愛犬をウイルスや病原体から守るためのワクチン接種。しかし年齢を重ねるにつれて外出する機会が減ってくると、「果たしていつまで接種すべきなのだろう。」と疑問に思う飼い主さんもいらっしゃると思います。徐々に体力が衰えてくると、副作用についても気になりますよね。ここでは獣医師の石川先生にシニア犬のワクチン事情について伺いました。
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犬に必要なのは狂犬病ワクチンと混合ワクチンですよね?
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狂犬病ワクチンについて
狂犬病は犬を介して人間にも感染し、発症すると非常に高い確率で死に至ります。日本は島国のため、あまり身近な病気ではありませんが、海外では未だに毎年多くの死者を出している恐ろしい感染症です。
そのため、狂犬病ワクチンは法律で年に1度の接種が義務付けられています。「狂犬病予防法」では、生後90日が経過した犬は必ず狂犬病ワクチンを接種すること、以後1年に1回の接種を行うことが定められています。
混合ワクチンについて
一方、混合ワクチンは法律で義務付けられているわけではありません。ただ、愛犬の健康を守るために接種することが推奨されています。
混合ワクチンは大きく分けるとコアワクチンとノンコアワクチンの二種類があります。コアワクチンは致死率の高い病気を防ぐことができるもので、基本的には全ての犬に接種すべきとされています。一方、ノンコアワクチンは飼育環境やライフスタイルに応じて、感染のリスクがあると考えられる場合にのみ接種するもの。通常のワクチン接種では、コアワクチンをベースにノンコアワクチンを組み合わせ、5種、8種のように様々なワクチンを同時に接種するのが一般的です。
フィラリア予防、ノミダニ予防も忘れずに
ワクチンではありませんが、愛犬の命を守るためにはフィラリア予防も重要です。フィラリアは蚊を媒介して犬に寄生する虫で、放置すると犬の心臓の中でどんどん成長していき、最終的には心不全や呼吸困難を引き起こします。一昔前は予防薬が普及していなかったため、多くの犬がフィラリアで命を落としました。きちんと予防薬を飲ませていれば防ぐことができるので、しっかり予防してあげてください。
また、ノミダニ予防も大切です。多くの病原体を保有しているマダニや皮膚に痒みを引き起こすノミを寄せ付けないために、ノミダニ予防もきちんとしてあげましょう。
シニア犬(老犬)がワクチン接種をするリスクはありますか?
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ワクチンと副作用について
愛犬を感染症から守るためのワクチン接種ですが、ワクチンは病原性を弱めたウイルスや死んだウイルスから作られるため、稀に副作用が現れることがあります。
ワクチンの副作用では、主に以下のような症状が現れます。
- アナフィラキシーショック(痙攣、呼吸困難、血圧低下など)
- 嘔吐
- 下痢
- 発熱
- 皮膚の痒み
- 顔面の腫れ
アナフィラキシーショックはワクチン接種後すぐに現れる急性のアレルギー反応です。放置すると命を落とす危険性がありますが、アナフィラキシーショックが起こることは稀で、発症しても迅速かつ適切に処置をすれば回復することが多いです。
その他の副作用も時間が経つとおさまりますが、副作用が現れたときは必ず動物病院で診てもらうようにしましょう。
高齢になると副作用のリスクも高まる
健康な犬であれば副作用が起こることは稀ですし、副作用が出たとしても多くは軽度な症状で済みます。しかし、体力の衰えているシニア犬は副作用が強く現れることがあります。また、シニア犬は少しのストレスで急激な体調不良を引き起こすことがあるので、ワクチン接種には若い頃以上に慎重になる必要があります。
シニア犬(老犬)に狂犬病ワクチンは必要ですか?
法律では原則必要
狂犬病ワクチンは年齢に関わらず、生涯にわたり接種することが義務付けられています。基本的には高齢という理由だけで免除されることはありません。しかし、病気療養中や体調不良などで獣医師が「接種不可」と判断した場合は、ワクチン接種を免除してもらうことができます。高齢になって、体調を崩すことが多くなってきた愛犬にワクチンを接種しても大丈夫か悩んだ時は、かかりつけの獣医さんに相談してみましょう。
免除になった時の手続きについて
狂犬病ワクチンを免除してもらった時は、動物病院で「予防接種実施猶予証明書」を発行してもらい、役所で免除の手続きをする必要があります。免除の猶予期限は1年間となっているため、以後も接種不可と判断された場合は、その都度証明書を発行してもらってください。
シニア犬(老犬)に混合ワクチンは必要ですか?
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愛犬の命を守る混合ワクチン
混合ワクチンにはコアワクチンとノンコアワクチンの二種類があります。それぞれどのようなウイルスを防ぐことができるのか簡単にご紹介します。
<コアワクチンで防げる病気>
- 犬ジステンパー:感染した犬の唾液や尿から感染するほか、至近距離では空気感染することもあります。免疫力が高いと風邪のような症状だけで治ることも多いですが、免疫力が低下していると肺炎や重篤な神経症状を引き起こすこともあります。
- 犬パルボウイルス感染症:犬パルボウイルスに感染した犬の糞便などから感染します。このウイルスは非常に生命力が強く、通常の環境でも数ヶ月は生存します。小腸の粘膜に感染して激しい炎症を起こし、死に至ることもあります。
- 犬伝染性肝炎:アデノウイルスI型に感染した犬の唾液や尿などから感染します。感染しても無症状のこともありますが、発症から一気に症状が進んで死に至ることもあります。
<ノンコアワクチンで防げる病気>
- ケンネルコフ:感染した犬と接触したり、フードやお皿などを共有することで感染します。別名「犬風邪」と呼ばれる病気で、咳や鼻水などの症状が現れます。免疫力の低い子犬やシニア犬は重症化することもあるので注意が必要です。
- ライム病:マダニに刺されることで感染し、犬から人間にも移ります。マダニは森や野原、民家の裏山や畑、あぜ道などに生息しています。
- レプトスピラ:感染したネズミや牛馬などの糞尿から感染します。自然回復することもありますが、急激に症状が悪化して死に至ることもあります。
混合ワクチンの内容は都度見直して
コアワクチンで防げる病気の中には、他の犬と接触していなくても、同じルートを散歩しただけで感染するものもあります。このような恐ろしい病気から愛犬を守ってくれるので、ワクチン接種はとても大切です。しかし、接種するワクチンの種類が多ければ多いほど、犬の体にかかる負担は大きくなりますし、副作用のリスクも高まります。
年齢と共に活動範囲が狭くなっているのなら、若い頃と同じワクチンを接種する必要はないかもしれません。かかりつけの獣医さんとしっかり相談して、愛犬の年齢や生活スタイルに最適なワクチンを選んであげましょう。
混合ワクチンはどのくらいの頻度で接種したらいいですか?
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コアワクチンの接種は3年に1度
世界小動物獣医師会による“ワクチン接種のガイドライン”では、コアワクチンのうち、犬ジステンパー、犬パルボ、犬アデノの3種については、3年以上の間隔をあけて接種するのが望ましいとされています。最近の研究で1歳までに適切にワクチン接種を行った場合、これらのウイルスに対して1度のワクチン接種で3年程度、最長で7年はその効果が続くことがわかったためです。ワクチン接種の回数が多くなれば、それだけ副作用の生じるリスクも高くなってしまうので、最近はコアワクチンを3年に1度のペースで接種するよう推奨している獣医師も増えています。
「ワクチン抗体検査」で愛犬への負担を減らす
愛犬が高齢になってきたらワクチン抗体検査を上手に活用して、必要な時だけワクチンを接種するといいと思います。ワクチンを接種すると、そのウイルスから体を守ってくれる「抗体」が作り出されます。抗体はしばらく体の中に存在し続けますが、ウイルスが入ってこないと徐々にその力を失っていきます。ワクチン抗体検査では、血液検査によってその犬の持っている抗体の状態を調べます。危険なウイルスに感染したとき、ウイルスを追い出すだけの抗体が残っているのかどうかを調べ、今の抗体の状態ではウイルスと戦うことができないと判断された場合のみ、追加でワクチン接種を行います。ワクチン抗体検査によって、不要なワクチン接種を避けることができるのです。
抗体検査の費用は?
ワクチン抗体検査にかかる費用は動物病院によって多少前後しますが、おおよそ8千円ほどです。検査キットが常備されている病院なら採血から30分程度で結果がわかります。毎年春に実施するフィラリア検査も採血をする必要があるので、そのとき一緒に調べてもらいましょう。費用はフィラリア検査とワクチン抗体検査それぞれで発生しますが、採血が1度で済むので愛犬にかかる負担を減らすことができます。
施設を利用する際は事前に確認を
ペットホテルやドッグランなどでは、1年以内にワクチン接種をしていない犬の立ち入りを禁止したり、施設利用の際に「ワクチン接種証明書」の提出を義務付けているところもあります。しかし、1年以上ワクチン接種をしていない犬も、「ワクチン抗体検査証明書」があればOKとする施設も増えてきています。ワクチン抗体検査証明書は、動物病院でワクチン抗体検査を受け、抗体が十分であると判断された場合に発行されます。ただし、全ての施設が対応しているわけではないので、事前にワクチン抗体検査証明書の提示で入場が可能かどうか問い合わせるようにしましょう。
シニア犬(老犬)のワクチン接種の注意点を教えてください
愛犬が年を取ったとき、ワクチンを接種すべきかどうか悩んだら、まずはかかりつけの獣医師に相談しましょう。高齢の犬はちょっとしたストレスでも体調を崩すことがあるので、ワクチン接種をすると決めたら十分な注意を払う必要があります。
副作用に備えて午前中に接種を行う
ワクチン接種の副作用で最も重篤なのが、アナフィラキシーショック(急性アレルギー)です。アナフィラキシーショックが現れることは稀ですが、短時間で命に関わる重篤な状態を引き起こします。ワクチンを接種してから数分から20~30分程度で現れるため、ワクチン接種後は愛犬の様子をしばらく見ておきましょう。アナフィラキシーショックが現れたら速やかな処置が必要となりますので、動物病院が家から離れている場合は、接種後しばらく動物病院の待合室や近隣に留まるようにして下さい。
また、接種後24~72時間(1日~3日)は、副作用として顔のむくみや嘔吐、下痢、食欲不振、発熱などの症状が出ることがあります。副作用が出たときにすぐ獣医師に診てもらえるよう、ワクチン接種はなるべく午前中のうちに済ませておきましょう。さらに1週間以上経過した後に、接種部分にしこりが生じることがあります。多くは自然に小さくなり、やがて消失しますが、いずれの場合も症状が現れた時は自己判断せず、必ず獣医師による診察を受けるようにしてください。
接種後はシャンプーやお散歩を控えて
ワクチン接種後はなるべく安静にして過ごしましょう。当日のシャンプーや激しい運動は控えてください。お外でしかトイレができない場合はお散歩に連れて行っても構いませんが、なるべく早めに切り上げ、不要な外出は控えましょう。
最後に
ワクチン接種は愛犬の健康を守るために必要なものです。ただ、高齢になって体力が衰えてきたら、今までと同じような方法を続けるのではなく、かかりつけの獣医師と相談しながら愛犬にとって負担の少ない方法を考えてあげてください。