【シニア犬に多いメラノーマ】症状や治療法を獣医師が解説

メラノーマは皮膚にできる腫瘍の一つで、シニア犬に比較的よく見られる病気です。手術で切除できればいいのですが、愛犬の年齢を考えて治療方針に悩まれる方もいるでしょう。ここでは日本獣医がん学会に所属されている獣医師の福永先生に、犬のメラノーマについて詳しく伺います。

犬のメラノーマとはどのような病気ですか?

メラノーマは口の中や皮膚にできるがんの一つ

犬のメラノーマは皮膚にできる腫瘍の一種で、「悪性黒色腫」とも呼ばれます。その名の通り、ホクロのような黒い斑点やしこりができるのが特徴ですが、中には茶褐色のものや無色のものもあります。シニア犬で発症することが多く、皮膚や口の中、眼球にできることもあります。

メラノーマはメラノサイトが腫瘍化したもの

メラニンは人間の肌の色を作っている色素で、紫外線から皮膚を守る重要な役割も果たしています。このメラニン色素は犬の体にも存在していて、表皮の中の色素細胞「メラノサイト」から作られています。メラノーマは、このメラノサイトが悪性に腫瘍化したものです。

細胞の腫瘍化について

細胞は必要に応じて分裂しながら増殖していきますが、稀に突然変異を起こしてがん細胞が生まれることがあります。がん細胞は体の指令を無視して無秩序に増殖し続け、やがて健康な臓器や骨を圧迫したり、破壊するようになります。こうしてできたがん細胞の塊を腫瘍と言います。

メラノサイト(色素細胞)から生まれたがん細胞が増殖し、形成された悪性の腫瘍をメラノーマと言います。

メラノーマは良性と悪性、どちらが多いのでしょうか?

良性と悪性について

腫瘍には良性と悪性があります。良性の腫瘍は一般的に増殖スピードがゆっくりで転移もしないので、比較的治療がしやすく、治療後はいい経過を辿ることが多いです。一方、悪性の場合は増殖スピードが早く、体のあちこちに転移をするため、治療しても完治できないケースも少なくありません。

良性腫瘍と悪性腫瘍の違いについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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尚、メラノサイト(色素細胞)から生まれた腫瘍のうち、悪性のものをメラノーマ、良性のものをメラノサイトーマと言います。

腫瘍のできた場所によって異なる

メラノサイトから生まれた腫瘍が、良性と悪性のどちらが多いかは、腫瘍のできた部位によって異なります。例えば、口腔内にできたものは悪性腫瘍(メラノーマ)が多く、治療経過の見通しもよくありません。一方、皮膚にできた腫瘍は良性のもの(メラノサイトーマ)が圧倒的に多く、毛の生えている皮膚にできた腫瘍の8割以上は良性と言われています。ただし、指先や爪付近にできたものは約半数が悪性です。眼球にできる腫瘍に関しては世界的には多くが良性との見解が一般的です。

【口腔内メラノーマについて①】特徴を教えてください

口腔内メラノーマの特徴

犬の口の中にできるがんのうち、最も多いのが口腔内メラノーマです。10歳以上のシニア犬で発生することが多く、悪性度が非常に高いのが特徴です。進行のスピードが早く、転移しやすいため、飼い主さんが異変に気づいた頃にはすでに肺やリンパ節などに転移を起こしていることも少なくありません。

腫瘍のできる場所は、歯肉、口唇、舌や硬口蓋(前歯の裏、上顎の硬い部分)の順で多く発生します。口腔内メラノーマは見た目が黒いものが一般的ですが、色素が薄茶色で気づきにくいものや、ピンク色をしているものもあります。

症状について

見えづらい場所にできる口腔内メラノーマは、フードやおやつに血がついていることで飼い主さんが気付くケースも多いです。具体的には以下のような症状が見られます。

  • 唇の周囲や口腔内にできものがあるのが見える
  • よだれが多くなる
  • 口腔内で出血する
  • 口臭がひどくなる
  • 食欲が低下する(固いフードを嫌がる)

転移が起こると・・・

口腔内メラノーマはリンパ節や肺に転移することが多く、転移した場合にはリンパ節が腫れたり、咳や呼吸困難などの症状が現れます。また、末期になると口腔が崩壊したり、口腔内の粘膜が損傷して食事を摂れなくなり、チューブによる食事が必要になるケースもあります。

【口腔内メラノーマについて②】治療について詳しく教えてください

必要となる検査

通常、腫瘍が見つかったときは、麻酔なしでできる「細胞診」を行うのが一般的です。これは異変のある箇所を針で刺して、取った細胞を顕微鏡で調べる検査で、見つかった腫瘍がどのような腫瘍なのか、良性なのか悪性なのか、ある程度の予測をつけることができます。しかし、口の中に腫瘍があるときは、細胞診を実施できないことが多いです。犬が針を嫌がって動いてしまうと大変危険ですし、口の中の腫瘍は悪性の可能性が高いため、細胞診をせずにそのまま手術をすることもあります。

手術に進む前に、犬の体が手術できる状態かどうか、転移は起きていないか、腫瘍の大きさや深さはどのくらいか、ということを調べる目的で、血液検査、CTやレントゲンなどの画像検査、リンパ節の検査などを行います。

手術による切除

ガン(悪性腫瘍)に対する治療法は大きく分けて手術、抗ガン剤、放射線療法の3つがありますが、口腔内メラノーマが見つかった場合は手術で切除することが基本です。手術で取りきれない時には放射線療法を選択することもあります。メラノーマに対して抗がん剤治療を行うことはあまりありませんが、肺やリンパ節に転移している場合には、抗がん剤を使用することもあります。また、転移が起きている場合でも、口腔内の腫瘍を手術で除去しておくことは、後の苦痛を緩和することに繋がります。

手術後の病理検査

手術が終わった後は、切除した組織を「病理検査」にかけます。これは、組織を詳しく調べるためのもので、病理検査にかけて初めて、切除した腫瘍が良性だったのか悪性だったのか、転移の可能性はあるか、腫瘍が全て取りきれているのか、などの情報を詳細に知ることができます。手術後の治療方針を決める上で、とても大切な検査なのです。

【口腔内メラノーマについて③】余命はどのくらいですか?

メラノーマのステージ

メラノーマの進行度合いは以下のように4段階に分けられます。口腔内メラノーマは進行が早く、気付きにくい場所にできることも多いため、飼い主さんが気付いた頃にはステージ3まで進行していることも少なくありません。

  • ステージ1:腫瘍の大きさが直径2cm以下。転移はなし。
  • ステージ2:腫瘍の大きさが直径2〜4cm。転移はなし。
  • ステージ3:腫瘍の大きさが直径4cm以上、またはリンパ節に転移している。
  • ステージ4:肺などへ遠隔転移を起こしている。

余命について

発生した場所や腫瘍の進行度(ステージ)、初めの治療がどれだけうまくいったか によって、口腔内メラノーマの経過は大きく異なりますが、一般的に口腔内メラノーマは悪性度が非常に高く、積極的な治療をしない場合では余命は2ヶ月程度という報告があります。また、腫瘍の直径が2cmより大きい、もしくはリンパ節に転移がある犬では生存期間が5〜6ヶ月なのに対し、直径2cm以下のものでは1年4ヶ月と明らかに長かったという報告もあります。

積極的な治療を受けさせるべきか

積極的な治療を受けさせるべきかどうか、悩まれる方も多いと思います。特に愛犬が高齢の場合、できるだけ穏やかに過ごさせてあげたいという理由から、積極的治療を望まない方もいるでしょう。ただ、治療をすることで愛犬の苦痛を和らげたり、推測された余命よりもはるかに長い期間、腫瘍をコントロールできるケースもあります。積極的治療をした場合としない場合、それぞれのケースにおいて、どのようなリスクがあってどのような生活を過ごすことになるのか、かかりつけの獣医さんにしっかり相談してみましょう。気になることがあったら、どんな些細なことでも聞いてみてください。その子にとってどうしてあげるのが一番ベストなのか、飼い主さんも納得した上で選択できるといいですね。

【皮膚メラノーマについて①】特徴を教えてください

皮膚メラノーマの特徴

皮膚にできるメラノーマの大きさや形状は様々で、ホクロのような小さな斑点だったり、隆起したこぶのようなかたまりだったり、かさぶたのように見えることもあります。また、色は黒いことが多いですが、濃い茶色や灰色、無色のものまであり、必ずしも黒色とは限りません。

なお、被毛が生えている場所にできる腫瘍は、約85%が良性と言われており、ほとんどのケースで完治が見込めます。ただし、肛門の周囲のように、皮膚と粘膜の境界部にできたものや爪付近にできたものは、およそ50%が悪性だと言われています。

症状について

皮膚メラノーマでは、皮膚に小さなできものが見られ、それが徐々に隆起して大きくなります。良性の場合は、できものと皮膚の境界線が明瞭で、色が濃いのが特徴で、直径2cm未満のドーム型をしていることが多いです。

一方、悪性の場合は急速に大きくなって、周囲の組織を傷つけるようになります。直径が2cmを超えて、自壊(破裂)することもあります。色は無色から薄い灰色、黒色までさまざまです。足先にメラノーマができると、動きにくくなるため筋肉が萎縮し、体重の減少や出血などが見られることがあります。

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転移が起きると・・・

皮膚メラノーマは、リンパ管や血管を介して転移し、臓器にさまざまな損傷を与えます。例えば、肺に転移すると咳や呼吸困難などの症状が現れます。

【皮膚メラノーマについて②】治療について詳しく教えてください

必要となる検査

皮膚メラノーマかどうかを診断するために、まずは「細胞診」を行います。これは麻酔をかけずに針を使って腫瘍細胞を採取し、細胞を染色して顕微鏡で確認する方法です。この検査をすることで、腫瘍が良性なのか悪性なのか、ある程度予測をつけることができます。ただし、腫瘍細胞の数が少ない場合や、メラノーマの診断に重要なメラニン色素が乏しい場合は、細胞診をしても情報が得られないことが多いので、細胞診をしないで手術をすることもあります。

また、周囲の臓器に転移していないかどうか確認するために、レントゲンやエコー、CTなどの画像検査をしたり、手術できる状態かどうかを確認するために血液検査をすることもあります。

治療について

皮膚メラノーマは手術で切除することが一般的です。良性の場合は、手術で腫瘍部分(できもの)を切除すれば、今まで通り元気に過ごせることがほとんどです。

しかし、悪性の場合は転移していることも考えられるため、腫瘍部を含むできるだけ広範囲を切り取る必要があります。腫瘍が取り切れなかった場合や悪性度が高い場合は、残っている腫瘍を小さくしたり、消失させる目的で、補助的に抗がん剤を投与することもありますが、転移している場合は完治させることが難しく、あまり良くない経過を辿ることが多いです。また、必要に応じて放射線治療を併用することもあります。

手術後の病理検査

手術が終わった後は、切除した組織を「病理検査」にかけます。これは、組織を詳しく調べるためのもので、病理検査にかけて初めて、切除した腫瘍が良性だったのか悪性だったのか、転移している可能性はあるか、腫瘍が全て取りきれているのか、などの情報を詳細に知ることができます。手術後の治療方針を決める上で、とても大切な検査なのです。

【眼球メラノーマについて①】特徴を教えてください

眼球メラノーマの特徴

眼球メラノーマは、目にできる腫瘍のなかでもっとも多い病気で、白目と黒目の境目である角膜輪部や、目に入る光の量を調節する虹彩、ピントを合わせる毛様体などに腫瘍ができます。一般的には発症しやすい犬種に差はないとされていますが、ジャーマンシェパードやボクサーで特に多いという研究報告もあります。

眼球にできるメラノーマは、その大半が良性の経過をたどると考えられていますが、中には悪性のものもあり、腫瘍の組織をとって病理検査をしてからでないと、良性か悪性かの正しい判断ができないのが現状です。ただし、治療後は転移が起きにくく比較的良い経過を辿るケースが多いので、早期発見・早期治療が重要です。

症状について

眼球メラノーマでは、目の表面や目の中にできものや出血が見られる、眼球が大きくなる、眼球の色が変わる、目を痛がるようになるなどの症状が現れます。他にも、ものによくぶつかるようになる、歩きたがらなくなるなど、視覚障害の症状が見られることもあります。

【眼球メラノーマについて②】治療について詳しく教えてください

必要となる検査

腫瘍が見つかったときは、まず「細胞診」という検査をすることが一般的です。異変のある箇所を針で刺し、取った細胞を顕微鏡で調べることで、見つかった腫瘍が良性なのか悪性なのか、ある程度予測をつけることができます。

通常、細胞診は麻酔をかけずにできるのですが、眼球に腫瘍があるときは、麻酔なしで検査をすることはとても難しいです。そのため、眼球の表面に腫瘍がある場合には、鎮静もしくは麻酔をかけて細胞診を行い、悪性か良性かを仮診断します。しかし、腫瘍が眼球の内側にできているとそれすら困難なため、細胞診ではなく眼球摘出の手術をして眼球を病理検査にかけるか、それとも経過観察とするのか、判断しなくてはなりません。

それと同時に、目の状態や合併症の有無などを調べる目的で、超音波検査や眼圧測定、視覚検査なども併せて行い、炎症を起こしていないか、眼圧が高くなっていないかなどをチェックします。

治療について

眼球メラノーマの唯一の根治治療は眼球摘出です。しかし、眼球メラノーマは良性であることが多く、悪性であっても転移せずに良好な経過をたどるケースが多いことから、可能な限り眼球を摘出せずに済むよう、眼圧を下げたり炎症を抑える目薬・飲み薬を使って、対症療法を行いながら治療を進めます。しかし、症状が進行して目が見えなくなってしまったり、眼球が大きくなって目に痛みが出るようになったり(緑内障)、転移の可能性が考えられるような場合には、手術で眼球を摘出するケースもあります。

手術後の検査について

手術後は切除した腫瘍を詳しく調べる病理検査を行います。この検査をして初めて、腫瘍が良性なのか悪性なのか、転移の可能性があるかなどを詳細に知ることができます。そして病理検査の情報をもとに、その後の治療方針を決定します。

眼球メラノーマの場合、眼球を摘出して腫瘍を除去すれば、良性の経過をたどることがほとんどですが、中には数年後にほかの臓器への転移するような場合もあるため、定期的に診察を受けて、状態をチェックする必要があります。

眼球摘出になった場合

転移が疑われるときや、痛みが強いときには、眼球摘出が必要になるケースもあります。「目がなくなったら生活に支障が出るんじゃないの?」と心配される飼い主さんもいらっしゃると思いますが、犬は嗅覚や聴覚など、視覚以外の感覚に優れた生き物です。仮に眼球がなくなってしまっても、ある程度環境を整えてあげることで、あまり問題なく生活することができる動物だと言われています。むしろ眼球摘出によって痛みから解放されるため、QOL(生活の質)が大きく改善することもあります。

それでも、愛犬の眼球を摘出をすることに強い抵抗を感じる飼い主さんもいらっしゃるでしょう。今までたくさんアイコンタクトをしてきて、目を見るだけでお互いの気持ちがわかる、そんな愛犬の瞳がなくなってしまうことに、大きな喪失感を感じる方もいると思います。

そのような時は、義眼を入れられるかどうか、かかりつけの獣医さんに相談してみましょう。手術で眼球を摘出した後、シリコン製の義眼を入れる処置をすることで、眼球摘出後も愛犬の顔が大きく変化することを防げます。ただし、義眼を入れたからといって犬の視覚が戻るわけではありません。合併症のリスクもあるので、眼の周りの組織の状態が良くないときや体がひどく弱っているときには義眼を入れることが難しい場合もあります。愛犬に義眼を入れるべきか入れないべきかは、かかりつけの獣医さんとしっかり相談しながら決めてください。

最後に

犬のメラノーマはシニア犬に多い病気です。初めてガンと診断されたとき、飼い主さんは大きなショックを受けられると思いますが、かかりつけの獣医さんとよく相談しながら、愛犬にとって最適と思われる治療法を決めていきましょう。