【老犬に多い慢性腎臓病】食事療法や自宅でのケアの仕方を獣医師が解説

シニア犬によく見られる慢性腎臓病は、長期にわたって腎臓の機能が低下する病気です。完治させることはできませんが、食事の見直しや定期的な通院で症状の進行を遅らせることはできます。ここでは犬の慢性腎臓病について、症状や治療法、食事の注意点などを解説します。

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老犬は腎臓病を発症することが多いですよね?

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腎臓の働きと腎臓病

腎臓は再生させることが難しい臓器で、非常に重要な役割を担っています。

  • 血液中の不要な老廃物をこし取り、尿として体外へ排出する。(ろ過機能)
  • 体に必要な水分が出ていきすぎないよう、尿を濃縮する。
  • 血圧をコントロールしたり、赤血球を作るためのホルモン(造血ホルモン)を分泌する。

こうした腎臓の働きが低下すると、体が脱水しやすくなったり、血液中の老廃物が排出できなくなったりして全身へ悪影響を及ぼすようになります。

腎臓病が進行して末期になると・・・

腎臓病が進行すると腎臓のろ過機能が働かなくなり、体に不要な老廃物が徐々に溜まっていきます。腎臓の働きが正常時の25%以下まで低下すると「腎不全」という状態になり、さらに進行して末期の状態になると「尿毒症」を引き起こします。尿毒症とは有害な老廃物が体内にとどまり、ミネラルのバランスを保てなくなっている状態で、様々な全身症状が現れます。尿毒症になる前に適切な治療をして、腎臓の機能を維持することが大切です。

<尿毒症の症状>

  • 口からアンモニアのような刺激臭がする
  • 口内炎
  • 嘔吐、下痢
  • 食欲不振
  • けいれんや意識障害

持病がある犬は特に注意して

糖尿病を患っていて、尿の中に糖が混じった状態が続くと、腎臓に大きな負担がかかり、腎臓病を発症しやすくなります。また、高血圧が続いてしまうときも腎臓病の発症リスクが高くなります。それから、心臓病の治療をしている子や、他の病気の治療で利尿剤を使っている子は、それらの病気の治療と腎臓の保護を両立させることが非常に大切なので、特に注意が必要です。こうした持病がある場合は、腎機能の低下にいち早く気づけるよう、こまめに尿検査や血液検査などの検診を受けましょう。

腎臓病は完治するのでしょうか?

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腎臓病は、腎機能が低下するスピードに応じて「急性腎障害」と「慢性腎臓病」に分けられます。急性腎障害は迅速な対応によって完治する可能性もありますが、慢性腎臓病は一度発症すると治すことは難しく、今以上に腎臓の機能が失われないように維持していくことが治療の目的になります。

急性腎障害とは

急性腎障害は、大量の出血や脱水、熱中症、尿路結石、レプトスピラ感染症、毒物(レーズン・ぶどう・鉛・人間用の薬等)の誤飲などが原因で、急激に腎機能が低下します。発症から数時間ほどで嘔吐や排尿障害などの症状が見られ、早急に適切な治療を受けなければ死に至ることも少なくありません 。

完治できるかどうかは腎臓の受けたダメージの程度によって異なります。ダメージが軽度であれば、適切な治療によって完治が期待できる場合もありますが、ダメージが大きく、治療をしても腎臓の機能が戻らなければ、そのまま慢性腎不全へと移行します。さらにダメージの程度が大きいと、残念ながら治療の甲斐なく命を落としてしまうこともあります。

慢性腎臓病とは

慢性腎臓病は数か月~数年という長い年月をかけて、徐々に腎機能が低下していきます。中には遺伝的に腎臓に異常があり、若くして発症するケースもありますが、一般的には高齢になるほど発症リスクは高まります。

初期症状が乏しいため、動物病院で慢性腎臓病と診断されたときには、病気がかなり進行しているケースも珍しくありません。残念ながら、慢性腎臓病では一度低下してしまった腎機能を完全に回復させることは難しく、残された腎臓の機能をいかに保存するかというのが治療のポイントになります。

愛犬が慢性腎臓病と診断されたら、残存している腎臓の機能を最大限残すこと、愛犬の苦痛を減らしてQOL(生活の質)を維持することが重要です。完治させることは難しいですが、早い段階で病気を発見して治療ができれば、病気と向き合いながら寿命を全うできるケースもあります。

老犬に多い慢性腎臓病の症状について教えてください

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慢性腎臓病は初期症状が現れにくい

腎臓は、背中側の左右2か所に位置している臓器です。片方の腎臓の機能が落ちても、もう片方の働きでカバーしようとするため、症状が現れるまでにかなり時間がかかります。腎臓病の症状が現れ始めたときは、すでに腎臓がかなり疲弊している状態なのです。

慢性腎臓病のステージについて

慢性腎臓病はその進行度合によって以下のようなステージに分けられます。

ステージ 血清クレアチニン(mg / dL) SDMA (µg / dL) 残存腎機能 臨床症状
1.4未満 18未満 100~33 % なし
1.4~2.0 18〜35 33~25 % なし、もしくは軽度(多飲多尿)
2.1~5.0 36〜54 25~10 % 全身の臨床症状

(嘔吐、貧血、脱水など)

5.0以上 54以上 10 %以下 全身の臨床症状、尿毒症

※血清クレアチニン・SDMAとは・・・腎機能を反映する血液検査の項目。この二つの項目を確認することで、腎臓の機能を把握することができます。

目立った臨床症状が現れるのは、ステージⅢ(腎機能の75%以上を失った状態)以降の場合が多いです。ここまで進行すると造血に関わるホルモンを作ることが難しくなるため、歯肉が白っぽくなる、疲れやすくなるなど、貧血の症状が見られることもあります。さらにステージⅣまで進行してしまうと、積極的な治療をしなければ生命活動を維持するのが困難な状態になります。

また、慢性腎臓病が疑われる場合は、危険因子となる高血圧の既往や、蛋白尿の有無などの確認も行われます。

老犬でこんな症状が見られたらすぐに動物病院へ

初期の慢性腎臓病では症状がほとんど現れません。愛犬がたくさん水を飲むようになったり、毛ヅヤが悪くなったと感じたときは、一度動物病院で血液検査を受けましょう。この他にも以下のような症状が現れ始めた頃には腎臓病が進行していることが考えられるので、すぐに動物病院を受診しましょう。

  • 尿の量が増える
  • 尿の色が薄い
  • 食欲が低下する
  • 体重が減少する
  • 嘔吐
  • 元気がない
  • 口臭がきつくなる
  • 毛にツヤがない

慢性腎臓病ではどんな治療をするのでしょうか?

横になる老犬

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慢性腎臓病は完治させることが難しいため、残存している腎臓の機能を保護し、進行を遅らせる治療を行います。ここでは、慢性腎臓病の治療方法について解説します。

食事療法が非常に大切

慢性腎臓病の治療では、残っている腎臓をいかに保護できるかが鍵。そのためには腎臓に負担をかけないフードに切り替えることが何よりも大切です。腎臓病の療法食は栄養管理が非常に複雑なので、かかりつけの獣医師と相談しながら専用の療法食に切り替えましょう。ビーフジャーキーやクッキーなどのおやつも、腎臓に負担をかけるためNGです。

ただし、腎臓病の犬は食欲が低下していることも多く、処方された療法食を食べてくれないケースも少なくありません。療法食にもカリカリやウェット、缶詰など様々な種類があるので、愛犬が好んで食べてくれるものを探しましょう。こちらの記事では幅広い腎臓病用の療法食と、療法食を食べてくれない時のアイデアをまとめています。

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投薬治療

腎臓の機能が低下して血液中に老廃物や毒素が溜まると、吐き気や食欲不振を感じることが多くなります。吐き気が強い場合には吐き気を抑える薬を注射で投与したり、胃酸を抑えて胃のむかつきを和らげるような飲み薬などが処方されます。また、毒素を吸着するサプリメントなどもよく処方されます。このサプリメントには、食事と一緒に服用すると食事中やお腹の中の毒素を吸着し、便として体外へ排出してくれる効果があります。また、高血圧がある場合は血圧を下げる薬を使用することもありますし、脱水や貧血などの症状がある場合には点滴や赤血球の造血を促す注射を投与するケースもあります。

皮下点滴(皮下輸液)

腎臓の機能が低下すると、尿を濃縮する力が弱まり、薄いおしっこを大量にするようになります。そのため、こまめに水分を摂取していても、体が脱水しやすい状態に陥ってしまうのです。体が脱水をおこすと腎臓にかかる負担が大きくなってしまうので、定期的に皮下点滴(皮下補液)で水分を補ってあげることが推奨されます。

皮下点滴は、血管に直接点滴剤を入れる通常の静脈点滴と違い、皮膚の下に針を刺して水分を送り込みます。皮膚の下に溜まった水分は、時間をかけて少しずつ血管内に取り込まれていき、体が脱水するのを防いでくれます。

ただし、動物病院で皮下点滴をするとなると、 必要があり、病院が苦手な子は通院のストレスが大きくなったり、治療費も高額になりがちです。幸い、皮下点滴は飼い主さんが自宅で処置することも可能なので、希望する方はかかりつけの獣医師に相談してみましょう。きちんとやり方を教われば、飼い主さんがお家で処置してあげられるようになりますよ◎

 

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リン吸着剤を使うことも

魚介類や卵類に多く含まれるリンは、骨や歯の健康を維持するために必要な栄養素です。しかし、腎機能が低下すると体内にリンを溜め込みやすくなる上、血液中のリン濃度が高くなると慢性腎臓病がさらに悪化することがわかっているため、腎臓病を発症している場合は摂取量を制限しなければなりません。

腎臓病用の療法食は、リンなどの腎臓に悪影響のある栄養素が適切に調節されているため、腎臓にかかる負担だけを考えると、水と療法食だけで生活をするのが理想的です。 しかし、腎臓病を患っている子は食欲が低下してしまうことが多く、どんなに工夫しても療法食を食べてくれないことがあります。そのような時には体に吸収されるリンの量を減らしてくれる「リン吸着剤」を使用することがあります。

リン吸着剤にはパウダータイプや錠剤タイプのものがあり、フードに混ぜるなどして与えます。ただし、リン吸着剤は全てのリンを吸着してくれるわけではありません。また、腎臓に悪影響を与える栄養素のうち、リンだけしか吸着してくれないことから、「リン吸着剤を使えばなにを食べてもいい」というわけではないので注意しましょう。

再生医療や透析などの先進医療について教えてください

慢性腎不全の治療は食事療法と投薬、点滴などが一般的ですが、先進医療として再生医療や透析治療などがあります。ただし、これらの治療法は症例数が少なく、治療を受けられる医療施設も限られていて、費用も高額になることが多いです。ここでは先進医療でどんなことができるのか、注意点と併せて解説します。

犬の透析治療について

点滴や投薬をしても腎機能の回復が難しい状態になると、人間の場合は透析治療の中でも血液透析を行うケースが多いです。血液透析とは、一度取り出した血液を機械に通して毒素や老廃物を取り除き、きれいになった血液を再び体の中に戻すというものです。人間ではメジャーな治療法ですが、犬の場合まだまだ浸透していません。血液透析を行なっている施設は全国でも少なく、さらに透析をするためには入院が必要なこと、一回あたりの費用が高額なこと、週に2〜3回の透析が必要になることなどから、犬や飼い主さんにかかる負担が大きいことが理由に挙げられます。

再生医療について

動物には、様々な臓器や組織に分化することのできる「幹細胞」が存在します。近年注目されつつある犬や猫の再生医療は、犬本人の皮下脂肪から採取した脂肪細胞を培養し、幹細胞として動物の体内に戻すことで、障害を受けた組織や臓器の再生を促す治療法です。これを応用して、幹細胞を腎臓へ戻すことで腎機能の改善が期待され、慢性腎不全にも効果があるのではないかと言われています。自分の細胞からできた幹細胞を用いるため、副作用などのリスクが非常に少ないのがメリットですが、再生医療はまだ研究途中の分野であるため、必ずしも成果が出るものではなく、病状に応じて効果が異なる点も留意しておかなければなりません。再生能力がうまく合致すれば奇跡的に回復することもありますが、残念ながら再生医療を行なっても効果を得られないというケースもあります。再生医療を取り入れている病院には限りがあり、治療費も高額になるため、気になる方はまずかかりつけの獣医師に相談してみるとよいでしょう。

どこまでの治療をするべき?

慢性腎臓病は多くの場合、一生涯治療が必要になります。愛犬が慢性腎臓病と診断されたら、どこまでの治療を希望するのか、飼い主さんがしっかり考える必要があります。食事療法は治療の要になるので必ず取り入れて頂きたい治療です。それに加えて、内服薬やサプリメント、皮下点滴などを組み合わせて行うことが一般的ですが、その頻度やこれら以外の治療については、どういった効果があってどういったリスクがあるのか、どのくらいの費用がかかるのか、愛犬の余命やQOL(生活の質)を考えたときにどの程度まで積極的な治療をしてあげるべきなのか、かかりつけの獣医師とよく相談しながら、ご家族と一緒に考えてみてください。

腎臓病は予防はできるのでしょうか?

(画像:Instagram / @hanahana.shii

慢性腎臓病は年齢とともに腎臓の組織がダメージを受けることが原因なので、完全に予防することはできません。しかし、生活環境を見直すことで、腎臓へのダメージを減らすことは可能です。ここでは腎臓をいたわるためにできることをご紹介します。すでに腎臓病を発症している子にも有効ですので、ぜひ取り入れてみてください。

お水をこまめに飲む

腎臓を保護するためには、血流をよくすることがとても大切です。シニア犬になるとさまざまな理由から飲水量が低下しやすくなるので、こまめに水分を補うよう、意識してあげてください。体が脱水すると血液中の水分も減ってドロドロした血液になり、血行が悪くなってしまいます。

また、しっかり水分をとることは、急性腎臓病を引き起こす尿路結石を予防することにも繋がります。シニア犬にお水を飲んでもらうための工夫はこちらの記事で詳しく紹介しているので、ぜひあわせてご覧ください。

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適度な運動

血行をよくするためには、適度な運動も大切です。特にシニア犬は寝ている時間が長くなって、血行が悪くなりがちです。無理のない範囲で遊びを取り入れたり、お散歩に出かけたりして、適度に体を動かしてあげましょう。体を動かすことが難しい子の場合は、マッサージやブラッシングを取り入れるのもおすすめです◎

体を冷やさない

高齢になると体温調節機能が衰えるため、体が冷えやすくなります。体が冷えると血行が悪くなってしまうだけでなく、免疫力や胃腸の働きも低下してしまいます。空調はこまめに調節し、腹巻きや犬用湯たんぽ(ただし低温やけどには注意)などの温活アイテムを活用して、体が冷えないように気をつけてあげてください。

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ワクチンでレプトスピラ症を予防する

レプトスピラ症は、レプトスピラという細菌が原因で発症する感染症で、感染したネズミなどの野生動物や牛馬などの尿から感染します。ほとんど症状が現れない場合もありますが、中には重症化したり急性腎臓病を引き起こすことがあります。レプトスピラ症は混合ワクチンで予防することができるので、お散歩やお出かけの範囲内に感染するリスクがあると思われる場合には、ワクチン接種をしておくと安心です。ただし、シニア犬は免疫力が低下してワクチンの副作用が現れやすくなるので、かかりつけの獣医師としっかり相談してから、接種すべきかどうか決めるとよいでしょう。

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居住環境を整える

犬が食べると急性腎臓病を引き起こす、レーズンやぶどう、人間用の薬などは、愛犬が誤って口にしないよう、手の届かないところでしっかり管理しておきましょう。「うちの子は落ち着いているから大丈夫」と思っていても、ホルモン疾患などが原因で色々なものを口に入れるようになることもあります。

それから、自力でなかなか動けない子の場合、長時間日の当たる場所に寝かせておくと脱水や熱中症のリスクがあります。熱中症になると腎臓に大きな負担がかかりますし、最悪の場合命を落とすこともあります。温度計や湿度計を設置し、愛犬が快適に過ごせる環境を整えてあげましょう。

最後に

愛犬が高齢になると、慢性腎臓病にかかるリスクが高くなります。初期のうちは目立った臨床症状が現れないので、特に老犬の場合は定期的に検査を受け、早期発見・早期治療に繋げることが重要です。治療法も幅広いため、愛犬の体にかかる負担も考えて、飼い主さんが納得できる治療方針を選べるといいですね。