犬にもある認知症(痴呆)!症状や対策について獣医さんに聞きました

獣医療の進歩や飼育方法の変化により、犬の平均寿命は昔と比べてはるかに伸びました。それに伴い、増えてきたのが犬の認知症です。犬の認知症は根本的な治療法が確立されていないため、できるだけ早期に発見して進行を遅らせることが大切です。ここでは犬の認知症に詳しい行動治療専門の獣医師、菊池先生にお話を伺います。

愛犬が高齢になったら認知症(痴呆)に気をつけて

認知症は人間も発症する病気なので、病名を聞いたことがある方は多いでしょう。実は犬も高齢になると認知症を発症することがあります。犬の認知症とはどのような病気なのか、詳しく解説していきます。

犬の認知症とは

認知症は、高齢の犬に見られる進行性の病気です。脳神経や自律神経がうまく機能しなくなり、夜鳴きや徘徊などの症状が現れますが、発症の原因など詳しいことはまだあまりわかっていません。進行性の病気のため、放置しておくとどんどん悪化していき、やがて飼い主さんのことを認識できなくなってしまうこともあります。残念ながら根本的な治療法は確立されていませんが、予防したり病気の進行を遅らせたりすることは可能です。

認知症になりやすい犬種

認知症にかかりやすい犬種については多くの研修がされています。中には、柴犬などの日本犬は認知症を発症しやすいという研究報告を出しているところもありますが、一方で日本犬よりも洋犬の方が発症しやすいという報告もあれば、柴犬で認知症が多いという結果は得られなかったする報告もあって、研究によって大きなばらつきがあるのが現状です。

一つ言えるのは、どの犬種でも認知症にかかる可能性はあるので、愛犬が年を取ってきたと感じたら定期的に動物病院で検診を受け、認知症予防のための工夫をしてあげるといいでしょう。

年齢による行動変化とは別物

年齢とともに犬の行動は少しずつ変化し、呼びかけても反応しなくなったり、トイレを失敗したりするようになります。これらの行動変化が年を取ったせいで起きているのか、それとも認知症などの病気の症状として現れているのかで、飼い主さんの取るべき対応は大きく異なります。

例えば、飼い主さんの呼びかけに反応しなくなったのは、単に年齢とともに聴力が衰えただけかもしれません。しかし、認知症を発症したときにも同じような症状が現れます。初期症状を「単に年を取ったからだろう。」と放置しておくと、認知症はどんどん進行してしまいます。

少しでも認知症の疑いがあればすぐ動物病院へ

犬の認知症は根本的な治療法がなく、一度発症すると徐々に進行する傾向にあります。そのため、発症させないようにしっかり予防をすることと、発症した場合にはできるだけ早期に治療をして、症状の進行を遅らせることが重要です。愛犬の行動に変化が見られたら、すぐに獣医さんのところに連れていきましょう。

犬の認知症(痴呆)の症状は?初期症状を見逃さないために

犬の認知症は症状が悪化して初めて気づくというケースも多いのですが、一度進行してしまうと元の状態に戻すことは難しいです。飼い主さんが初期症状を把握しておくことで早期発見、早期治療に繋げることができるので、基本的な症状を覚えておきましょう。

認知症の症状① 挨拶をしなくなる

家族が帰宅したときに無反応だったり、名前を呼んでも無視するようになったら、認知症を発症している可能性があります。単に聞こえていないだけというケースもありますが、明らかに見えている、もしくは聞こえているはずなのに、反応を示さないときは注意しましょう。

「おすわり」や「まて」などの指示を聞かなくなった場合も、認知症によって飼い主さんの言っていることを理解できなくなっている可能性があります。また撫でられたり、遊んでもらったりすることへの興味が低下している場合も、注意が必要です。

認知症の症状② 馴染みの場所、人のことが分からなくなる

よく行く公園やお散歩道を不安そうに歩いたり、慣れたはずの道で迷子になってしまったり、家の玄関が分からなくなるというのも認知症の症状の一つです。お散歩を嫌がったり不安そうに歩く背景には、視力の低下や身体の痛みがある場合もありますので、いずれにせよ違和感を感じたときは早めに獣医師に相談しましょう。

また、家族や知っている人に対して、怯えた表情を見せたり唸ったりする場合も認知症の可能性があるので注意してください。

認知症の症状③ 徘徊

同じ場所をウロウロと歩き回ったり、一定の方向にグルグル回り続けるという症状が見られたら認知症を発症している可能性が高いです。また、部屋の角で方向を変えることができなくなったり、家具の隙間に挟まったまま出てこられなくなる、障害物を避けられなくなるなどの変化も認知症の症状の一つです。

認知症の症状④ 夜鳴き

若い頃は全く鳴かなかったのに、年をとって夜鳴きをするようになるケースがあります。高齢になった犬が夜鳴きをするのは色々な理由があるので、まずは動物病院で原因を特定してもらいましょう。ただ、抑揚のない単調な声でいつまでも鳴き続ける場合には、認知症の可能性が高いです。動物病院を受診する際には、愛犬の夜鳴きの様子をムービーなどに収めて持っていくといいでしょう。また、特に要求したいことがあるわけでもないのに、飼い主さんの姿が見えなくなると鳴き、飼い主さんの姿が見えると鳴きやむこともあります。

シニア犬の夜鳴きについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、合わせて読んでみてください。

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認知症の症状⑤ 排泄の失敗

トイレ以外の場所で排泄することが増えたり、部屋の中で立ち止まって突然失禁する等、排泄の失敗が増えた場合も認知症の可能性があります。筋肉の衰えや関節炎などの痛みのせいで漏らしてしまうケースもありますが、念のためかかりつけの獣医師に相談しておくといいでしょう。

認知症の症状⑥ 食欲の低下、増加

年を取って食欲不振になった場合も注意が必要です。年齢とともに食欲が落ちているだけかもしれませんが、認知症だけでなく癌などの様々な病気が隠れている可能性があります。また、ごはんを食べられないと体力もどんどん落ちてしまうので、できる限り早く獣医師に相談しましょう。

食欲不振とは逆に、ごはんを食べた直後にまたごはんを要求したり、一日に何度も食べ物を要求するという場合も注意が必要です。加齢によりわがままになっているケースもありますが、認知症によって記憶障害が起こり、食べたことを忘れてしまっているということも考えられます。食欲不振も過度な食欲も愛犬の体の負担となりますので、食生活の変化に気づいたらなるべく早く獣医師に診てもらいましょう。

認知症(痴呆)の検査ではどんなことをする?

犬の認知症と似た症状の病気も多い

認知症の症状は他の病気の初期症状にも当てはまることが多いです。現れた行動変化が認知症の症状なのか、単に年齢が原因で現れた変化なのか、もしくは他の病気が隠れているサインなのかを見極めることが大切です。飼い主さんが自力で見極めることは難しいので、早めにかかりつけの動物病院に相談してください。

〜認知症と似た症状を示す病気〜

  • 甲状腺機能低下症:中型・大型犬に多いホルモン疾患。感覚が鈍くなり、疲れやすい、運動を嫌がるなどの症状が現れます。
  • クッシング症候群:中高齢の犬に多いホルモン疾患。異常な食欲を示す、足腰が弱くなる、元気がなくなるなどの症状が現れます。
  • 脳腫瘍:脳に腫瘍ができると、脳機能が障害を受けるため、認知症によく似た症状を示すことがあります。
  • 尿路系疾患:膀胱炎や尿路結石など、尿路系の疾患があるとトイレの失敗が増えます。
  • 関節疾患:関節に慢性的な痛みが出るため、動きたがらなくなり、トイレの失敗や夜鳴きをすることが増えます。

〜認知症と間違いやすい感覚器の機能低下〜

  • 視覚の低下:慣れているはずの場所を嫌がったり、家族を認識しづらくなることがあります。トイレへ到達できなくなることも増えます。
  • 聴覚の低下:飼い主さんの声が聞こえないため、呼びかけに反応しなくなります。自身の声も聞こえづらくなることから、吠える声が急に大きくなることもあります。
  • 嗅覚の低下:匂いによる刺激を感じにくくなることから、食欲が衰えたりボーッと過ごすことが増えることがあります。

認知症の疑いがある場合はどんな検査が必要?

認知症を発症しているかどうかを調べるためには、MRIを撮影して脳の状態を確認する必要があります。しかし、MRIを撮影するには麻酔をかけなくてはならないため、年を取った犬にとっては大きな負担となります。そのため、一般的な動物病院では認知症のチェックリストを使用し、当てはまる症状の有無によって診断を下すことが多いです。

認知症(痴呆)を予防する、進行を遅らせるためにできること

(画像:Instagram / @wankorokoro_

治療法が確立されていない認知症ですが、飼い主さんの工夫次第である程度は発症を予防したり、進行を遅らせたりすることができます。人間にも言えることですが、認知症を防ぐ一番有効な手段は脳を活性化させることです。年を取ったからといって愛犬を静かな場所に寝かせておくのではなく、無理のない範囲で脳に刺激を与えてあげましょう。

お散歩コースを変えてみたり、普段と違うところに連れていくのも刺激が増えるのでオススメです。歩行が困難な場合には、カートに乗せて連れ出してあげるのもいいと思います。また、愛犬の体を優しくマッサージしたり、見つめて話しかけたりして、コミュニケーションの時間も増やしてください。「おすわり」や「まて」のトレーニングをするのも頭を働かせる手助けとなります。

認知症(痴呆)と診断されたら介護はどうする?

獣医師から認知症との診断を受けたら、愛犬の生活環境や接し方を変える必要があります。認知症の程度や現れている症状によって対応も変わりますので、獣医師に相談をしながら生活を整えてあげましょう。

飼い主さんのことがわからなくなった時の対処法

愛犬が不安そうにしていたり、急に唸ってくるような時は、飼い主さんのことを認識できなくなっている可能性があります。そんなときは優しく声をかけてあげるとよいでしょう。ただ、聴覚が衰えていることも多いので、話しかけても飼い主さんの声が聞こえていない可能性があります。飼い主さんが触ろうとしたときにびっくりして攻撃的になることもあるので、無理に抱っこしたり触ろうとしたりせず、優しく声をかけてあげましょう。

声かけに反応するようなら、触っても大丈夫なところを優しく撫でてあげるのはいいと思います。ただ、あまりにも攻撃的な様子なのであれば、無理にかまったりせず、そっとしておいてあげてください。

徘徊が始まった時の対処法

徘徊の症状が出て家具の角に体をぶつけるようになったり、家具の隙間から出てこれなくなったりした場合には、家具の配置を変え、家具の角にクッションテープを貼ってあげると怪我をする心配がなくなります。もしくは柔らかい素材でできたサークルや、子供用のビニールプールに入れてあげるのもいいでしょう。飼い主さんにも犬にも負担の少ない環境を整えてください。

夜鳴きが始まった時の対処法

夜鳴きがひどいときは、犬も飼い主も昼夜逆転した生活になりがちです。愛犬の乱れた体内時計を整えてあげれば改善することもあるので、朝はきちんと太陽に当たらせて、日中は無理のない範囲でお出かけさせてあげましょう。

また、あまりに夜鳴きが気になるときは、近隣の住人へ予め状況を伝えておくと、トラブルを減らすことができます。

トイレを失敗する時の対策

認知症のせいで排泄がうまくできなくなってしまったら、しつけで直すことはできません。叱ったりせず、ササッと片付けてあげてください。ただ、排泄の失敗が多くなると、飼い主さんの負担はどうしても大きくなってしまいますよね。

排泄を失敗するようになっていた時は、できるだけ早いタイミングでオムツに慣らしてあげましょう。オムツの選び方や慣らし方については、こちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

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食事環境はどうすべき?

認知症のせいで食欲が低下してしまったときは、匂いを立たせて食欲をそそると食べてくれることがあります。犬の場合、認知機能が衰えても嗅覚は最後まで残りやすいと言われているので、ウェットフードを温めて匂いを立たせたり、愛犬が好きなものや香りのいいお肉をトッピングして、食欲を刺激してあげてください。

反対に、ごはんを食べたことを忘れて何度も食事を欲しがるようなときは、お腹が空いているわけではないので、お散歩に連れ出す、おもちゃで遊ぶなど、興味を他のことにそらしてあげるとよいでしょう。ただ、夜中などでお散歩に行ったり遊んだりするのが大変なこともあると思います。そんな時は知育トイやノーズワークマットなどを利用して、食べるのに時間がかかるおもちゃを上手に活用してください。

辛い時は1人で抱え込まないで!

夜鳴きや排泄トラブルが続くと、飼い主さん側のストレスも大きくなってきます。最近は犬の高齢化に伴い、デイケアサービスや老犬ホームなどの施設も増えてきているので、精神的に辛くなってきたときは1人で抱え込まず、専門家に相談してみましょう。老犬ホームのサービスについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ読んでみて下さい。

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また、犬の問題行動を専門に扱う動物行動治療の獣医師も頼れる存在です。愛犬の介護に疲れてしまったときは、ぜひ相談してみるといいでしょう。

認知症に効果のあるフードやサプリ、薬はある?

残念ながら認知症に特効薬はありません。しかしフードやサプリで症状を緩和したり、予防的な効果を期待することはできます。ここでは認知症に効果のあるフードやサプリメントをご紹介します。

認知症への効果が期待できる成分とは

犬の体は人間と同じく、酸化によって細胞の老化が進むため、抗酸化作用の入ったビタミンC、ビタミンE、亜鉛などのミネラルで細胞の老化を抑制できると言われています。また、DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸は、脳の神経細胞を活性化する働きがあります。これらの成分が入ったシニア犬用のフードやサプリは、認知症予防の効果が期待されているので、気になる方は試してみて下さい。薬を服用中の場合や、どのサプリを選べばいいかわからない場合は、事前にかかりつけの獣医師に相談してから与えるようにしましょう。

フードは何を選べばいい?

毎日与えるフードは、愛犬の年齢に合ったものを与えていますか?シニア犬のために作られたフードの中には、抗酸化作用を持つ成分や、脳の神経細胞を活性化するオメガ3脂肪酸を含んだものが多く販売されています。そういったフードに切り替えることで、認知症の発症を予防したり、症状の進行を遅らせたりする効果は期待できるでしょう。シニア犬のためのフードについては、こちらの記事で紹介しているので合わせてご覧ください。

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尚、認知症の進行具合によっては、動物病院で「ニューロケア」という認知症のための療法食を処方されることがあります。獣医師の指示に従って、フードを切り替えてください。尚、療法食は獣医師の指示のもと与えるものなので、療法食を試してみたい場合は、一度かかりつけの動物病院に相談してみるとよいでしょう。

認知症のためのサプリメント

脳の健康を保つためにいいと言われている成分を、サプリメントで摂取する方法もあります。脳の健康をサポートするサプリ「アクティベート」は、動物病院で使われることも多いので、気になる方はかかりつけの獣医師に相談してみましょう。

他にも市販されているサプリメントがいくつかあるので、愛犬が無理なく飲めるものを見つけられるといいですね。

■毎日一緒

オメガ3脂肪酸、抗酸化成分に加え、脳内の血流をよくするビタミンB12を配合した犬の認知症をサポートするためのサプリメントです。チキン味の錠剤タイプなのでそのまま与えることができます。

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■シニア犬用 脳内革命

オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸に加え、リラックス効果のある成分を配合したソフトカプセルのサプリメントです。

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■メイベットDC

フードにかけて与えることができる顆粒タイプ。オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸を主成分とした、動物病院向けに作られたサプリメントです。
(公式サイトはこちら

最後に

昔よりも犬の寿命が伸びたのは嬉しいことですが、一方で認知症などの病気と向き合う必要も出てきました。できるだけ愛犬の健康寿命をのばしてあげられるよう、少しでもおかしいと感じることがあったらすぐ獣医師に相談するようにしましょう。