【老犬に多い膵炎】重症化すると危険!飼い主さんは膵炎について知っておいて

シニア犬で比較的よく見られる膵炎は、突然重症化して命に関わることもある危険な病気です。発症したらできるだけ早期に治療を受けさせてあげることが望ましいので、シニア犬の飼い主さんは膵炎という病気についてぜひ知っておいてください。

(TOP画像: Unsplash / Adam Grabek

犬の膵炎とは

膵臓の働き

犬が食べた食べ物は、食道を通って胃に送られ、さらに小腸、大腸へと運ばれます。小腸の始まりの部分に十二指腸と呼ばれる場所があり、膵臓は十二指腸のすぐ近くに存在しています。

膵臓

膵臓には大きくふたつの働きがあります。一つは十二指腸に送られてきた食べ物を消化するために膵液という消化液を分泌すること、もう一つはインスリンなどの血糖値を調節するホルモンを分泌することです。

膵炎とは

膵臓で作られた膵液は、本来十二指腸に放出されてから活性化し、その消化能力を発揮します。しかし、何らかの原因で膵臓に強い炎症が起きると、膵液が膵臓内で活性化されてしまい、膵臓自体を消化してしまいます。これが膵炎です。
犬の膵炎は突発的に発症することが多い病気で、「急性膵炎」とも呼ばれます。しかし、何度も繰り返し膵炎を起こしたり、治療をしても長期にわたり症状が改善しない状態になると「慢性膵炎」を引き起こします。急性膵炎を発症した際に膵臓が大きなダメージを受け、膵細胞が萎縮したり繊維化したりすることで、慢性膵炎に発展することもあります。

突然重症化することも

膵炎を発症すると、嘔吐や腹痛、食欲不振などの症状が見られます。軽度であればすぐに命に関わる危険性は高くはありませんが、犬の膵炎は急激に悪化する場合があるので注意しなくてはなりません。重症化すると、膵臓内で起きていた炎症反応が周囲の臓器や全身へ広がり、多臓器不全や血液凝固異常(血液内に血栓ができたり、反対に血が止まりにくくなったりする状態)などの命に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあります。

犬の膵炎の症状

膵炎では、嘔吐・食欲不振・元気消失などの症状が現れます。どれも高齢犬に比較的よく見られる症状ですが、膵炎を発症していると何度も嘔吐するケースが多いです。動物病院で診てもらう際は、いつ頃からどのくらいの回数嘔吐しているか、獣医師に伝えるようにしましょう。
それから、腹痛も膵炎の典型的な症状です。お腹が痛くて横になれない(座っている姿勢が多い)、お腹の辺りを触ろうとすると嫌がる、抱っこをしようとすると怒る、などの様子が見られたら腹痛があるサインです。

膵炎の検査ではどんなことをする?

問診と触診だけでは、膵炎と似たような症状が現れる胃腸炎などの病気なのか、それとも膵炎なのかを判断することはできません。そのため、膵炎の疑いがあるときはより詳しい検査が必要になります。

血液検査

膵炎が疑われる場合、一般的な血液検査と併せて「犬膵特異的リパーゼ」や「犬リパーゼ活性(v-LIP)」という項目を調べるための血液検査も行います。これらの値が高いと、膵炎を発症している可能性が高いと判断することができます。
以前は膵炎が疑われる時、外部の検査会社に依頼して「犬膵特異的リパーゼ」の値を調べる必要があり、検査結果が出るまでに時間を要していました。しかし最近は簡易的な検査キットが普及しています。また、多くの動物病院で調べることのできる「犬リパーゼ活性(v-LIP)」の値をチェックすることで、膵炎の可能性が高いかどうかを判断できることがわかってきたため、設備の整った動物病院であればすぐに測定することができるようになりました。

超音波検査

膵臓の状態をしっかり把握するためには、超音波検査が有効です。膵臓の状態だけでなく、周囲の臓器に炎症が波及していないか、全身に悪影響が出ていないか(腹水の有無や浮腫の有無など)についてもあわせて検査することができます。痛みで暴れてしまう子の場合は鎮静処置をした上で超音波検査を実施することもあります。

レントゲン検査

異物を飲み込んでしまったときや腸閉塞、胆嚢の病気などを起こしている時にも、膵炎と似たような症状が現れるため、そうした病気の可能性が考えられる場合に、レントゲン検査を行うこともあります。
また、膵炎が悪化すると腹膜炎などの合併症を引き起こすことがあり、これらの確認のため、状況に応じてレントゲン検査を実施することがあります。

膵炎は確定診断が難しい

膵炎は確定診断の難しい病気です。そのため、これらの検査の結果をふまえて、獣医師が総合的に判断し、診断をするケースが多いです。

血液検査で犬膵特異的リパーゼや犬リパーゼ活性が明らかに異常値で、かつ症状や他の検査結果も膵炎の可能性を示している場合は、膵炎であると診断することができます。しかし、初期の膵炎ではこれらの値がそこまで高くなかったり、反対に、膵臓自体に病気はなくても、胃腸炎など消化器系の病気が原因で膵臓に負担がかかって数値が高くなったりする場合もあります。
緊急性がさほど高くない病気であれば、明らかな異常を確認してから治療を開始することが望ましいですが、膵炎の場合は早急に治療を開始しなければ急激に悪化し、最悪命に関わるようなケースに発展することもあります。そのため、膵臓の値がグレーゾーンだったとしても、他の検査結果から総合的に判断して治療を開始することも珍しいことではありません。

膵炎の治療について

膵炎が起きている時の体内の状態

膵臓で強い炎症が起きると、活性化した膵液が膵臓を溶かすようになるだけでなく、血液が血管の外に滲み出てしまう現象が起きます。滲み出た液体が腹水や浮腫の原因になるのですが、怖いのは血管内の水分量が減ったことで、体が脱水状態に陥ったり必要なミネラルが不足したりして、急性腎障害や低血圧性ショックなどの重篤な合併症をもたらすことです。また、強い炎症が起きたとき、体内では炎症を促進する物質がたくさん作られます。これらが体内で暴走してしまうと、腎臓・肝臓・心臓・肺などの全身の臓器に悪影響を及ぼしたり、血栓が身体中に作られてしまうリスクを高め、命に関わる危険性があります。

点滴で全身の循環を安定させる

こうした事態を回避するために、膵炎の治療では点滴で血管内の水分量を増やし、必要なミネラルなどの栄養素を補ってあげることが基本になります。血圧を維持し、活性化した膵酵素や炎症を促進する物質をできるだけ薄め、なるべく循環させて体外へ排出することが重要です。状況によっては数日間入院して、点滴の処置を続けることもあります。
また、膵炎を発症すると痛みや吐き気が現れることが多いので、適宜痛み止めや吐気止めの薬を投与します。

一時的な絶食

膵炎では一時的に膵臓を休ませるために、短期間の絶食を行う場合があります。しかし近年では、絶食が長引くと消化管から全身への栄養供給が不十分になり、膵臓の回復も遅れることから、なるべく早い段階で栄養摂取を再開した方が良いという見解が多いです。
食欲がなかなか戻らない場合は、療法食を口元まで運んであげたり、療法食を流動食にしてスポイトやシリンジで口の中に入れてあげたりすると食べてくれることがあります。流動食の作り方や与え方についてはこちらの記事で詳しくご紹介しているので、ぜひあわせてご覧ください。

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老犬 流動食

ちなみに、口から食べると吐いてしまう期間が長い場合、胃や腸にチューブを設置して直接流動食を投与する方法が用いられるケースもあります。ただし、チューブの設置には全身麻酔が必要になります。高齢になって体力が落ちている子や、腎臓病などの持病がある子は全身麻酔のリスクが高くなるので、治療方針についてはかかりつけの獣医師としっかり相談しながら決めましょう。

低脂質食への切り替え

犬で膵炎が起こるメカニズムは完全には解明されていませんが、高脂肪の食事が膵臓に負担をかけ、膵炎を引き起こす可能性があることはわかっています。そのため、膵炎を発症したら低脂肪食への切り替えが必要になります。脂肪の分解には膵液に含まれる消化酵素が深く関わっているため、膵臓の負担を減らすためにも獣医師の指示に従って低脂肪食を与えるようにしてください。
ちなみに、膵炎の原因が「人間のごはんを食べた」「落ちていたコロッケを丸呑みした」などのように明確にわかっている場合は、一時的に低脂肪食を使用し、状況が落ち着いてきたら徐々に元のフードに戻すこともあります。しかし、体質的に膵炎を起こしやすい子の場合は、半永久的な低脂肪食が推奨されます。また、持病があってそちらの食事療法をしないといけない子は、状況に応じて低脂肪食と療法食とを切り替えなくてはなりません。

膵炎を発症しやすいケース

膵炎を引き起こす原因はさまざまです。複数の要因が絡んでいることもあるので、完全に予防することは難しいですが、発症リスクをできるだけ抑えるためにおうちで何ができるのか、どんな犬が発症しやすいのか、ぜひ知っておいてください。

膵炎の原因① 肥満・乱れた食生活

肥満の犬は膵炎になるリスクが高いと言われています。シニア犬になると運動量や基礎代謝が低下し、若い頃と同じ食生活を続けていると太りやすくなるので注意が必要です。そもそも肥満の犬は膵炎だけでなく、ホルモン疾患や椎間板ヘルニアなどの病気にもかかりやすくなりますし、心臓や気管支、関節にも大きな負担がかかります。適正体重を維持するよう日頃から心がけましょう。

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また、脂肪分の多い食事をとっている犬も膵炎を発症しやすいです。人間の食べ物のような高脂質の食事を日常的に食べている子や、拾い食いをする癖がある子は、早めに食生活を見直してください。

膵炎の原因② ストレス

ストレスも、膵炎を引き起こす要因の一つです。環境の変化や気温の変化が原因で急性膵炎を引き起こすこともあります。特に高齢になって目が見えなくなったり、耳が聞こえにくくなったり、体が思うように動かなくなってくると、若い頃よりも不安やストレスを感じやすくなります。今まで平気だったことが苦手になることもあるので注意しましょう。
こちらの記事では、シニア犬がどんなことにストレスを感じるのか、詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

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膵炎の原因③ 他の疾患

以下の病気がある犬は、膵炎を発症するリスクが高くなることがわかっています。

  • クッシング症候群
  • 甲状腺機能低下症
  • 糖尿病
  • 腎不全
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • 肝炎
  • 胆嚢炎
  • 胆管炎
  • 治療の一環で利尿剤を使用している

膵炎の原因④ 遺伝性

以下の犬種は遺伝的に膵炎にかかりやすいと言われています。ただし、この他のどの犬種でも発症する可能性があります。

  • ミニチュアシュナウザー
  • ヨークシャーテリア
  • コッカースパニエル
  • コリー
  • ボクサー

最後に

膵炎は、一度発症すると急激に容体が悪化して命に関わることもある危険な病気です。早期治療が肝心なので、愛犬の異変に気づいたらできるだけ早めに動物病院に連れて行ってあげてください。