リンパ腫の症状や治療法を獣医師が解説!リンパ腫になった愛犬のためにできること

犬の平均寿命は年々伸びてきています。それとともに増加傾向にあるのが犬の腫瘍(ガン)です。中でもリンパ腫はシニア犬によく見られる腫瘍の一つ。ここではリンパ腫の症状やステージに触れながら、具体的にどのような治療法があるのかを解説します。

犬のリンパ腫とは

リンパ腫はリンパ球が癌化したもの

犬の体は無数の細胞から作られていて、通常、細胞は必要に応じて増殖と停止を繰り返します。しかし、何らかのきっかけで健康な細胞ががん細胞へ変わってしまうと、ひたすら増殖を続けるようになります。脳からの司令を無視し、大切な組織を圧迫したり、破壊したりしながら増え続け、やがてさまざまな臓器が機能不全に陥るようになります。

犬のリンパ腫は、犬の体内にあるリンパ球という細胞ががん細胞へと変化する悪性腫瘍です。悪性と良性の違いについては『老犬に多いガン(癌)。症状や治療法をわかりやすく解説します!』で解説しています。

リンパ球とは

リンパ球は、免疫システムを司る細胞の一つです。白血球の仲間で、細菌やウイルスに感染した細胞を攻撃したり、一度感染した病原体を記憶して、再び病原体が侵入したときにすぐに対応できる体勢を整えたりしています。

リンパ球は血液中のほか、リンパ管の中を流れるリンパ液中に存在していて、血液とリンパ液を行き来しながら全身をパトロールしています。ちなみに、リンパ管の至るところに存在するリンパ節はリンパ球を育てたり、ウイルスやがん細胞などの異物を監視して排除する重要な役割を担っており、体が病原体に侵されるとリンパ節が腫れることもあります。

リンパ腫の原因は?

リンパ球がなぜがん細胞に変化するのか、今のところはっきりした原因はわかっていません。原因がわからないので予防することはできないのですが、早期に治療を開始できれば、元気に過ごせる時間を伸ばすこともできます。できるだけ早めに発見することが理想です。

リンパ腫の症状は?痛みはある?

リンパ腫にはいくつかの種類があり、タイプによって症状が異なります。ここではタイプごとにどのような症状が現れるのか解説します。

多中心型

リンパ節は全身の至るところに存在していますが、主に体の表面近くにある複数のリンパ腫が同時に腫れるタイプを「多中心型」と言います。リンパ腫を発症した犬のうち、80%は多中心型と言われており、犬のリンパ腫の中で最も多いタイプです。

初期は症状が出ないこともありますが、リンパの腫れによって飼い主さんが気付けることもあります。症状が進行するといびきやしこりが現れるようになり、さらに悪化すると食欲低下や体重減少、呼吸困難などが見られるようになります。

消化器型

胃、小腸、大腸に発生し、リンパ節や肝臓などに広がっていくものを「消化器型」と言います。リンパ腫と診断された犬のうち約5~7%が消化器型で、多中心型の次に多いタイプです。消化吸収機能が低下するため嘔吐や下痢などの症状が現れ、さらに進行すると食欲の低下や体重の減少が見られるようになります。

縦隔型

縦隔型は胸の中に発生するリンパ腫です。リンパ腫にかかった犬のうち、縦隔型は約5%。胸に病変ができるため物を飲み込むことが難しくなります。悪化すると胸の中に水が溜まる「胸水」が現れ、呼吸困難を引き起こすこともあります。

皮膚型

犬では非常に稀ですが、皮膚にリンパ腫ができることがあります。これを「皮膚型」と言います。皮膚炎のような症状が現れるのが特徴で、皮膚の赤み、かゆみ、出血、ただれなどが挙げられます。口内炎など、粘膜に病変が現れることもあります。重度の痒みや痛みに悩まされることも多いです。

リンパ腫のステージと検査について

リンパ腫の進行度を示すステージ

病気の進行度は、ステージを使って表されます。リンパ腫のステージはⅠからⅤの5段階あり、数字が大きいほど重症であることを意味しています。リンパ腫が見つかったときは、まずはどの程度病気が進行しているかをステージで分類し、それに基づいて治療法を決定します。リンパ腫のステージ分類は、以下の通りです。

ステージⅠ 単独のリンパ節や単一臓器のリンパ組織のみに留まっている状態
ステージⅡ 複数のリンパ節に異常が起きている状態
ステージⅢ 全身のリンパ節に異常が起きている状態
ステージⅣ 肝臓や脾臓に広がっている状態
ステージⅤ 液、骨髄、その他の部位にまで広がっている状態

リンパ腫は初期症状が現れなことも多く、発見できた時にはステージⅢ〜Ⅴであることが多いです。特に多心中型においては、ステージⅤまで進行していることも珍しくありません。

リンパ腫の検査ではどんなことをするの?

リンパ腫を発症するとリンパ節が腫れます。しかし、歯周病や皮膚病、ウイルス感染などでもリンパ節が腫れることはあるため、まずはリンパ節が腫れている原因を特定するためにリンパ節に針を刺し、細胞を取って顕微鏡で調べる「細胞診」という検査を行います。細胞診はほとんど痛みがなく、麻酔なしで行うことができるため、その日のうちにリンパ腫かどうか特定できることが多いです。

リンパ腫であることを特定できたら、次は腫瘍がどこまで広がっているかを調べます。状況に応じて血液検査、レントゲン撮影、超音波検査、尿検査、肝臓・脾臓の細胞診、骨髄検査などを行います。また、抗がん剤との相性を調べるために、リンパ腫のタイプを調べる検査も合わせて行います。

リンパ腫の治療について

リンパ腫の治療は抗がん剤が中心

リンパ節は全身に存在することから、手術でがん細胞を除去することは困難です。そのため、抗がん剤治療が中心となります。ただし、リンパ腫が大きな塊になっている場合には、先に手術や放射線で塊を取り除いてから抗がん剤を投与することもあります。抗がん剤にはいくつか種類があり、犬の状態やリンパ腫のタイプから使用する抗がん剤を決めます。

完治はするの?

リンパ腫は、適切な治療をしなければ平均余命1~2ヶ月と言われていますが、他の悪性腫瘍(ガン)と比べると抗がん剤が効きやすく、再び元気に過ごせるようになることも珍しいことではありません。全身に広がったがん細胞を根絶することは難しいですが、抗がん剤でがん細胞をうまく抑えることができれば、無症状で元気に過ごせる期間を伸ばすことは可能です。

抗がん剤の副作用について

抗がん剤は副作用があるから使いたくない、と考える飼い主さんもいるかもしれませんが、犬の場合、人間のような強い副作用に悩まされるケースは少ないです。下痢や嘔吐、食欲低下、白血球数減少などの症状が現れることもありますが、吐き気止めや整腸剤、食欲増進剤などの薬を投与する、食事内容を見直すなど、適切なケアをすることで症状を最小限に抑えることができます。

副作用の症状が強く出てしまう時は、抗がん剤の投与を延期することもあります。愛犬の苦しみを最小限に抑えた治療が可能なので、副作用に関して不安がある時はかかりつけの獣医師に相談してみるとよいでしょう。

抗がん剤治療の通院頻度と費用について

リンパ腫のタイプや使用する抗がん剤の種類によって通院頻度は異なりますが、抗がん剤と相性の良い「低分化型」というタイプの場合、以下の治療が行われることが一般的です。

  • 通院で抗がん剤の投与を1〜2週間ごとに、約半年ほど続ける。
  • 副作用の症状を抑える薬も自宅で服用する。

抗がん剤の投与がない週でも、白血球数のチェックなどで週に一度の通院が必要となるため、どうしても治療費が高額になってしまうこともあります。費用に関して不安がある場合は、治療を開始する前にきちんと獣医師に伝えておきましょう。

愛犬がリンパ腫と診断されたら

食事療法も大切

腫瘍(ガン)と闘うためには食事療法も大切です。犬が日々の食事で摂取しているのは主に糖質、タンパク質、脂質の3つですが、がん細胞はこの中でも特に糖質を好むと言われています。このようなそのため、愛犬がリンパ腫と診断されたら、まずは食事を見直しましょう。がん細胞の性質を利用した腫瘍(ガン)の療法食やサプリメントもあるので、気になる方はかかりつけの獣医師に相談しながら試してみてください。

また、リンパ腫にかかると食欲が低下してしまうことが多いです。病気と闘う体力を維持するため、抗がん剤の副作用を抑えるために、必要な栄養をしっかり摂ることはとても重要です。愛犬に腫瘍が見つかったときの食事療法については、『ガン(癌)と診断された愛犬のためにできる食事療法とは?』で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。

ただし、肝臓や胆のう、腎臓などに疾患があると、食事制限が必要となることも多いです。自己判断で切り替えたりせず、必ずかかりつけの獣医師の指示に従いましょう。

納得のできる治療を探して

愛犬がリンパ腫であると診断されたら、どこまでの治療を希望するのか、飼い主さんご自身でじっくり考えておく必要があります。積極的な治療を希望するのか、愛犬のQOL(生活の質)を維持するためにできることをするのか、かかりつけの獣医師にも相談しながら治療方針を固めましょう。

どうしても治療方針に納得できないときはセカンドオピニオンを頼ってもいいと思います。ただし、慣れていない新しい動物病院へ連れて行くことは、体調を崩している愛犬にとって大きな負担となりますので、そういった点もしっかり考慮した上で、飼い主さんが納得できる治療方針を選べるといいですね。

最後に

リンパ腫は、シニア犬に比較的よくみられる腫瘍の一つで、適切な治療をしなければ余命は1〜2ヶ月程と言われています。ただし、きちんと治療をすることで元気に過ごせる期間を伸ばしてあげることは可能です。愛犬がリンパ腫と診断されたら、かかりつけの獣医師としっかり相談しながら、飼い主さんが納得のできる治療をしてあげましょう。