【愛犬の最期】お別れの予兆、看取り方、愛犬にしてあげられること

どんなに大切に思っていても、愛犬とお別れするときはやってきます。いつかやって来る「そのとき」に向けて、少しずつ心の準備をしているという方も多いでしょう。お別れの瞬間を迎えるまで、私たちは愛犬のためにどんなことができるでしょうか?ここでは、ペットロスカウンセラーであり、動物医療グリーフケアの第一人者である阿部先生にもお話を伺いながら、最期が近づいている愛犬のためにできることを考えていきたいと思います。

犬の最期はさまざま

いくら飼い主さんが心の準備をしていても、愛犬が心穏やかに旅立てるように祈っていても、予想外のタイミングでお別れの時がやってきたり、願っていたようなお別れの形にならないことも残念ながらあります。ただ、愛犬ができるだけ穏やかに最後の時を迎えられるように、鎮静剤などをもらっておくといざというときのお守りになるでしょう。愛犬をできるだけ苦しませないようにしてあげられる方法を、かかりつけの獣医師としっかり相談しておくといいと思います。

穏やかな旅立ち

「つらいお別れを避けることはできないけれど、せめて愛犬には穏やかで幸せな最期を迎えて欲しい。」

これはすべての飼い主さんの願いだと思います。

年をとっても病気が見つかっても、愛犬がずっと元気に過ごしてくれていたらどんなにいいでしょう。苦しむことなく、家族みんなが一緒にいるときに眠るように息を引き取ってくれたら…。そんな風に願っている方も多いのではないでしょうか。

実際に、こういうお別れができたという飼い主さんもいらっしゃいます。以前「お空組からのエール」で取材させて頂いたシーズーのモモちゃんは、とても穏やかな最期だったそうです。

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長い介護生活の先に

犬も年を取ると病気がちになります。愛犬が苦しむ様子から目を背けたくなったり、長い介護生活に飼い主さんの方が疲れてしまうこともあると思います。でも犬は、自分の介護や看病のために飼い主さんが疲れていることを理解できません。今まで一緒に多くの幸せな時間を過ごしてきたはずの飼い主さんから、なぜ笑顔がなくなってしまったのかわからないまま、大きな不安を抱えるようになるでしょう。

愛犬との残された時間は、愛犬に「大好きだよ」という気持ちを伝えることができる最後の貴重な機会です。最期まで愛犬と幸せいっぱいに過ごすためにも、あまり一人で抱え込まず、苦しくなったときや辛くなったときは、かかりつけの獣医さんや介護士さん、信頼できる犬友達などに相談してみましょう。周り人たちの力も借りながら、ネガティブになりがちな自分の気持ちを上手にリセットしていくことが大切です。

突然のお別れ

残念ながらお別れが突然すぎて、きちんと愛犬を看取ってあげることができなかったというケースもあります。まさか亡くなってしまうとは思わず、外出したらその間に息を引き取ってしまっていた、入院中に体調が急変して最期に立ち会えなかった、手術をしたらそのまま意識が戻ってこなかったなど、自分の描いていたお別れができなかった方もたくさんいます。

ほんの少し前まで元気に過ごしていたのに、ある日突然体調を崩し、あっという間にお別れを迎えることもあります。お別れが突然なときほど、後悔は大きくのしかかってくるかもしれません。

ここからは、愛犬とのお別れにできるだけ後悔を残さないために、飼い主さんが知っておくといいこと、愛犬のためにしてあげられることについて、阿部先生に伺います。

最期が近い時、犬はどんな仕草を見せるでしょう?

お別れの瞬間は愛犬のそばにいてあげたいと考える方も多いでしょう。ただ、一日中愛犬につきっきりでいることは、現実的に難しいと思います。何の前触れもなく亡くなってしまうケースもありますが、亡くなる前は次のような前兆が現れることがあります。

ごはんを食べない

高齢になると少しずつ食欲が落ちてきたり、食いムラが出てくるようになります。愛犬に食べて欲しくて、色々な工夫をされている飼い主さんは多いでしょう。しかし、どんなに工夫をしても食べてくれないときは、最期のときが近づいているのかもしれません。食べ物をほとんど口にしなくなってから数ヶ月がんばってくれる子もいますが、食べなくなってすぐに亡くなる子も多いです。

お水を飲まない

ごはんを食べなくなってお水も飲めなくなってしまったら、いよいよ最期が近づいているサインかもしれません。点滴などで水分を補ってあげると楽になることもありますが、亡くなる直前は体内で水分を吸収できなくなっている可能性があります。点滴をしてあげることで犬を余計に苦しめてしまう場合もあるので、どうしてあげると愛犬にとって一番負担なく過ごせるのか、かかりつけの獣医さんとしっかり相談してください。

下痢をする

固形フードを食べられなくなって流動食を与えていると便が下痢っぽくなることもありますが、亡くなる前は筋肉の制御が難しくなり、肛門が開いた状態のままになってしまうことがあります。緩んだ肛門から便が漏れてしまったときは、きれいに拭いてあげましょう。

呼吸が荒くなる、痙攣が起きる

亡くなる前は呼吸に変化が現れることがあります。浅い呼吸をハァハァとするようになったり、深く早い呼吸に変わったり、一時的に呼吸が停止するようなこともあります。痙攣のように手足をバタつかせることもあるでしょう。

愛犬が苦しむ様子を見て、飼い主さんもパニックになってしまうかもしれません。でも愛犬を苦しみから救うためにも、まずは落ち着いてかかりつけの獣医さんに電話で状況を伝え、指示を仰ぎましょう。痙攣などが予想される状況では、事前に獣医師から鎮静剤をもらっておくこともできます。動物病院で看取ってあげたいのか、自宅で看取ってあげたいのかも、愛犬の気持ちに寄り添いながらしっかり考えておくことが大切です。

いつもと様子が違う

亡くなる前、愛犬の様子がいつもと違った、という話はよく耳にします。いつもおとなしくお留守番してくれていた子が、亡くなる日の朝に限って飼い主さんが家を出ようとすると嫌がったとか、最近寝てばかりだった愛犬が、亡くなる日の前日急に元気になって家中を楽しそうに探検していたとか、それまでまったくごはんを食べてくれなかった愛犬が美味しそうに食べてくれたとか、そういういつもと異なる行動を見せることがあります。

愛犬の最期、何かしてあげられることはあるのでしょうか?

犬は最期までポジティブに生きることができる

飼い主さんが将来のことを考えて悲観的になってしまうのは、愛犬のことを大切に思っているからこそ。大好きな愛犬とのお別れを想像して気持ちが沈んでしまうのは、とても自然な心の反応です。

しかし、犬は大きな病気が見つかっても余命宣告を受けても、そんなことは理解していません。「お腹いたいなぁ」「なんだか苦しいなぁ」と感じたり、体調が優れなくて不安を感じることはあるでしょうが、飼い主さんとのお別れが近づいていることを考えて悲観的になったりはしません。最期までポジティブに生きることができるのです。

不安な気持ちが大きくなる

とはいえ、慢性的に体に痛みを感じるようになったり、体がだるくて思うように動けず、寝ている時間が長くなったりすると、犬自身も不安を感じやすくなります。大好きだったお散歩にいけなくなって、お出かけするといえば動物病院ばかり。楽しかったはずのお出かけがすっかり嫌なものになってしまっているかもしれません。しかも飼い主さんから手渡されるごはんの中に、苦いお薬が入っていたとしたら…。犬は薬を「体にいいもの」と認識できないので、きっとますます食欲がなくなってしまうでしょう。こうなると体よりも先に心が元気を失ってしまいます。

飼い主さんの苦しみは犬に伝わる

犬は空気を読む力に優れた動物です。そのため、一緒にいる飼い主さんの影響を大きく受けます。体調が優れず、ただでさえ不安を感じやすい時期に、大好きな飼い主さんが悲しみに暮れていたら、犬はどう思うでしょう?優しい声でたくさん自分の名前を呼んでくれて、目が合うたびに微笑みかけてくれた飼い主さんがすっかり変わってしまったら?声は暗く沈んで、自分の顔を見るたびに飼い主さんが涙を流すようになったら、犬はどう思うでしょうか?

犬には飼い主さんが変わってしまった原因がわかりません。大好きだった飼い主さんの変化に大きな不安を感じ、ストレスを感じるでしょう。飼い主さんの苦しみや悲しみといった負の感情が、表情や声を通して犬に伝わり、その結果犬自身も苦しみや悲しみを感じるようになってしまうのです。

犬にとっての安全地帯

長い間幸せな時間を一緒に過ごし、愛情いっぱいに自分のことを見守ってくれた飼い主さんの近くは、犬にとってなによりも安心できる「安全地帯」です。この安全地帯を守ってあげることが、何よりも大切なことなのです。差し出されたごはんを疑いもせずむしゃむしゃ食べるのも、無防備な体勢でお部屋のど真ん中で眠るのも、飼い主さんに対して絶大な信頼を置いているからこそ。

今までにも、怖いことや不安なことはたくさんありました。子犬の時にお外が怖かったり、おとなになってからも雷やインターホンなど、苦手なことは色々あったと思います。だけど飼い主さんがそばにいてくれたから、優しい声で「大丈夫だよ」って勇気づけてくれたから、犬は怖いことがあっても不安なことがあっても楽しく暮らすことができました。

安全地帯を守ってあげて

元気いっぱいな頃の愛犬といたときのあなたの様子を思い出してみてください。愛犬の名前を呼ぶあなたの声は幸せに満ち、お出かけしたときは一緒に楽しい時間を過ごしたことでしょう。必死にごはんを食べる愛犬の様子を見て、思わず声に出して笑ったこともあるかもしれません。犬にとっても飼い主さんにとっても、幸せな時間が流れていましたよね。

愛犬の最期が近づいてきたときも、その幸せな時間をぜひ続けてあげてください。以前のような体力はなくても、抱っこやカートでお出かけして、愛犬が大好きな場所へ連れて行ってあげることはできるはず。お薬と気づかれないように飲ませる工夫をしたり、がんばってお薬を飲んだ時には思いっきり褒めてあげたりして、愛犬を安心させ、勇気づけてあげてください。この安全地帯を守ってあげることこそ、愛犬にとって最大のプレゼントになるでしょう。

飼い主さんがしてあげられること

愛犬の安全地帯を守ってあげるためには、飼い主さんの心持ちが非常に重要になります。最期が近づいている愛犬とのお別れを想像して、悲しくなるのは自然なことですが、飼い主さんが愛犬の前で感情的になってしまうと、大事な安全地帯を脅かしてしまいます。愛犬とのお別れが近づいているという悲しみにしっかり向き合い、愛犬の前では心を強く保って、愛犬の目から見える景色の中ではなるべくいつもの穏やかで優しい飼い主さんでいてあげてください。悲しみや苦しみは愛犬が見ていないところでリセットし、また笑顔で愛犬の前に戻ってあげましょう。

心を強く保つためには、自分自身の気持ちをケアすることがとても大切です。信頼できる誰かに話を聞いてもらったり、愛犬から見えないところで苦しみを吐き出したりして、一人で抱え込まないようにしましょう。穏やかで優しい飼い主さんの様子を見て、犬自身も「大丈夫なんだ。ここは安全なんだ。」と思うことができます。そして最期の瞬間を迎えるそのときまで、大好きな飼い主さんと一緒に幸せな時間を過ごすことができるのです。

最期の時間を幸せに過ごすことは飼い主さんにとっても大切

いつかお別れのときがやってきて、愛犬のいない世界にひとり取り残されることに、言いようのない不安を感じている方は多いと思います。ペットロスの悲しみからなかなか立ち直れなかったらどうしよう、愛犬がいない中でどうやって生きていけばいいのだろうか、そんな風に考える方もいるかもしれません。

このような不安や悲しみをグッと飲み込んで、愛犬を優しく勇気づけてあげることはとても難しいことだと思います。けれど、そうした飼い主さんの頑張りによって愛犬が最期まで幸せに過ごせたなら、それはきっと愛犬がいなくなった後の世界で、あなたのことを支えてくれる糧になるはずです。

「あの子は最期まで幸せだった」

「心穏やかに最期を迎えることができた」

こうした事実が、後々やって来る深い悲しみの中で、あなたの心をお守りのようにあたたかく支えてくれるでしょう。

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悲しみに向き合うためにできることを教えてください

想定外のことが訪れた時ほど、人間は動揺しやすいものです。これから起きうる事態ひとつひとつに対して、どうすべきかしっかり考えておくことは、愛犬の安全地帯を守る助けになります。

看取り方

愛犬と理想通りのお別れができるとは限りません。けれど、どのように愛犬を看取ってあげたいのかは、家族みんなでしっかり考えておいたほうがよいでしょう。その時は飼い主さんの気持ちを優先するのではなく、「愛犬が何を望んでいるか」「愛犬はどんな最期を望んでいるか」というように、犬の気持ちを中心に考えてあげてください。動物病院で積極的に治療をさせて最後までがんばるのか、ある程度のところで治療をやめて自宅で看取ってあげるのか、どのような看取り方で最期を迎えさせてあげると愛犬は幸せなのか。愛犬の気持ちを誰よりもわかってあげられる飼い主さんが、愛犬の気持ちに寄り添って決めてあげることが大切です。

お別れの仕方について

あまり考えたくないことかもしれませんが、ペットの火葬業者については事前にしっかり調べておいた方がいいです。現在の日本は、ペットの葬儀に関してまだ十分な法整備が進んでおりません。中には非常に悪質な業者も存在します。お別れのときに嫌な思いをすることのないよう、きちんと調べておきましょう。弔い方にも色々な方法があるので、どんな方法で見送りたいのかも考えておくといいと思います。

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最期に

長い時間を一緒に過ごしてきた愛犬との別れはとてもつらいもの。どんなに心の準備をしていても、いざお別れのときがきてしまったら、深い悲しみを感じたり、後悔の念に苦しむこともあると思います。けれど、愛犬のためにできることを真剣に考え、お別れ前に幸せな思い出をたくさん作ることができたなら、愛犬の死後、そういった思い出が飼い主さんを支えてくれるはずです。愛犬の最期に向き合うのはとてもつらいことですが、愛犬がそばにいてくれる間は愛犬がいなくなってしまうことへの悲しみを跳ね除けて、最後まで愛犬が幸せに穏やかに暮らせるよう、自分に何ができるのかしっかり考えてあげてください。