老犬の睡眠時間が変化したときに注意すべきこと

犬は高齢になると、睡眠時間や睡眠の質が変化するようになります。体力の衰えから寝ている時間が長くなることもあれば、上手に眠れなくなって睡眠時間が短くなることもあります。中には病気が原因で睡眠時間が変化しているケースもあるので注意しましょう。ここでは、犬の行動学に詳しい獣医師の菊池先生に、シニア犬の睡眠の変化について詳しく伺います。

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老犬の睡眠時間はどのくらい?

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そもそも犬は睡眠時間が長い

睡眠には、レム睡眠という浅い眠りと、ノンレム睡眠という深い眠りの2種類があります。私たち人間は90分ごとにレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返していますが、犬の場合はレム睡眠が約80%、ノンレム睡眠が約20%と言われています。これは野生で暮らしていた頃の名残で、何か異変があったときにすぐ飛び起きて対処するためだと考えられています。眠りが浅い分、犬は人間よりも長い睡眠時間が必要なのです。

老犬の平均睡眠時間

睡眠には疲れた脳や身体を休ませ、回復させる働きがあります。成犬の平均睡眠時間は12~15時間なのに対し、7歳以上のシニア犬の平均睡眠時間は18~19時間程度。年を取って体力が衰えると疲れやすくなるため、若い頃よりもたくさんの睡眠時間が必要になります。

 

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Qooppyが実施したシニア犬の睡眠時間に関するアンケート(250件の回答)では、10歳から20歳の間で1日16時間以上の睡眠をとる子が多く、13歳ごろから1日20時間以上寝る子も増える傾向が見られました。
一方、14歳以上になると、うまく眠れなくなって睡眠時間が短くなってしまったり、3時間おきに起きてしまったりする子もいました。愛犬の睡眠時間が短くなると、飼い主さんまで寝不足になり、飼い主さんにかかる負担が大きくなってしまいます。早めに対処すれば改善できるケースも多いので、愛犬の睡眠時間に悩まされたらすぐにかかりつけの動物病院などに相談してみましょう。シニア犬の不眠についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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老犬になると現れる睡眠中の変化

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睡眠中の変化① 変なところで寝る

シニア犬は体力や筋力が衰えるため、運動量もだんだん少なくなっていきます。そのため、家の中を歩き回っている途中に力尽きて寝てしまったり、ベッドに入る途中で眠ってしまうこともあります。「なんでこんなところに…。」と思うような場所で寝ていることもあるので、若い時以上に愛犬がどこにいるのか、気をつけて見てあげるようにしましょう。

睡眠中の変化② いびきが激しくなる

若い頃はすやすやと寝ていた愛犬が、年を取ってからフゴフゴと大きないびきをかくようになって、びっくりした飼い主さんもいるでしょう。年を取ると喉や首回りの筋肉が衰えるため、気管が狭くなっていびきが増えることがあります。
また、肥満気味な子も首周りの脂肪が気管を圧迫するようになるのでいびきをかきやすいです。特にシニア初期の子は運動量や代謝が低下するため、今までと同じような食生活を続けていると太りやすくなります。太り過ぎはいびきだけでなく、色々な病気を引き起こす原因になるので、きちんと適正体重を維持してあげてください。

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睡眠中の変化③ 寝相が豪快になる

丸まって眠るのは犬の基本的な寝姿です。丸くなると急所である内臓を守ることができますし、寒い時にも体温を逃すことがありません。鼻先をしっぽの中に埋めれば、全身暖かくして眠ることができます。
ただ、安心できるおうちの中で眠るときは寝相が豪快になりがち。例えば手足を投げ出して横向きで眠っている状態は、犬にとって寝心地の良い快適な姿勢です。リラックスしているサインと言えるでしょう。さらに、無防備にお腹を丸出しにして仰向けで寝ている寝姿は「へそ天」と呼ばれ、完全にリラックスしているときに見られます。年々愛犬の寝相が豪快になっていくのは、大好きな飼い主さんのいるおうちで、安心し切っているからなのでしょうね。

老犬の睡眠が変化した時に注意すべきこと

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高齢になると睡眠時間や睡眠中の様子が変化することは多いです。しかし、中には病気が隠れているケースもあるので、愛犬の睡眠に変化が見られたときは必ずかかりつけの獣医さんに相談するようにしましょう。

睡眠時間が長くなった

関節に炎症が起きていたり、椎間板ヘルニアを発症していると、動いた時に痛みが出るようになるため動きたがらなくなります。飼い主さんからは眠っている時間が長くなったように見えるでしょう。また、心臓に疾患があるときも疲れやすくなるため、運動するのを嫌がるようになります。尚、心臓病の子は夜中から明け方にかけて咳が増えるので、「最近寝ている時に咳が出るな。」と感じたら、すぐに動物病院へ連れて行ってあげてください。

寝相が変化した

寝相が変化した時も注意が必要です。犬は身体に痛みがある場合は丸くなったり、呼吸が苦しい時にはうつ伏せで寝ることが多いです。もし、いつも無防備に気持ちよさそうに寝ていた愛犬が突然眠り方を変えたときは、体調に問題がないか注意して見てあげてください。

いびきの悪化

突然大きないびきをするようになったら、気管虚脱という病気が隠れているかもしれません。気管虚脱は小型犬に多い病気で、空気の通り道である気管支が潰れて「ガーガー」という音がするようになります。

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また、フレンチブルドッグなどの短頭種によく見られる「軟口蓋過長症」を発症したときも、呼吸が苦しくなっていびきが出るようになります。以下のような場合は、早めにかかりつけの獣医師に相談してください。

  • 急にいびきをかくようになった
  • いびきが悪化している
  • 寝苦しそう、呼吸が苦しそう
  • ガーガーという大きないびきをかく
  • 起きているときもいびきのような呼吸音が出る

睡眠トラブル

腎臓病やホルモン疾患などで頻尿になっている時は、夜中トイレに行くために頻繁に起きることがあります。また、なかなか寝付けなかったり、昼夜逆転の生活になってしまう時は、認知症の可能性が考えられます。認知症は悪化すると一晩中夜鳴きや徘徊をするようになることもあるので、早めに治療を開始してあげましょう。

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起こそうとすると怒る

眠っている愛犬を起こそうとしたら、唸り声を上げて威嚇してくる、触ったら怒る、などの様子が見られたときは要注意です。眠っているのではなく、体のどこかに痛みがあって、できるだけ動かないようにしているのかもしれません。こんなときはできるだけ早く動物病院を受診しましょう。

老犬の睡眠時間が長くなることで起こりやすくなる問題

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床ずれのリスクも

愛犬の睡眠時間が長くなった時、特に注意してあげたいのが床ずれです。長時間同じ体勢で寝ていて体の一部が圧迫された状態が続くと、血行不良になって皮膚の細胞が壊死してしまいます。寝たきりになっていなくても、寝ている時間が長くなったシニア犬は床ずれができやすくなるので注意しましょう。床ずれは悪化するのが早いため、もし愛犬の皮膚に異変を見つけたらすぐに動物病院へ連れていくようにしてください。

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血行不良になる

寝ている時間が長くなると運動量が低下するため、血液の流れは滞りがちになります。そのため、体が冷えやすくなったり、胃腸の働きが弱くなってしまうことがあります。また、血液の巡りが悪くなると、耳の先などの末端の毛が抜けてしまったり、皮膚の状態が悪くなることもあるので、マッサージや適度な運動を取り入れて、血行を促進してあげましょう。

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太りやすくなる

シニアに差し掛かったばかりの時期は、運動量が低下して寝ている時間が長くなる一方で、食欲は旺盛なままの子が多いです。代謝も衰えるので、今までと同じ食生活をしているとすぐに太ってしまうので注意しましょう。肥満になると心臓や関節にかかる負担が大きくなり、糖尿病などを発症するリスクも高まります。きちんと適正体重を維持し、肥満になったときは獣医師に相談しながらダイエットをしてあげましょう。

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関節がこわばりやすくなる

寝ている時間が長くなると、関節がこわばりやすくなります。スムーズに体を動かせなくなると、ますます動くのを嫌がるようになるでしょう。運動量が減って筋力が低下すると、さらに関節に負担がかかるという悪循環に陥ります。シニア犬は関節に痛みが出やすくなるので、炎症を起こす前にきちんとケアしてあげてください。

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お散歩中の老犬

老犬の睡眠時間が変化した時のケア

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ベッドの置き場所を見直す

シニア犬になると、若い頃よりも不安を感じやすくなります。愛犬と寝室を分けている場合、飼い主さんが近くにいないと不安になって、夜鳴きをするようになるかもしれません。そんなときはベッドの置き場所を見直してみましょう。飼い主さんの寝室にベッドを移してあげるだけで安心して眠れるようになることもあります。夜中急に愛犬が体調を崩した時も、近くで寝ていればすぐに気づいてあげることができます。
また、愛犬が最も慣れているリビングなどで、飼い主さんが一緒に寝てあげるのも一つの方法です。Qooppyで実施した寝る場所に関するアンケート(1,815件の回答)でも、12%の飼い主さんが「リビングなど、愛犬が寝ている場所に合わせて寝ている」と回答していました。家族みんなが安心して快適に眠れる環境を整えていけるといいですね。

 

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ベッドにもこだわりたい

シニア犬になって寝ている時間が増えてきたなと感じたら、愛犬のベッドを見直しましょう。寝たきりではなくても、長時間同じ姿勢で寝ていると血行不良や床ずれを起こしやすくなります。大きく分けると低反発と高反発の二種類があり、愛犬の状態によって最適なベッドは異なります。それぞれの特徴をきちんと把握した上で、愛犬の体に合わせたベッドを選んであげましょう。愛犬の気分やその日のコンディションで使い分けられるように、2種類のベッドを用意してあげるのもおすすめです。低反発と高反発の特徴やベッドの選び方、おすすめベッドなどはこちらの記事にまとめているので、ベッド選びに迷った時は参考にしてください。

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ベッドで横になる老犬

ベッドの周辺環境を整える

シニア犬は喉の渇きに鈍感になったり水飲み場まで歩いて行くのが億劫になったりして、水を飲む量が少なくなることがあります。犬自身、気付かないうちに脱水状態に陥ってしまうケースもあるので注意しましょう。ベッドの近くに水飲み場を設置し、しっかり水分補給ができる環境を整えてあげてください。

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また、夜中にトイレに失敗することが増えてきたら、ベッドの近くにもトイレを設置してあげましょう。ベッドとトイレの距離が遠いのが原因で、間に合わずに途中で粗相してしまっているのかもしれません。
ちなみに視力が落ちていると、暗闇の中は余計に見えにくくなります。水飲み場やトイレに常夜灯をつけてあげると安心して移動できるでしょう。

■WAYONE ワンちゃん LED ナイトライト

犬の形をした柔らか素材のかわいい充電式ライト。鼻の部分をタッチすることでライトのオン・オフができ、長押しで明るさの調節ができます。授乳用ライトなので優しい光で辺りを照らしてくれますよ。常夜灯としても使えます。

おもらしが増えてきたら

さらに、シニア犬は膀胱におしっこを溜めておく力が弱くなるので、寝ている間にお漏らししてしまうことも増えてきます。このようなときはオムツをつけたり、愛犬のベッドの中にトイレシートや赤ちゃん用のおねしょシーツを敷いたりしておくと、ベッドやを汚さずに済みます。トイレの失敗が増えてきたら、トイレの環境だけでなく寝る場所も見直してみましょう。

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安全対策もしっかり

シニア犬になって足腰が弱ってくると、ベッドの上り下りが大変になります。また、高いベッドから飛び降りることで関節や腰に負担がかかり、関節炎や椎間板ヘルニアを発症するリスクも高まります。愛犬が高齢になったら、ベッドにスロープを設置したり高さのあるベッドからお布団に切り替えたりして、環境を整えてあげてください。
飼い主さんのベッドで一緒に寝ている場合は、落下防止の対策も必要です。視力が低下していたり眠りが深くなっていたりすると、思いがけずベッドから落下してしまうこともあるので注意しましょう。

 

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最後に

可愛い寝姿で飼い主さんをほっこり温かい気持ちにさせてくれるシニア犬たち。年齢とともに犬たちの睡眠事情は少しずつ変化していきますが、飼い主さんはその変化を楽しみながらも、異変があったときはすぐに察知してあげられるといいですね。