【小型犬に多い気管虚脱】症状や治療法について獣医さんに聞きました

気管虚脱は、空気の通り道である気管が何らかの原因でつぶれてしまう病気で、小型犬に多く見られます。ここでは気管虚脱の症状や治療法、愛犬が気管虚脱と診断されたときの生活上の注意点などを解説します。

気管虚脱とは

気管が潰れてしまう病気

気管は口や鼻と肺を結ぶ空気の通り道で、洗濯機のホースのような形をしています。気管の周囲には軟骨があり、気管の形状を維持したり、外部の衝撃から気管を守ったりしています。しかし何らかの原因でこの軟骨が歪むと、筒状の気管がつぶれて、空気の通り道がふさがれてしまいます。これが気管虚脱です。

軽度なものでは軽い咳程度の症状ですが、重度なものでは呼吸困難から脳や体が酸欠を起こすこともあり、命に関わる危険性もあります。ただし、軽度〜中程度のケースではお散歩の仕方や日々の接し方などを見直すことで、ある程度重症化するのを防ぐことができます。

気管虚脱になる原因は?

気管虚脱になる原因ははっきりと解明されていません。7~8歳くらいの中高齢犬で発症することが多いですが、犬種によっては1~2歳から見られるため、遺伝が関与しているのではないかという見方もあります。その他、肥満や吠えすぎ、リードの引き過ぎによる首の圧迫なども要因として考えられています。

かかりやすい犬種は?

(画像:Instagram / @hanahana.shii

気管虚脱は小型犬に比較的多く見られ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、マルチーズ、チワワ、トイ・プードルなどが発症しやすい犬種として知られています。ただし、ゴールデン・レトリーバーやラブラドル・レトリーバーなどの大型犬や柴犬、雑種などでも見られるため、幅広い犬種でかかる可能性がある病気だと言えるでしょう。

気管虚脱は予防できる?

気管虚脱は発症する原因がはっきりわかっていないため、確実に予防することはできません。ただし、若いうちから気管に負担をかけないよう過ごすことで発症のリスクを下げることはできます。お散歩に行く時は首輪とリードではなく、ハーネスを使いましょう。肥満になると首回りの脂肪が気管を圧迫するため、適正体重を維持することも大切です。

気管虚脱の症状

どのような症状が出る?

軽度の気管虚脱では軽い咳が出ることもありますが、目立った症状が現れないことも多く、ある日突然発症したように見えることもあります。そのため、気づいた時にはかなり病気が進行しているケースも多いです。空気が上手く取り込めなくなるにつれ、以下のような特徴的な症状が現れます。

  • 喉につかえるような咳
  • ガチョウが鳴くような「ガーガー」という咳
  • 「ゼーゼー」と苦しそうに呼吸する

さらに進行すると呼吸困難に陥り、舌が青紫色になるチアノーゼや意識障害などが現れます。ここまでくると命に関わる重篤な状態のため、夜間であっても動物病院へ連れていきましょう。症状が悪化する前に治療を開始できることが理想です。

気管虚脱の症状を動画で見てみよう

気管虚脱の症状でわかりやすいのは、特徴的な咳の仕方です。実際に気管虚脱にかかった犬の症状を、動画で見てみましょう。風邪をひいたときの咳とは明らかに異なります。

 

気管虚脱の検査ではどんなことをするの?

まずは問診や身体検査、聴診を行い、気管虚脱が疑われる場合はレントゲン撮影をします。息を吸った時と吐いた時のレントゲンを比較して、気管が狭くなっていることが確認できれば気管虚脱と診断されます。レントゲンに写らない部分を検査したい場合は、追加で内視鏡や放射線透視検査を行うこともあります。

気管虚脱の治療① 投薬

治療の目的

気管虚脱と診断されると、一般的には投薬による治療が選択されます。犬にとっても負担が少なく、軽度の気管虚脱であれば、投薬で病状の進行を抑えて普段と変わらない生活を送ることができるケースも多いです。ただし、投薬による治療は症状を和らげることを目的としているため、根本的な治療にはなりません。また、重度の気管虚脱では手術が必要になります。

どんな薬を使うの?サプリメントの効果は?

症状や進行具合によって異なりますが、気管虚脱の治療では以下のような薬が処方されることが一般的です。

  • 鎮咳薬:咳を抑える薬
  • 去痰薬:痰を排出して呼吸をスムーズにするための薬
  • 気管支拡張薬:気管支の内腔を広げて空気の通り道を確保するための薬
  • 抗炎症薬:気管の炎症を抑えて病気の悪化を抑制する薬

気管虚脱は、積極的にサプリメントが処方される疾患ではありません。ただ、免疫力を高めるポリフェノール、軟骨の構成成分であるアミノコラーゲン、抗炎症作用がある脂肪酸などが含まれている「アンチノール」などのサプリメントを飲ませている飼い主さんもいます。愛犬のためにできることをしてあげたい、と考えている方は獣医師に相談してみるとよいでしょう。

気管虚脱の治療② 手術

治療の目的

つぶれた気管の形状を手術で修復する方法もあります。ただし、手術をしても再発する可能性があること、手術のためには全身麻酔が必要なことから、手術自体が難しいケースもあります。かかりつけの獣医師としっかり相談して愛犬にとって最適な治療方法を選択しましょう。気管虚脱の手術にはいくつか方法があるので、それぞれ簡単に解説します。

PLLP法

PLLP法は全身麻酔をかけて気管の外側にリングノートのリングのような形状をした型(プロテーゼ)を縫い付け、軟骨のかわりに気管を固定する方法です。異物反応の少ない安全な素材を使用しており、現在実施されている気管虚脱の手術の中でもっとも長期的な治療成績が良いと言われています。

ただし、PLLP法は専門技術と特殊器機材が必要なため、一般的な動物病院では手術できないことがほとんどです。手術を希望する場合はかかりつけの獣医師に相談してみましょう。二次診療施設か呼吸器専門の獣医師のいる動物病院を紹介してくれると思います。

気管内ステント設置術

気管の内側に金属のメッシュでできた筒(ステント)を設置し、気管を内側から広げる気管内ステント設置術という方法もあります。この方法でも麻酔は必要になりますが、メスを使わずに内視鏡で設置することができるので、手術の時間が短く、術中の負担を少なく抑えることが可能です。ただし、気管内の粘膜は刺激に対して非常に敏感なため、ステントに対する拒絶反応から咳が悪化することもありますし、刺激を抑えるための投薬が生涯必要となります。

愛犬が気管虚脱と診断されたら

首輪からハーネスへ切り替え

(画像:Instagram / @wankorokoro_

気管虚脱を悪化させる要因の一つが、首輪による圧迫です。リードを強い力で引いてしまうと、首輪で気管が締め付けられてしまいます。首や気管への負担を減らすために、気管虚脱と診断されたらハーネス(胴輪)に切り替えましょう。

興奮させない

興奮すると呼吸が荒くなるため、気管虚脱を悪化させる要因となります。ドッグランなどでの激しい運動は避け、普段からできるだけ愛犬を興奮させないよう注意しましょう。他の犬に対して興奮するならお散歩ルートやお散歩時間を見直したり、お家のチャイムに興奮するならチャイムの音を小さくする、チャイムの音に慣れさせるなどして対処しましょう。また、愛犬が興奮した時に落ち着かせられるよう、「マテ」や「おすわり」のトレーニングもしておくとよいでしょう。

適切な体重管理

肥満は気管虚脱を引き起こす要因の一つと考えられています。太っていると気管周辺の脂肪が厚くなり、気管を圧迫するようになります。また、肥満になると心臓や関節などにも大きな負担がかかるようになりますし、色々な病気も引き起こしやすくなります。『肥満は病気の原因にも!老犬の正しいダイエット方法 』の記事も参考にしながら、適切な体重管理を心がけましょう。

乾燥しないよう湿度にも注意して

特に寒い季節に注意したいのが、乾燥による咳の悪化です。乾燥している環境では気管を保護する分泌液が出にくく、乾いた空気を吸い込むとそれが刺激となって咳を誘発します。特に乾燥が気になる冬場は加湿器をつけるなどして、気管にかかる負担をできるだけ少なくしてあげましょう。

酸素ケージ(酸素ハウス)のレンタルも

症状が悪化して咳や異常呼吸がおさまらず、酸欠状態に陥ってしまったときは、酸素室への入院が必要になることもあります。一時的に酸素室で過ごすことによって呼吸が落ち着けば、また普段通りの生活に戻れるケースも少なくありません。しかし、酸素室から出ると酸欠状態に陥ってしまう場合には、自宅に酸素ケージを準備してあげるという方法もあります。酸素ケージをレンタルできるサービスがいくつかあるので、希望する方はかかりつけの獣医師と相談してみてください。

最後に

気管虚脱は小型のシニア犬に多い病気ですが、どの犬種でも発症するリスクはあります。 愛犬が気管虚脱と診断されたらすぐに生活環境を見直し、気管にかかる負担を減らしてあげましょう。いろいろな治療法があるのでかかりつけの獣医師とよく相談して、愛犬にとって最適な治療法を選んであげてください。