愛犬が末期の癌でも、穏やかに暮らしてもらうためにできること

愛犬にがんが見つかって闘病生活が長くなってくると、「できるだけ穏やかな最期を迎えてほしい。」と願う飼い主さんは多いと思います。そこで今回、多くの末期がんの犬たちを診察してきた日本獣医がん学会の認定医である吉田先生に、末期がんと戦う愛犬のためにしてあげられる、お家でのケアについて伺いました。

(TOP画像:Milan Popovic / Unsplash

愛犬の癌が進行するとどうなるのでしょう?

なにかしらの症状が現れる

がんができた場所や種類によって現れる症状はさまざまです。中にはある程度進行するまで、これといった症状が現れないものもあります。

しかし、どのようながんでも末期の状態になると、ほとんどのケースで強い症状が現れるようになります。強い痛みが現れることもあれば、倦怠感やだるさが強く出て、ぐったりした状態が続くこともありますし、脳腫瘍などでは激しい痙攣が見られることもあります。

治療方針は早めに決めておく

愛犬が高齢になってからがんが見つかると、手術などの積極的な治療を希望しない方もいるでしょう。しかし、ゆくゆく強い症状が現れることは、きちんと考えておいた方がいいです。末期の状態になってから積極的な治療を希望しても、手術できない段階になっていることも多いです。「あのとき手術しておけばよかった。」と後悔することのないように、早いうちからかかりつけの獣医師と相談して、飼い主さんが納得できる治療方針とその覚悟をしっかり固めておくことが大切です。

信頼できるかかりつけの動物病院を見つけておく

がんと闘う愛犬と暮らす上で、信頼できるかかりつけの獣医師の存在は非常に心強いものです。もし、かかりつけの動物病院を決めていなかったり、今通っている動物病院に少しでも不安を感じているときは、できるだけ早く、信頼できるかかりつけの動物病院を探しましょう。

あまり遠方だといざというときに困るので、なるべく近場で探してみてください。動物病院の休診日に愛犬が体調を崩す可能性もあるので、できれば信頼できる動物病院を2〜3つ探しておくと安心です。かかりつけの動物病院を選ぶときのポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。

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お家でできるケアを教えてください

痛みが出たときは早めに動物病院へ

がんが進行すると、痛みが出てくることがあります。痛みをそのままにしておくと、食欲不振や睡眠不足に陥って体が衰弱してしまうので、愛犬の異変に気づいたときは早めに動物病院へ連れて行きましょう。

犬は言葉で「痛い」と伝えることができないので、飼い主さんが早めに気づいてあげることが大切です。犬が痛がる時に見せる素振りや、がんによる痛みのケアについては、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

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食事のサポート

末期の状態になると、ごはんを食べられなくなることがあります。痛みや吐き気が原因で食べられないときは、薬で症状を抑えてあげることで再び食べられるようになることもあるので、まずはかかりつけの獣医さんに相談してみましょう。

その上で、食べやすくなるようにフードの内容や食事環境を見直してください。その子が大好きなものをトッピングしてあげたり、ドライフードをふやかして飲み込みやすくしたり、ごはん皿を食事台の上に置いて、高さを出してあげるのもよいでしょう。スプーンやシリンジなどを使って食べさせてあげるのもおすすめです。食事のサポートについてはこちらの記事に詳しくまとめているので、ぜひあわせてご覧ください。

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ちなみに、愛犬が食べてくれない様子を見て、飼い主さんの方が「どうして食べてくれないの…。」と落ち込んでしまうかもしませんが、そうしたネガティブな感情は愛犬に伝わります。そうすると食事の時間が嫌なものになってしまい、ますます食べてくれなくなることもあるので、食事中はできるだけ楽しい雰囲気を作ってあげるよう意識してみてください。

自宅で処置できることも

肺などにがんが転移して呼吸が苦しくなったときは、酸素室での入院が必要になります。状態が落ち着くまで一時的に酸素室で過ごした後、普段通りの生活に戻れることもありますが、肺の機能が低下してしまい、酸素室から出ると呼吸困難に陥ってしまうようなケースもあります。こうなると酸素室の中で生活しなくてはなりません。飼い主さんから離れることは、犬にとって大きなストレスになります。自宅に酸素ケージを準備してあげると、住み慣れたお家で過ごすことができます。酸素ケージをレンタルできるサービスがいくつかあるので、希望する方はかかりつけの獣医師と相談してみてください。

また、体が脱水しやすい子は、定期的な皮下点滴で楽になることがありますが、動物病院が極端に苦手な子や、通院のストレスが大きすぎる子の場合は、飼い主さんが自宅で処置をしてあげるという方法もあります。このような場合もまずはかかりつけの獣医師に相談してみましょう。

動物病院ではどのような治療をするのでしょうか?

末期の状態まで病状が進行していると、がんそのものを取り除く処置は難しいケースが多いです。だからと言って手の施しようがないのかというと、そういうわけではなく、できるだけ犬が苦痛を感じることなく生活できるように、投薬などで症状を和らげる治療(緩和ケア)が行われます。

痛みが強く現れているなら痛み止めが使われますし、吐き気が強く現れるときには吐き気止めの薬、激しい痙攣発作が頻繁に起きるときは発作止めの薬などを使うこともあります。体が脱水しているときには点滴などで水分を補ってあげると楽になるケースもあります。

薬があれば、痛みや苦痛を和らげることができるのでしょうか?

その子にあった投薬を

薬には色々な種類があります。例えば、痛み止めの薬にもいくつか種類があって、痛みの強さに応じて使い分けをします。また、薬の投与方法もさまざまで、飲み薬、注射、座薬のほか、皮膚に貼るパッチタイプのものもあります。これらの薬の中から、獣医師はその子の状況に応じて最適な薬を処方するので、投薬をするときは必ず獣医師の指示に従い、用量を守って与えましょう。尚、人間用の薬を与えることは絶対にやめてください。

薬が効かないケースも

中には、処方された薬を投与をしても、症状をコントロールできないケースがあります。そのようなときは独断で薬の量を増やしたりせず、必ず獣医師に連絡をして指示を仰ぐようにしてください。夜間などでかかりつけの獣医師と連絡が取れないときは、夜間対応してくれる救急病院に電話してみましょう。薬の種類や量を適切に調節することで、ある程度症状をコントロールできるようになります。

ただし、どんなに強い薬を使っても、症状をおさえられないことは残念ながらあります。いくら手を尽くしても、愛犬の苦痛を和らげてあげられないときに、最期までがんばる愛犬を見守ってあげるべきか、苦しまなくて済むように安楽死をしてあげるべきか、どうしてあげるのがその子のためになるのか、悩まれる方も多いと思います。そのような時も、ずっとお世話になっているかかりつけの獣医師に相談してみるとよいでしょう。その子の体調や病歴だけでなく、性格をよく知っている獣医さんにアドバイスをもらいながら、家族ともしっかり話し合ってみてください。

穏やかな最期を迎えさせてあげるためにできることはありますか?

飼い主さんの笑顔が一番の治療薬

愛犬が苦しそうにしている様子を見るのはつらいものです。けれど、飼い主さんが落ち込んだり泣き続けていると、犬はとても不安な気持ちになります。犬は、飼い主さんが自分に向けてくれる笑顔や、自分の名前を呼んでくれる優しい声が大好きです。どんなに辛くても、愛犬の前では泣くのをグッと堪えて、明るく優しい声で、「大丈夫だよ。」「大好きだよ。」と伝えてあげてください。愛犬が安心できる大好きな居場所を、最後まで守ってあげましょう。それが愛犬にとって何よりの治療薬になるはずです。

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たくさんスキンシップをとる

末期になって寝たきりのような状態になっていると、血行が悪くなって体に痛みが出やすくなります。体を優しく撫でてあげるだけでも血行がよくなるので、時間がある時はこまめに撫でてあげるとよいでしょう。可能ならマッサージを取り入れてあげるのもおすすめです。もともと撫でられるのが好きだった子は、撫でてもらうことでリラックスできるはず。触られるのが苦手だった子も、高齢になったり具合が悪くなったりした時に甘えん坊になることがあるので、様子を見ながらスキンシップをとってみましょう。

ただし、体に痛みが出ていると、触られるのを嫌がるようになることもあるので要注意。嫌がる時は無理に触ろうとせず、優しく見守ってあげてください。

その子が好きなことを続けてあげる

穏やかな最期を過ごすためには、「心の健康」が何よりも大切です。闘病生活では体の痛みや苦い薬、注射など、たくさんのつらいこと、苦しいことと闘わなくてはなりません。そうした中でも心を健康な状態に保つためには、その子が好きだったことをできるだけ続けてあげましょう。

お散歩が大好きだったのなら、抱っこやカートでお外に連れ出してあげてください。その子が元気になれる場所があるなら、調子のよさそうな日に連れて行ってあげるとよいでしょう。大好きなお友達に会わせてあげるのもいいかもしれません。病気になっても、その子が好きだったことを続けられるように色々工夫してあげてください。

最後に

がんが末期の状態になると、色々な症状が現れるケースがほとんどです。愛犬に変化が見られたときは、適切な治療で症状を和らげつつ、自宅でもしっかりケアしてあげましょう。飼い主さんの優しいケアがあれば、心はずっと元気なまま過ごせることと思います。