老犬の白内障とどう向き合う?目薬、手術などの治療について知っておいて

白内障はシニア犬によく見られる目の病気で、完治させるためには手術が必要になります。しかし、高齢になってからの手術は愛犬にかかる負担が大きく、治療方針について悩む飼い主さんも多いでしょう。そこで今回はシニア犬によく見られる白内障という病気について、獣医師の西川先生に詳しくお話を伺います。

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犬の白内障とは

こっちを見つめる老犬

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目が白く濁る病気

白内障とは、目の中でレンズの役割をする水晶体が、白く濁ってしまう病気のことです。水晶体のタンパク質が何らかの原因で変性して白く濁り、光を通すことができなくなって、視覚を妨げてしまうのです。症状が進むと失明する可能性もあります。

核硬化症との違い

白内障と間違われやすい目の病気に、核硬化症があります。核硬化症とは加齢によって水晶体の中心が硬く、青白くなる病気です。進行しても視力への影響はないため、経過観察で様子を見る場合がほとんどで、基本的に治療の必要はありません。白内障と核硬化症は見た目だけでは区別ができないため、動物病院で詳しく検査をし、獣医師に診断してもらう必要があります。

老犬の白内障、原因は?

芝生と老犬

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白内障の原因はいくつかあります。遺伝が原因で若いうちから発症するケースもありますが、シニア犬が白内障を発症する原因としては、大きく3つの原因が挙げられます。

老犬の白内障の原因① 加齢性白内障

6歳以降に発症するのが加齢性白内障です。老化現象の1つで、進行が緩やかなことが特徴です。シニア犬で発症するケースがほとんどですが、早ければ5歳〜6歳で発症することもあります。

老犬の白内障の原因② 代謝性白内障

糖尿病やホルモン疾患と関連して発症するのが、代謝性白内障です。糖尿病が原因になっている場合は、糖尿病性白内障とも呼ばれます。糖尿病にかかっていると、50〜70%の割合で白内障を併発すると言われており、進行も早いので注意が必要です。

老犬の白内障の原因③ 外傷性白内障

物にぶつかったり、お散歩中に木の枝が当たったりして、目を傷つけた際に発症するのが外傷性白内障です。特に高齢になって視力が低下すると、家具の角や縁石などに目をぶつけたり、尖った葉っぱや木の枝で目を傷つけたりすることがあるので、居住環境を見直し、お出かけの際も十分気をつけてあげてください。

老犬が白内障を発症するとどうなる?

眠そうな老犬

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白内障は初期症状がわかりにくい

白内障は初期症状がわかりづらく、気付くのが遅れてしまうケースも多いです。愛犬がいつもと違う行動をとっていないか、目が濁っていないか、しっかりチェックしましょう。以下のような症状が見られた場合は白内障を発症している可能性があります。

  • お散歩を嫌がる
  • 柱や家具など、物によくぶつかる
  • 壁伝いに歩く
  • ジャンプをしない
  • ちょっとした段差につまずく
  • 階段の昇り降りが苦手になる
  • 暗い場所を嫌がる
  • 臆病になる

他にも、目が見えない不安から夜鳴きをしたり、攻撃的になったりする場合もあるので、こうした症状が見られたら早めに動物病院を受診するようにしてください。

進行すると視力を失うことも

白内障が進行すると視力はどんどん低下し、やがて失明してしまうこともあります。また、白内障自体は痛みが現れる病気ではありませんが、病状が進行すると緑内障やぶどう膜炎などのさまざまな合併症を引き起こすようになります。合併症の中には強い痛みを引き起こすものもあり、そうするとQOL(生活の質)は大きく低下してしまいます。

白内障の進行とともに高まる合併症のリスク

白内障が進行すると合併症を発症するリスクも高くなります。ここでは白内障が進行した時に起こりやすい合併症について解説します。

緑内障

目の中は「房水」という液体で満たされています。通常、この房水は眼球外へ排出されるのですが、白内障が進行して水晶体が膨張すると流出路が塞がれて、房水がうまく排出されなくなります。その結果、眼球内に房水がどんどん溜まってしまい、眼圧が上昇して緑内障となるのです。
緑内障は痛みを伴い、目を気にした犬が掻いてしまって眼球を傷つけることもあります。主に点眼や投薬で治療をしますが、眼圧のコントロールがうまくいかないと失明してしまう可能性もあります。さらに眼圧が上がり続けると眼球自体が大きくなり、水晶体脱臼を引き起こしやすくなります。尚、緑内障では失明しても痛みがなくなるわけではないので、こうなると眼球を摘出する手術なども検討しなくてはなりません。

水晶体脱臼

白内障が進行すると、水晶体を支えている「チン小帯」がゆるくなって水晶体を支えきれなくなり、水晶体が本来あるべき位置からずれてしまうことがあります。これを水晶体脱臼と言います。水晶体がずれる位置によって現れる症状は異なるのですが、水晶体が前側にずれる「前方脱臼」では非常に強い痛みが現れ、緑内障を併発するリスクも高いことから、緊急手術が必要になることもあります。

ぶどう膜炎

ぶどう膜とは、眼球の中の「虹彩」「毛様体」「脈絡膜」の総称(図のピンク色の部分)のことです。白内障が進行すると、これらのどこかが炎症を起こしてぶどう膜炎になることがあります。血管組織が豊富なぶどう膜で炎症が起きると、痛みが現れたり眼球内で出血したりすることもあります。また、炎症物質が排出され、それが房水の流出路につまって緑内障を併発することもあります。

網膜剥離

網膜は眼球に入ってきた光を電気信号として脳に伝えていて、カメラで言うフィルムの役割を果たしています。本来、網膜は脈絡膜にくっついているのですが、白内障が進行して水晶体が溶けてくると、網膜が脈絡膜から剥がれてしまうことがあります。これが網膜剥離です。網膜剥離になっても痛みを感じることはありませんが、そのままにしておくと失明してしまったり、緑内障やぶどう膜炎を引き起こしやすくなります。

【白内障の治療】目薬による内科的治療と手術による外科的治療

黄昏る老犬

(画像:Instagram/ @sumi206

白内障を根本的に治療するためには手術が必要になります。しかし、高齢になった愛犬に手術を受けさせるべきかどうか、悩まれる飼い主さんは多いでしょう。ここでは目薬による治療と手術のメリット・デメリットについて、詳しく解説します。

目薬による治療について

白内障は初期のうちは視力にほとんど影響がなく、合併症のリスクもほぼありません。そのため、初期の段階では目薬で進行を遅らせる治療を選択することが一般的です。しかし、目薬はあくまで進行を遅らせるためのもので、白内障を完治させることはできません。生涯にわたって毎日の点眼が必要になりますし、きちんと点眼していても病状は徐々に進行していきます。

目薬でどこまでコントロールできる?

毎日の点眼で、ある程度白内障の進行を遅らせることはできますが、どのくらいの速度で進行するか予測するのは難しいです。大きな問題がないまま寿命を全うできることもあれば、視力を失ってしまうこともありますし、最悪の場合、合併症を引き起こして強い痛みに悩まされることもあります。手術で完治させない限り、いつかそうした事態に陥る可能性があることは覚えておきましょう。

手術という選択肢

白内障を根本から治療するためには、白く濁った水晶体を取り除き、代わりとなる人工レンズを挿入する手術が必要になります。一般的な手術成功率は90%と言われており、基本的には再発リスクもありません。
ただし、白内障手術を受けられる動物病院は全国でも限られている上、手術には全身麻酔が必要になります。体力が著しく低下していたり、腎臓病や心臓病、肝臓病などの持病があったりすると、麻酔のリスクが高すぎて手術できない場合もあります。また、合併症などを引き起こして目の状態が著しく悪くなっていると、体が丈夫でも手術できないこともあります。専門病院で手術をすべきかどうかについては、まずはかかりつけの獣医師にしっかり相談してみてください。愛犬の体調や年齢、性格もきちんと考慮して、納得のいく治療を選択できるといいですね。

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手術に最適な時期とは

白内障は進行具合(ステージ)によって次のように分類されます。

  1. 初期白内障:レンズの白濁はほとんど見られず、視力への影響もあまりありません。
  2. 未熟白内障:レンズの15%以上が混濁している状態ですが、視力はある程度維持できている状態です。
  3. 成熟白内障:レンズが全体的に濁り、視力を失った状態です。
  4. 過熟白内障:さらに病状が進行し、水晶体が溶けてしまいます。

レンズの白濁がほとんど見られない初期白内障のうちから手術をすることはあまりありません。しかし、白内障が進行すればするほど、手術にかかる時間が長引いたり、術後に緑内障などの合併症を発症しやすくなったり、手術のリスクは高まります。「未熟白内障」以上に進行しているなら、早めに手術を検討してあげるとよいでしょう。

愛犬が白内障になった時のお家ケアについて

帽子をかぶる老犬

(画像:Instagram/ @maromaromaropyon

愛犬が白内障と診断されたら、毎日の目薬とあわせて生活環境も見直してあげましょう。ここではお家ケアのポイントについてまとめました。

目薬のさし方

白内障が見つかったら、毎日自宅での点眼が必要になります。目薬を嫌がる犬は多く、一度苦手意識を植え付けてしまうと目薬のたびに大暴れするようになることもあります。無理やり押さえつけたりしないで、おやつなどを使って苦手意識を上手に払拭してあげてください。目薬のさし方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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視力が低下してきたら

犬はもともと視覚よりも聴覚や嗅覚に優れた生き物です。また、お家の中やいつものお散歩コースは、だいたいどこに何があるのか記憶しているので、慣れた場所ならある程度問題なく生活することができます。
とはいえ、家具の角に頭をぶつけたり、お散歩中に尖った木の枝で目を傷つけたりしてしまうこともあるので、愛犬がより安全に暮らせるよう生活環境を整えてあげましょう。ぶつかりやすい場所にクッションを置いてあげたり、目や頭を守るツバ付きの帽子を被せてあげたりするのもおすすめです。
こちらの記事では視力を失った子のためのアイデアや目を守るアイテムなどをまとめているので、ぜひあわせてご覧ください。

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目が見えない老犬

紫外線を防ぐ

紫外線は白内障を進行させる原因になると言われています。視力が低下すると、強すぎる太陽光が苦手になったり、日向と日陰の堺を怖がるようになったりすることもあるので、お散歩では日陰を歩かせてあげる、出かける時間は夕方にする、目元を保護するゴーグルなどのアイテムを活用するなど工夫してあげてください。

 

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サプリメント

犬用のサプリメントには様々な種類があり、目のケアに効果的なものも販売されています。白内障によって失われた視覚をサプリによって回復させることはできませんが、白内障の進行を緩和する効果や、白内障を予防する効果は期待できます。かかりつけの獣医師にも相談しながら、愛犬の健康状態に合わせて適切なサプリを選んであげましょう。
ちなみに「メニわんeyeシリーズ」は、動物病院でもよく使われているサプリです。迷ったときには参考にしてみてください。

<公式サイトはこちら

びっくりさせない

視力が低下すると物音に敏感になったり不安を感じやすくなったりします。突然大声を出したりいきなり後ろから触ったりすると、愛犬をびっくりさせてしまうので、優しく話しかけてあげる、触るときは前から近づくようにするなどの配慮をしてあげてください。
また、視力が低下してから部屋の模様替えをするのもNGです。ベッドやトイレなどの位置を変えてしまうと愛犬を混乱させてしまうこともあるので注意してください。もし家具の角にぶつかるような場合は、その家具だけを移動してあげたり、クッション材などを使ってガードしてあげたりするといいでしょう。

最後に

くつろぐ老犬

(画像:Instagram/ @k.j.z.k

白内障は早期の治療が必要な病気です。愛犬の目の異常に早く気付くためにも、毎日たっぷりとスキンシップを図り、目の様子だけではなく行動にも注意してあげましょう。少しでも異変を見つけたら、動物病院で獣医師にしっかりと診察してもらうことが大切です。