愛犬が年を取って寝たきりになるとさまざまなケアをする必要が出てきますが、特に注意したいのが床ずれです。ここでは犬の床ずれについて、予防法や治療について解説します。
愛犬が寝たきりになったら床ずれ(褥瘡)に注意
犬も人間と同じで、寝たきりの状態が続くと圧迫された部分に床ずれを起こしやすくなります。床ずれは悪化するのが早く、一度なってしまうと再発しやすいため、愛犬が寝たきりになってしまったらしっかり予防してあげてください。
床ずれ(褥瘡)とは
床ずれは、体の一部を圧迫した状態が長時間続くことで血行不良が起こり、皮膚の細胞が壊死してしまうもので、医学用語で褥瘡(じょくそう)と言います。寝たきりになった犬自身の体重による圧迫が主な原因ですが、それ以外にもオムツの摩擦や排泄物の付着による皮膚の蒸れ、かぶれ、乾燥などが原因で起こることもあります。悪化すると骨が見えるまで皮膚と筋肉が壊死(細胞が死滅すること)することもあります。
床ずれができやすい場所
床ずれができやすいのは、肩や肘、手首、足首、太もも(大腿骨)、膝、腰、顔(頬骨)などです。これらの場所はもともと筋肉や脂肪が少なく、骨が出っ張っているため、体を横にしている時間が長くなると床や寝具に強く当たり、床ずれができやすいと言われています。
床ずれのサインを見逃さないで
床ずれが起こると最初は皮膚に小さな赤みや、毛が抜けて薄くなっている部分が見られるようになります。そのまま症状が進むと痒みや痛みが出始め、やがて水ぶくれができて破け、皮膚の表面がブヨブヨと柔らかくなります。床ずれは発症してから悪化するまでが早く、表面では小さく見える傷口でも、実は皮下組織に壊死が広がっていることもあります。シニア犬は感覚が麻痺していて痛がる様子を見せないことが多いので、飼い主さんが注意して見てあげてください。
床ずれを予防するためにできること
(画像:Instagram / @rii.m915 )
シニア犬は代謝が落ちているため、一度床ずれを起こすと若い頃よりも完治するまでに時間がかかります。「床ずれになってから治す」のではなく、「床ずれにならないようにきちんと予防する」ことを心がけましょう。
しっかり環境を整備して
床ずれを防ぐには何よりも環境を整備することが大切です。環境を見直さない限り床ずれは何度でも再発しますし、床ずれが起きた箇所を治そうとして犬の体勢を変えても、同じ環境のままではまた別のところに床ずれができてしまいます。
清潔な状態を保つ
シニア犬になると筋力が低下して排泄時の足腰がおぼつかなくなるため、排泄物が体に付着してしまうことがあります。体についた汚れはすぐに蒸しタオルで拭き、さらに乾いたタオルで水気をしっかり取ってあげましょう。また、オムツを使っている場合は、蒸れによってかぶれを起こしやすくなります。オムツはこまめに取り換え、汚れやすい部分の毛はあらかじめ短くカットしておくと清潔な状態を保ちやすくなります。
寝返りのサポート
床ずれを防ぐには、同じ場所に長時間圧力がかからないようにすることが必要です。寝たきりの犬は自力で体勢を変えることができないため、2~3時間おきに飼い主さんが寝返りをサポートしてあげてください。
寝返りをさせる時は、犬の上半身をゆっくり起こし、そこから下半身を抱き上げてさっきと反対向きになるように寝かせます。先にお尻の方から下ろしてあげてください。中型犬・大型犬で抱き上げるのが難しい場合には、上半身を起こした後に下半身の向きを変えて、上半身を寝かせてあげましょう。
寝返りの打たせ方はこちらの動画を参考にしてください。
寝返りをさせる際の注意点
寝返りをさせるときは、犬のお腹を必ず下に向けるように注意しましょう。仰向けの体勢は内臓が圧迫されるため、シニア犬にとって大きな負担になります。尚、愛犬が寝返りを嫌がる場合は無理に行う必要はありません。数時間ごとに体を抱き上げるだけでも、血液の流れを促すことができます。その後、同じ向きで寝かせてあげて下さい。
床ずれ防止グッズも活用して!
(画像:Instagram / @izumi320 )
フローリングの床やじゅうたんの上に直接寝ていると、骨が硬い部分に当たって床ずれを起こしやすくなります。また、一日中愛犬に付き添って寝返りをサポートするのは飼い主さんにかかる負担が大きく、そこまでこまめに対応できないという飼い主さんもいるでしょう。このような時は、床ずれ防止グッズを上手く活用してください。
床ずれ防止マットで体圧を分散
床ずれ防止マットは、骨などの出っ張り部分に強くかかる圧力を分散させることができるマットです。やわらかく、体を沈みこませることで体にかかる圧力を分散させる低反発マットと、体の沈み込みを抑える高反発マットの2種類があります。
低反発マットは体への負担が少なくて済みますが、熱がこもりやすく、蒸れやすいというデメリットがあります。また、ふかふかしていて踏ん張りがきかず、自力で起き上がることが難しくなります。そのため完全に寝たきりになっていない犬の場合はあまりオススメできません。一方、高反発のマットは低反発のマットと比べると通気性はいいですが、硬さがあるので体への負担は大きくなります。それぞれの特徴をよく理解した上で、愛犬によりよいと思える方を選んであげましょう。
シニア犬になって寝ている時間が長くなると、血行不良になったり、床ずれになったりするリスクが高くなります。愛犬にリラックスして過ごしてもらうためにも、体にやさしいベッドマットを選んであげたいですよね。愛犬の負担をできるだけなくしてあげるために[…]
床ずれ防止クッションも効果的
前足や後ろ足に抱き枕のようにスティック用の床ずれ防止クッションを挟むことで、体の一部の圧迫や摩擦、蒸れを防ぐことができます。また、ドーナツ型のクッションは、床ずれを起こしやすい顔(頬)や肩、腰の下に敷くことで、床に直接骨が当たるのを防ぐことができます。
サポーターで骨の衝突を防ぐ
床ずれを起こしやすい足の関節部分などにはサポーターを直接巻いて保護します。包帯タイプと何度も繰り返し使える面ファスナータイプがあります。包帯タイプは尻尾に巻いて汚れが付着するのを防ぐこともできます。ただし、どちらもあまりきつく巻きすぎると逆効果なこともあるので、締め付きすぎないように注意しましょう。
床ずれの治療
もしも床ずれができてしまったら、できるだけ早く治療をすることが重要です。初期の段階であれば傷口の消毒や軟膏の塗布で症状の悪化を防ぐことができますが、重症化すると壊死した組織を切り取る手術が必要となる場合もあります。
早急に動物病院を受診して
愛犬の床ずれを発見したら、すぐに動物病院へ連れていきましょう。目に見える傷は小さくても、皮膚の下では広範囲に壊死が進んでいる可能性もありますし、患部の治療以外にも細菌感染の有無を調べる必要があります。
湿潤療法とは
症状が軽く、細菌感染を起こしていない場合は湿潤療法という治療をすることが多いです。床ずれをすると、体は傷を治そうとして白血球や栄養をたくさん載せた漿液(しょうえき)を傷口に届けます。漿液の力を最大限利用するために、患部にラップや特殊なガーゼなどで蓋をし、漿液で患部を覆う治療方法を湿潤療法と言います。
昔は床ずれや擦り傷、火傷などの傷口は消毒をしていましたが、消毒をすると体に悪い菌だけではなく良い菌も殺してしまうため、治りが遅くなることがわかり、現在は必要以上の抗生剤を使わずに治療することが主流となっています。
ただし、湿潤療法は症状が軽いことや、患部が小さく、細菌感染を起こしていない時には有効ですが、壊死範囲が広く、細菌感染を起こしている場合には他の処置が必要となります。床ずれの症状がどの程度進んでいるかは素人に判断できることではないので、自己判断せずに必ず動物病院を受診して獣医師の指示を仰ぐようにしてください。
薬を使って治療をすることも
診察にて感染症の疑いが見られる場合は、抗生物質が処方されることもあります。抗生物質の投与は飲み薬や塗り薬の他、犬の状態に応じて点滴で行うこともあります。
最後に
(画像:Instagram / @wankorokoro_ )
床ずれは完治するまでに時間がかかるため、予防がとても大切になります。愛犬が寝たきりになってしまったら、すぐに床ずれ防止対策をしてあげましょう。一人で対処するのが難しい場合は、老犬ホームのデイケアサービスなどを利用するのもおすすめです。