膀胱炎は、あらゆる犬種・年齢で発症する可能性のある病気ですが、シニア犬は特に発症リスクが高まるので注意が必要です。膀胱炎は治るまで時間がかかったり、再発することもあるため、自宅でしっかりケアをして予防・再発防止に努めましょう。今回は、犬の膀胱炎に関する症状や原因、対策について、獣医師の丸田先生に詳しく伺います。
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犬の膀胱炎とはどのような病気なのでしょう?
腎臓で作られた尿は尿管を通って一時的に膀胱に溜められ、やがて尿道から体外へと排出されます。
この膀胱で炎症が起きている状態を、膀胱炎と言います。シニア犬に比較的よく見られる病気で、治療が長期化したり再発を繰り返すこともあります。また、病状が進行すると腎臓にまで悪影響を及ぼすことがあるので、早期のうちに治療をすることが大切です。
膀胱炎ではどのような症状が見られますか?
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膀胱炎の症状について
犬が膀胱炎にかかると、以下のような初期症状が見られます。
- 頻繁にトイレに行く
- トイレの失敗が増える
- トイレに行っても尿が少ししか出ない
- トイレの体勢になってから排尿を始めるまでの時間が長い
症状が進行すると、次第に排尿時の痛みや血尿が現れるようになります。痛みからトイレをするときに鳴くこともあります。そしてさらに悪化すると、腎臓が細菌感染を起こす「腎盂腎炎」にかかったり、尿の通り道が詰まってしまい、おしっこが全く出なくなることもあります。
トイレの体勢を取っているにも関わらず、おしっこが出ていない時は、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。尿を排泄できないでいると、やがて膀胱がパンパンになって、行き場をなくした尿が腎臓に溜まり、急性腎不全を引き起こします。夜間などでかかりつけの動物病院が開いていない時は、夜間対応をしてくれる救急病院などに連れて行ってください。
よく似た症状が現れる病気
膀胱炎とよく似た症状が現れる病気の一つに、「膀胱腫瘍」があります。犬の膀胱にできる腫瘍は膀胱内の粘膜がガンになる「移行上皮癌(いこうじょうひがん)」であることが多いです。初期症状としては頻尿や血尿などが見られます。症状だけで膀胱炎と区別することは難しいので、早めに動物病院で診てもらいましょう。
移行上皮癌は基本的に全て悪性で、膀胱の中で徐々に増殖していきます。放置していると、ガン組織が尿道や尿管を塞いでしまったり、リンパ節や骨、肺などに転移を起こすこともあります。
犬が膀胱炎になる原因を教えてください
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膀胱炎の原因① 細菌感染
犬の膀胱炎で最も多いのは細菌感染によるものです。犬の尿道付近には、大腸菌やブドウ球菌などの細菌が常に存在しています。健康な時は免疫が働いて、こうした細菌が膀胱に入り込まないように防いでくれているのです。たまに免疫をすり抜けて細菌が膀胱内に入り込んでしまうこともありますが、すぐに膀胱炎になるわけではありません。定期的にしっかり尿を排出することで膀胱内が洗浄され、細菌も一緒に洗い流されるのです。
しかし、免疫力が低下したり、飲水量が減っておしっこの量が減ってしまうと、こうした防御機能がうまく働かなくなって膀胱炎を発症しやすくなります。また、細菌感染を起こすと尿のphが乱れて、後述する「膀胱炎の原因②」の結石ができやすくなるので注意が必要です。
膀胱炎の原因② 結石
細菌感染についで多いのが、結石による膀胱炎です。結石とは、尿の中にできたミネラルの結晶が固まって石のように大きな塊になったものです。尿の中の結晶は、飲水量の低下や偏った食生活、尿のphの乱れ(酸性、アルカリ性に傾くこと)などが原因で現れます。この結晶によって膀胱が炎症を起こすこともありますし、結晶が固まってできた結石が膀胱の粘膜を傷つけることによって発症することもあります。
膀胱炎にかかりやすい犬はいるのでしょうか?
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メスは膀胱炎を発症しやすい
メスはオスよりも尿道が太くて短いため、膀胱内に細菌が入り込みやすく、膀胱炎にかかりやすいと言われています。また、体の構造的に肛門と尿道口(尿の排出口)が近く、便の中にいる細菌が尿道から侵入しやすいです。
老犬も注意
シニア犬は免疫力が低下するため、細菌が侵入しやすくなります。しかも、高齢になるとあまりお水を飲まなくなる子が多く、膀胱内を洗浄する力が弱まって膀胱炎を発症しやすくなります。また、飲水量が低下すると、膀胱内に濃い尿が貯まるようになります。濃い尿は結石ができやすくなるので注意が必要です。
持病がある場合
クッシング症候群を発症すると、免疫機能を抑制するコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されるようになります。そのため、クッシング症候群の犬は免疫が低下し、膀胱炎を併発しやすくなります。また、糖尿病にかかっている子も膀胱炎にかかりやすいので注意しましょう。尿中に糖分が混じっていると、細菌が繁殖しやすくなるのです。
膀胱炎の検査ではどんなことをしますか?
尿検査
排尿の様子に違和感があったり、血尿が見られるなどで膀胱炎が疑われるときは、まず尿検査をすることが一般的です。尿検査では、細菌がいるか、またいる場合はどのような細菌なのか、結石の原因となる結晶があるか、尿のphバランスが崩れていないか、血尿が出ていないか等、さまざまな情報を調べることができます。
自力で排尿できない場合は、尿道からカテーテルを通して採取したり、お腹の上から注射をさして直接膀胱から尿を採取する方法もあります。これらは全て、麻酔なしでできる方法です。
超音波検査
膀胱炎が疑われる場合、超音波検査をすることも多いです。超音波検査では膀胱や尿管の様子を画像診断することができるので、膀胱に腫瘍があったり、尿管・尿道が詰まっている箇所があれば、この検査で見つけることができます。
その他の検査
結石が疑われる場合は、どこに結石があるのか把握するためにレントゲン検査を行うこともあります。また、膀胱炎の原因に他の疾患が関わっているような場合には、血液検査など必要な検査が追加されることもあります。
膀胱炎は再発しやすいと聞いたのですが、どんな治療をするのでしょう?
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膀胱炎の治療① 抗生物質で細菌を抑える
膀胱内で細菌が繁殖している場合には、抗生物質による治療を行います。獣医師の指示に従って、おうちで薬を与えてください。薬が効いて細菌が減ると、徐々に膀胱内の炎症がおさまり、症状も落ち着いていきます。しかし、症状がなくなったからといって投薬を中止すると、膀胱内に残っていた細菌が再び繁殖し、膀胱炎を再発してしまいます。獣医師に決められた量を全て与えるようにしましょう。投薬後に動物病院で検査してもらい、尿中に細菌が確認できなかったら、そこで治療終了となります。
膀胱炎の治療② 結石を除去する
結石は、どのミネラルが結晶化するのかによっていくつかの種類に分類されます。犬にできる結石で多いのは、ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム結石)とシュウ酸カルシウム結石ですが、他にもシスチン結石やケイ酸塩結石が見つかることもあります。結晶ができないよう、尿中のミネラルバランスを整えるためには、専用の療法食が必要になります。獣医師の指示に従って、適切な食事管理をしてあげてください。
尚、一度できた結石は療法食で溶かすことができるケースもありますが、結石が大きすぎたり、結石の種類によっては療法食で溶かすことができないものもあります。そのような場合は手術で除去したり、レーザーで粉砕したりして取り除く必要があります。こうして取り除いても今までと同じ生活を送っているとすぐにまた結石ができてしまうので、結石を除去した後は、結石ができないようにしっかり予防することも大切です。
膀胱炎の予防・再発防止のためにできることはありますか?
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膀胱炎を予防したり、再発を防止するためには、日々の習慣を見直すことが非常に大切です。特にシニア犬の場合は、次のことに気をつけてあげるとよいでしょう。
お水をしっかり飲ませて
シニア犬になると、喉の渇きに鈍感になったり、水飲み場まで移動するのが億劫になったり、様々な理由からお水を飲む量が少なくなって、体が脱水しやすくなります。濃い尿が少ししか作られないと膀胱炎を発症しやすくなるため、しっかりお水を飲ませてあげてください。水飲み場を増やしたり、お水に味をつけたり、フードの水分量を増やしてあげるのもおすすめです。シニア犬にお水を飲んでもらうためのアイデアは、こちらの記事で詳しく解説しています。
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食生活を見直して
にぼしや鰹節、ほうれん草など、ミネラルの多いものをおやつに与えていると結晶・結石ができやすいです。おやつを与えるときは、幅広い食材のものを少量ずつあげるようにしましょう。
また、かかりつけの獣医師からフードを変更するように指示されたら、おやつは一旦ストップしなくてはなりません。状態が安定してきたら獣医師に相談をしながら、少しずつおやつを追加していく流れになります。結石の種類によって栄養管理の方法は異なるので、どのようなおやつなら与えて大丈夫か、獣医師に確認してから与えるようにしましょう。
適正体重を維持する
肥満の子は結石ができやすいと考えられています。また、肥満になると関節や心臓に負担がかかりやすく、体を動かすのを嫌がって、トイレの回数が減ってしまうリスクもあります。肥満は結石に限らず、多くの生活習慣病のリスクとなるため、しっかり適正体重を維持してあげましょう。適性体重をオーバーしている場合はダイエットが必要になります。こちらの記事を参考にしながら、無理のないダイエットを始めてください。
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最後に
犬の膀胱炎は幅広い犬種、年齢で見られますが、シニア犬は特に注意が必要です。治療が長引くこともあるので、膀胱炎が疑われる場合は早急に適切な治療を受けさせてあげてください。