老犬の咳や呼吸音の変化に注意!咳が出る原因と対処法について

シニア犬が咳をしているときは、早めの処置が必要なケースもあるので注意しなくてはなりません。犬の咳の中には、飼い主さんが咳と認識しづらいものもあります。愛犬の呼吸音に違和感を感じときは早めにかかりつけの獣医さんに相談しましょう。ここではシニア犬が咳をした時の対処法について、獣医師の福永先生にお話を伺います。

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老犬が咳をするときは病気が原因?

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ただの生理現象なら様子を見ていて大丈夫なことも

犬も人と同じように咳をします。気管に異物が入り込むのを防ぐため、または気管に入った異物を追い出すために、体は防御反応として咳をします。急に冷たい空気を吸い込んでしまったときや飼い主さんが強くリードを引っ張ったときなどに、一時的に犬が咳をする場合は、生理現象によるものなので様子を見ていても大丈夫なことがほとんどです。

ただし、寝起きに咳をする、走った後に咳をする、水を飲んだ後に咳をするなどの場合は、病気のサインの可能性があります。一見生理現象に見えるかもしれませんが、一度かかりつけの獣医さんに診てもらいましょう。また、リードを引っ張った後に毎回咳が出る場合も注意が必要です。早めに動物病院を受診してください。

誤嚥性肺炎に要注意

食べ物が誤って気管に入って咳が出るのは、生理現象によるものです。愛犬が若い頃は特に大きな問題にはならないことが多いでしょう。しかし、シニア犬は免疫力が低下することから、食べ物や水、唾液などが気管に入ると、重度の肺炎を引き起こすことがあります(誤嚥性肺炎・ごえんせいはいえん)。そのまま命を落としてしまうケースも少なくないので、シニア犬がごはん中や食後に咳をしているときは、よくよく注意してあげてください。

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注意すべき老犬の咳とは

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「急に冷たい空気を吸い込んだ」「リードを強く引っ張ってしまった」など、明らかに原因がわかっている一時的な咳であれば問題ありませんが、それ以外の咳は早めに動物病院へ連れて行きましょう。

咳は体力を消耗する原因に

ケホケホという軽い咳であっても、長く続く場合は何らかの病気を抱えている可能性があります。「ただの咳だろう」と放置せず、必ず獣医さんに診てもらいましょう。そもそも咳はエネルギーを消費しやすいものです。 長引く咳はシニア犬の体力を消耗させるだけでなく、気管や気管支に炎症を起こして空気の通り道を狭くしたり、痰が出やすくなったりして、咳のさらなる悪化に繋がることも多いです。様子を見ている間に急激に体調が悪化することもあるので、早めに獣医師に見てもらった方が安心です。

こんなときはすぐに動物病院へ

中には早急に処置をしなければ、命に関わるようなケースもあります。咳とともに以下のような症状が見られたら要注意です。

  • 呼吸が苦しそう
  • 横になれない
  • ぐったりしている
  • 舌の色が紫色になっている

これらの症状が見られたときは呼吸困難を引き起こしている可能性があります。早急に処置をしなければ命に関わるので、たとえ深夜であってもすぐに夜間対応できる動物病院へ連れて行きましょう。犬を運ぶときは体勢を変えないように優しく抱き上げ、できるだけ犬の胸元を押さえないようにしてあげるとよいです。

老犬が咳をしているとき考えられる病気

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1日に何度も咳をする場合や、一度咳が出るとしばらく咳き込み続けてしまう場合には、病気が隠れている可能性があります。ここでは咳の特徴と合わせて、考えられる病気について解説します。

心臓病による咳

心臓病は高齢犬によく見られる病気の一つ。「カッ!カハァッ!」というような痰を吐き出すような咳をしている場合は、心臓病の可能性があるので注意しましょう。興奮した時や、夜から明け方にかけて症状がひどくなることが多いです。嘔吐をしているように見えることもあります。

心臓は生命活動を維持するための重要な役割を持っているため、多少機能が低下しても予備機能が働いて必要な役割を果たそうとします。そのため初期症状がほとんど見られず、飼い主さんが異変に気づけないケースも多いです。早期発見・早期治療で症状の進行を緩やかにすることができます。

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気管虚脱による咳

ガチョウのような「ガーガー」という音の咳をしている場合、気管虚脱の可能性があります。気管虚脱とは、気管が変形することで気道が狭くなり、呼吸がしにくくなる病気です。小型犬や肥満の犬に発症することが多く、重度になると呼吸ができなくなります。特徴的な咳をするので、飼い主さんは咳と気づけないかもしれません。愛犬の様子がおかしいと感じたら、早めに動物病院を受診しましょう。 その際は、咳の様子を動画で撮影していくと診断の助けとなります。

また、すでに気管虚脱が指摘されている場合には、首輪を外してあげてください。お散歩の際に首輪を引くと気管に負担がかかり、症状を悪化させることがあります。お散歩の際にはハーネス(胴輪)を使用するようにして、気管への負担を減らしてあげましょう。

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腫瘍による咳

シニア犬が気をつけたい病気の一つ、ガン(悪性腫瘍)。高齢になるとガンを発症しやすくなります。犬では肺にガンができることは稀ですが、リンパ腫やメラノーマなど、他の部分にできた腫瘍が肺に転移を起こしていると、長期間ケホケホと咳が出たり、ゼーゼーと苦しそうに呼吸をするようになります。

ケンネルコフによる咳

短い咳を繰り返したり、くしゃみや鼻水が出ているときは、ケンネルコフ(通称:犬風邪)という感染性の病気の可能性が考えられます。他の犬との接触によって感染するので、多頭飼育をしている場合は症状が出ている犬を隔離する必要があります。

混合ワクチンを接種していないと感染しやすく、特に免疫力が低下しているシニア犬や子犬は重症化しやすいので注意しましょう。悪化すると高熱が出たり肺炎を併発することもあります。

その他

蚊を媒介して犬の心臓に寄生虫が寄生するフィラリア症にかかると、心臓の機能が低下するだけでなく、咳などの様々な症状が現れます。予防薬を与えていない屋外飼育の犬に見られることが多く、重症化すると治療をしても残念ながら命を落としてしまうケースも多いです。

また、アレルギーが原因で咳が出ることもあります。この場合、アレルギーを引き起こす原因を特定し、解消する必要があります。飼い主さんがタバコを吸っていたり、引越しの後などに発症するケースが多いです。

動物病院へ行くときのポイント

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咳をしている時の様子を動画におさめて

獣医師は咳の仕方や咳の音などから、ある程度病気を推測することができます。ただ、動物病院に到着すると緊張などにより咳が止まるケースもあるので、自宅で愛犬の咳が気になったときはその様子を動画におさめておくとよいでしょう。診断の助けになります。

獣医師に伝えるべきことは?

愛犬のことを一番よくわかっている飼い主さんからの情報も、診断の上では非常に大切です。犬が咳をしているときは以下のようなことを質問されることが多いので、予め情報を整理しておくと診断がスムーズです。

  • いつ頃から咳をしているか。
  • どのような咳をしているか。
  • 咳が出る時間帯やタイミングは?
  • 咳の頻度は?
  • 他に気になる症状があるか。

愛犬の咳を緩和するために自宅でできること

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診断の結果、心臓病や気管虚脱などの完治が難しい病気だった場合、飼い主さんのショックも大きいと思います。ただ、愛犬の咳を和らげてあげるためにできることはあるので、ぜひ取り入れてください。

咳止めの薬やシロップの使用は獣医師に必ず相談を

愛犬の咳が気になる飼い主さんの中には、咳止めの薬やシロップの使用を検討している方もいるかもしれません。その場合は、必ず動物病院から処方されたものを飲ませるようにしてください。特に人間用の咳止め薬の中には犬にとって危険なものもありますので、絶対に自己判断で与えないようにしましょう。

加湿

気温が低かったり空気が乾燥していると、犬の気管支は刺激を受けやすくなります。犬が快適に過ごせる室内環境は、温度が20~25℃、湿度は40~60%です。空調をこまめに調節し、空気が乾いているときは加湿器をつけてあげましょう。あまりに咳がひどいときは、ミストスプレーなどで潤してあげると症状が和らぐこともあります。タバコの煙も悪影響なので、愛犬のいる部屋で喫煙するのは避け、タバコを吸った後はこまめに換気してあげてください。日常的に空気清浄機をつけておくことも効果的です。

浴槽の湯気にも注意

空気が乾燥していると咳が出やすくなりますが、反対に湯気が経つほど蒸気に満ちている浴室などでも咳が出やすくなるので注意が必要です。シャンプーの際はできるだけ湯気を立てないよう、お湯の温度を調整してあげてください。(犬の皮膚に最適なのは35℃以下です◎)浴室内に空調がついているのなら、事前に浴室内を暖めておくと湯気が立ちにくいです。

食事の見直し

シニア犬になると水分補給が十分にできていないことがありますが、それも咳を悪化させる要因となります。お水を飲む量が減ったときは、こまめに口元にお水を運んであげたり 、水を入れるお皿を数カ所に配置したり、水分量の多いフードに切り替えるなどして調節してあげましょう。食事をスープやとろみをつけたフードに切り替えるのも効果的です。

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適正体重の維持

首の周りに過剰に脂肪がついていると、気管が圧迫されて咳が出やすくなります。また、気管虚脱などの病気にかかりやすくなるので、かかりつけの獣医さんの指導のもと、適正体重を維持してあげてください。すでに愛犬が肥満の場合は、こちらの記事を参考に食事内容を見直して、適切なダイエットをしてあげましょう。

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抱っこの仕方も気をつけて

咳が出やすくなっている犬を抱っこするときは、首回りや胸元を抑えないように注意しましょう。特に気管虚脱を患っている子の場合、気管を締め付けると悪化してしまう可能性があります。

お散歩に行くときは首に負担がかかる首輪ではなく、ハーネス(胴輪)を選び、強くリードを引いたりしないよう注意しましょう。呼吸が荒くなると咳が出やすくなるので、できるだけ負担の少ないコースを選んだり、途中に休憩を挟むなど工夫してあげてください。

できるだけ興奮させない

インターホンの音が鳴ったり、飼い主さんがお出かけ先から帰ってきたりすると、つい興奮してしまう子もいると思います。しかし、興奮すると咳が出やすくなるので、できるだけ興奮させないように飼い主さん側が意識してあげることも大切です。帰宅時に大声で駆け寄ったり、「寂しかったよ〜!」と大きなリアクションをとると、犬もつられて興奮しやすくなります。帰宅時はできるだけ冷静に振る舞うようにしましょう。

「おすわり」「まて」などのトレーニングをもう一度きちんとできるようにして、愛犬が興奮しそうなタイミングでおすわりさせられるようにしてあげるのもいいと思います。

気圧や気温の変化に気をつけて

心臓病や呼吸器疾患を持っていると、気圧や気候の影響を受けやすくなります。季節の変わり目や梅雨シーズン、台風、雷を伴う大雨のときなどは咳が悪化しやすくなるので注意しましょう。お部屋に温度計・湿度計を設置し、空調や加湿器、除湿機などを使ってできるだけ快適な状態に保ってあげてください。雷の音で興奮してしまう場合は、テレビなどをつけて音を紛らわせたり、カーテンやシャッターを閉めたりしてなるべく音や光を遮ってあげると落ち着いてくれることがあります

また、夏場や冬場のお散歩は室内と屋外の気温差が激しくなるので、できるだけ温度差の少ない時間帯を選びましょう。

最後に

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シニア犬になると免疫力が低下し、色々な病気にかかりやすくなります。また、咳が続くと体力も消耗してしまうので、愛犬の咳が気になるようになったら、できるだけ早めに動物病院へ連れて行ってあげ