、抗てんかん薬は継続的な投与が必要なケースが多いため、長期投与することで肝臓障害が出る場合もあります。肝臓はダメージを受けても症状がほとんど出ないため、定期的に血液検査をして肝機能をチェックする必要があります。

投薬を自己判断でやめるのは危険

「てんかん発作がしばらく起こっていないから」「副作用が出ていてかわいそうだから」という理由で、飼い主さんの自己判断により投薬を中止するのは非常に危険です。抗てんかん薬がないと、脳は電気的な興奮をコントロールできなくなります。いきなり投薬を中断することでそれまで抑えていた興奮が一気に広がって激しい発作を起こす可能性もあります。

また、激しい電気の乱れによって脳の組織が傷つけられると、さらにてんかんが起こりやすくなるという悪循環に陥ります。投薬について不安があるときは必ずかかりつけの獣医師に相談しましょう。絶対に自己判断で中止してはいけません。

薬を飲み忘れたときはどうすべき?

抗てんかん薬を飲み忘れたときは、あわてて動物病院を受診する必要はありませんが、念のためかかりつけの動物病院に電話をして指示を仰ぎましょう。飲み忘れた分をまとめて投与するようなことはしないでください。

てんかんと上手に付き合っていくために

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発作が起きたらどうする?

てんかん発作が起きたら、大声で名前を呼んだり体を揺らしたりせずに、落ち着くまで見守ってあげてください。発作中に愛犬が体をぶつけてケガしないよう、周りのものを片付けます。また、動物病院を受診した際に獣医師に発作中の様子を正確に伝えられるように動画を撮影しておくとよいでしょう。

また、以下のポイントを記録しておくと、診察する際の助けになります。

  • 発作が起こった日時と時間帯
  • 発作が始まってから終わるまでの時間
  • どんな症状が現れたか(嘔吐、泡を吹く、意識消失など)
  • 発作が起こる前後の行動や様子
  • その日の室温や気候
  • 発作を起こす前に食べたもの
  • その他、愛犬の様子を何か見て気づいたこと

発作後に徘徊するときはどうする?

てんかん発作のあと、犬が家の中を徘徊することがあります。意識がもうろうとした状態でウロウロしているときもあれば、意識はすでに戻っていて、犬自身が自分を落ち着かせるために歩き回ることもあります。

発作後に徘徊しているときはすぐに触ったり抱き上げたりせず、愛犬が落ち着いて普段の様子に戻るまで見守りましょう。触ったり抱っこしたりすると、その刺激が再び発作を誘発してしまう可能性があります。ただ、犬の方から近寄ってきたときは、優しく声をかけたり、体をなでて落ち着かせてあげるとよいでしょう。

お家でできること

まずは、毎日の抗てんかん薬をしっかり継続して投与しましょう。これが、てんかん発作を予防する最善策です。

また、発作を引き起こす特定の要因が考えられる場合は、できるだけその条件が揃わないようにすることも発作の予防に繋がります。例えば、家族が留守にしていて帰宅後に発作が起こりやすいのなら、帰宅時に犬が興奮しないよう、大きな声で愛犬を呼んだり思いっきり可愛がったりせず、冷静に振舞うことである程度予防できます。

他にも、興奮状態が続くと発作が起きる可能性が高くなるので、犬が落ち着いて過ごせる場所を確保してあげることも大切です。

こんな時はすぐに動物病院へ

激しい発作を見ると飼い主さんはとても心配になると思います。ただ、一回だけてんかん発作が起きた場合の緊急性はあまり高くありません。通常、数秒〜数分で発作はおさまるので、愛犬の様子が落ち着いてから動物病院を受診してください。

ただ、1回の発作が30分以上続く、もしくは1回の発作が終わりかけようとすると次の発作が始まる発作重積や、何度も発作を起こす群発発作が起きたときは早急な処置が必要となります。適切に処置しないとそのまま死に至ることもあるので、以下のようなケースではすぐに動物病院へ連れて行きましょう。

  • 1回の痙攣発作が5分間以上続いた場合。もしくは、意識が完全に戻る前に2回目の痙攣発作が起こった場合。
  • 24時間以内に2回以上のけいれん発作が起こった場合。

動物病院では、抗てんかん薬や抗炎症薬などの投与が行われます。なかなか症状がおさまらないときは、全身麻酔で一時的に眠らせる処置をすることもあります。

最後に

てんかんは個体によって症状の出方に大きな差があり、治療方針や薬の内容も犬の状況に合わせて考える必要があります。残念ながら完治するケースはあまりないので、愛犬がてんかんと診断されたときはかかりつけの獣医さんとしっかり相談して、上手に病気と付き合っていきましょう。