若い頃はなんでも食べてくれた愛犬が、年を取って好き嫌いが出てきたり、なかなかごはんを食べてくれなくなったりして、お困りの飼い主さんは多いと思います。そんなときは手作りごはんを上手に取り入れてみませんか?今回はシニア犬の介護とペット栄養学に詳しい獣医師の丸田先生に、シニア犬のための手作りごはんについて詳しく伺います。
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老犬に手作りごはんがおすすめな理由
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水分補給ができる
犬は年をとると水を飲まなくなることが多いです。水を飲まなくなる原因は様々ですが、喉の渇きに鈍感になり、脱水状態に陥っているのに水を飲もうとしないケースもあります。そのため、愛犬が年を取ってきたら毎日の飲水量をチェックしてあげてください。
お水を飲む頻度が減ってきたときは、手作り食を取り入れてフードで水分補給をするのもおすすめです。水分を多く含む食材をトッピングしたり、ごはんをスープにしてあげたりすると、食事からしっかり水分を補給することができるでしょう。
ただし、水分が多すぎるとその分ごはんの量が増えてしまいます。食が細い犬はあまり量が多くなると食べきれないこともあるので、愛犬の様子に合わせて調節してあげてください。他にも水分補給をするためのアイデアについては、こちらの記事で紹介しています。
犬は年を取ると、様々な理由から水を飲まなくなることがあります。ひどいときには脱水状態に陥ってしまうケースもあるので、シニア犬と暮らす飼い主さんは注意して見てあげてください。ここでは、犬の介護に詳しい獣医師の丸田先生に、シニア犬が水を飲まなく[…]
食べムラに対応できる
シニア犬になると食べ物の好き嫌いが激しくなることも多いです。若い頃は喜んで食べていたフードをある日突然食べなくなったり、せっかく買った新しいフードに一切口をつけてくれなかったりするのはよくあること。中には「お魚はカリカリに焼いてくれないと食べない!」なんてグルメな子もいます。
そうして愛犬に気に入ってもらえなかったフードがどんどんたまって困っている飼い主さんも多いのではないでしょうか。そんな問題も手作り食を取り入れることで、ある程度解消することができます。愛犬が大好きな食材や調理法を探しながら、愛犬の好みに応じたごはんを作ってあげることができるでしょう。
老犬に手作りごはんを与えるときの注意点
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手作り食にはメリットもありますが、注意すべきポイントもいくつかあります。知識がないまま手作り食を始めて失敗するケースも少なくないので、事前にどんなことに気をつけるといいのかしっかり理解しておきましょう。
手作り食は栄養バランスが崩れやすい
犬の体は日々の食事から作られているので、栄養バランスの取れた食事はとても大切です。特にシニア犬は体力や免疫力が低下しやすくなるので、今まで以上に栄養バランスを意識してあげる必要があります。
ただ、犬に必要な栄養素は人間とは異なるため、ペット栄養学の正しい知識がないまま手作り食を始めてしまうと必要な栄養素を十分に摂取できなかったり、1日あたりに必要なカロリーから大きくズレてしまったりして、体調不良を招く原因になる恐れがあります。
そのため、これから手作り食を始めるのなら市販の総合栄養食と一緒に与えるのがおすすめです。市販の総合栄養食には犬に必要な栄養がバランスよく配合されているため、栄養バランスがとりやすくなります。
持病があるときは必ず獣医師に相談を
腎臓や肝臓の機能が低下していたり、糖尿病などの持病があったりすると、食事制限が必要なことがあります。飼い主さんの自己判断で手作り食に替えてしまうと病気が悪化する危険があるので、持病がある場合は必ず事前にかかりつけの獣医師に確認してください。
また、市販のフードに頼らずに全てを手作り食にしたいときも、栄養学に詳しい獣医師に相談しながら始めるとよいでしょう。
手作りごはんの作り方と使ってはいけない食材について
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手作りごはんの始め方
「手作りごはんって難しそう…。」と感じている方は、まずはトッピングを手作りするところから始めてみましょう。ベースを総合栄養食にしてトッピングを手作りする程度なら、細かなカロリー計算や難しいビタミン・ミネラルの栄養バランスを調整する必要はありません。トッピングの割合は見た目が全体量の1/3程度になるようにしましょう。
トッピングの作り方
トッピングだけ手作りにする場合は、お家にある食材を使って気軽に始められます。愛犬の食欲を刺激できるような食材を探してみてください。以下のような食材を「ごはんや麺などの炭水化物:肉や魚などのタンパク質:野菜=2:6:2(※)」となるように組み合わせて、煮たり炒めたりして作ってみましょう。ただし、加熱したときはやけどしないよう、人肌くらいに冷めてから与えてください。
(※この割合は食材の重さ(g)で考えます。)
- 炭水化物:白米、玄米、パスタ、うどんなど
- タンパク質:肉、魚、たまご、豆腐など
- 野菜:トマト、きゅうり、ブロッコリー、キャベツ、もやし、白菜など
固定の食材に偏るのはダメ!
後ほどシニア犬におすすめな食材をご紹介しますが、「この食材がいいから」と偏った食材ばかり与えてはいけません。私たち人間が1週間のうちにさまざまな食材をバランスよく食べているのと同じように、愛犬のごはんを作るときも、NG食材を除いてさまざまな食材をバランスよく選ぶようにしましょう。
トッピングを手作りするときは、食材の重さ(グラム数)が「ごはんや麺などの炭水化物の主食:肉や魚:野菜=2:6:2」となるように組み合わせるとよいです。炭水化物は加水後(ごはんなら炊飯後)の重さで考えてください。
犬に与えるとNGな食材
私たち人間が食べている食材の中には、犬に与えると下痢や嘔吐、痙攣、発熱などの中毒症状を引き起こすものもあります。中には命を落としてしまうこともあるので、愛犬のごはんを手作りする際は、危険な食材が愛犬の口に入らないよう厳重に注意しましょう。犬に与えると危険な食材は以下の通りです。
- ネギ類(玉ねぎ、長ねぎ、ニラ、らっきょう、にんにくなど)
- カカオ(チョコレート、ココアなど)
- ぶどう
- レーズン
- アボカド
- カフェイン(紅茶、緑茶など)
- アルコール
- ナッツ類
- わさび
- キシリトール
手作りごはんを作るためのカロリー計算のやり方
きちんと手作り食を作ってあげたいと思うなら、愛犬に必要な1日あたりのカロリーを計算してから作ってあげるとよいでしょう。摂取カロリーが少なすぎるとどんどん痩せて体力が落ちてしまいますし、反対に摂取カロリーが多すぎると肥満になってしまいます。ここでは愛犬に必要な1日あたりのカロリーを計算するための方法をご紹介します。
愛犬に必要なカロリーの算出方法
犬に必要な1日あたりのカロリーは、適正体重から算出した「安静時エネルギー要求量(RER)」(①)に、それぞれのライフステージや活動を考慮した「係数」(②)をかけて算出することができます。(※愛犬の適正体重は動物病院で教えてもらいましょう。)
① 安静時エネルギー要求量(RER)を求める計算式
電卓を使うと「適正体重×適正体重×適正体重 = √ √ × 70」で算出することができます。ここにライフステージや体型に応じた係数をかけあわせると、1日あたりに必要なカロリー目安を算出できます。
② 係数について
- 一般的なシニア犬の場合:1.4
- 肥満傾向のシニア犬の場合:1.3
- 増量中のシニア犬の場合: 1.6
- 活動的なシニア犬の場合: 1.6
一般的なシニア犬は係数が「1.4」なので、先ほど算出した安静時エネルギー要求量(RER)に1.4をかけた数値が、一日あたりに必要なカロリーということになります。ただし、ここで算出したカロリーはあくまで目安。その子の運動量などに応じて異なってくるので、定期的に体重をチェックしながら必要なカロリー数を調節してあげてください。
日々のフードからカロリーを算出する方法
毎日決まった量の市販のフードを与えていて、愛犬が適正体重を維持できているのであれば、摂取カロリーは適切であると言えます。そのような場合は日々の食事の量から、愛犬に必要なカロリーを知ることができるでしょう。
市販のフード(総合栄養食)には100gあたりのカロリー数が記載されているので、そこから算出します。例えば100gあたり360kcalのフードを1日50g与えているのなら、その子に必要な1日あたりのカロリーは180kcalであることがわかりますね。
全てのごはんを手作りにするのは難しい
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ビタミン・ミネラルのバランスも考慮して
総合栄養食に頼らず、愛犬の食事を全て手作りする場合は、ビタミンやミネラルのバランスまで考慮する必要があります。ビタミン・ミネラルはどちらも健康な体を維持するために必要不可欠なものですが、過剰に摂取すると食欲不振や腎機能の低下、肝機能障害などの様々な体調不良を引き起こすため、バランスに注意して摂取しなくてはなりません。
完全手作り食は難しい
ビタミンやミネラルのバランスも意識しながら手作り食を作るとなると、難易度は一気に高くなります。なので気軽に取り入れたいのであれば、1日あたり必要なカロリーのうち2/3を総合栄養食で補い、残り1/3を手作り食(トッピング)で補うのがおすすめです。どうしても愛犬の食事を全て手作りしたい場合は、栄養学に詳しい獣医師に相談しながら、二人三脚で進めていくと安心です。
老犬にオススメな食材は?
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高齢になると消化吸収機能が衰えて下痢や便秘をしやすくなります。愛犬が高齢になってから手作り食を作ってあげるときは、消化にいい食材や体にいい食材を取り入れてあげるといいでしょう。ここでは、シニア犬におすすめな食材をご紹介します。
ささみなどの良質なタンパク質を取り入れて
体を動かす筋肉や、食べ物を消化・吸収する消化管、体を守る働きをする免疫細胞などは、全てタンパク質からできています。そのため、愛犬の健康を維持するためには良質なタンパク質が必要不可欠です。タンパク質は肉や魚、たまごなどに含まれますが、消化機能の衰えたシニア犬に肉の脂身などを与えると下痢や嘔吐を引き起こしてしまうこともあります。シニア犬に与えるのであれば、以下のような食材がおすすめです。
- 鶏のムネ肉やささみ
- 脂肪の少ない豚のヒレ、牛のもも肉
- 消化によく身が柔らかい白身魚など
抗酸化作用のある食材もおすすめ
犬が生きていくためには酸素が必要ですが、体内に取り込んだ酸素の一部は他の分子と結びつき、「活性酸素」に変化します。活性酸素が増えると細胞が老化すると言われています。この活性酸素の働きを抑えてくれるのがビタミンAやビタミンCなどの抗酸化物質。シニア犬の手作り食には、抗酸化物質を豊富に含む食材を取り入れるとよいでしょう。抗酸化物質を豊富に含む食材は以下の通りです。
- サケ(鮭)
- かぼちゃ
- にんじん
- ブロッコリー
- りんご
- バナナ
- 小豆など
ただし、犬は食物繊維の消化が苦手なので、野菜を取り入れるときはすり下ろしたりみじん切りにしたりして、消化しやすくする工夫が必要です。
免疫力を高めてくれるきのこ類
しめじや舞茸、しいたけなどのきのこ類もシニア犬におすすめな食材です。きのこには丈夫な骨や歯を保ってくれるビタミンDや免疫力を高めてくれるβ-グルカン、皮膚や被毛の健康を保ってくれるビタミンBが豊富です。私たち人間が日常的に食べるきのこは基本的に犬に与えても問題ありません。
- 舞茸
- しいたけ
- しめじ
- えのきだけ
- エリンギ
- マッシュルーム
- なめこ
- キクラゲ
ただし、きのこ類は食物繊維も豊富なため、たくさん与えすぎると消化不良を起こし、下痢をすることもあります。与えるときは少量ずつ(5kgの子で小さじ1杯程度)、消化しやすいように細かく刻んであげるとよいでしょう。
整腸作用のある食材もおすすめ
犬の腸には、腸内の健康を維持して老化を防いでくれる善玉菌と、腐敗や毒素を生成して体の健康を害する悪玉菌、それから健康なときは害がないのに、体が弱ると悪さをする日和見菌が生息しています。本来、これらの細菌は一定のバランスを保って腸の健康状態を維持していますが、加齢によって善玉菌が減ると悪玉菌が悪さをするようになり、消化不良を引き起こしやすくなってしまいます。
そこで、愛犬が高齢になってきたら、生きた善玉菌を多く含む食材や善玉菌の働きを助ける食材を積極的に取り入れるとよいでしょう。
<善玉菌を多く含む食材>
- ヨーグルト(無糖)
- チーズ
- 納豆
- 味噌など
<善玉菌の働きを助ける食材>
- アスパラガス
- ゴボウ
- トウモロコシ
- 大豆
- りんご
- バナナなど
ただし、犬に砂糖入りのヨーグルトや人間が食べるチーズや味噌を与えると、糖分過多・塩分過多となる恐れがあります。犬に与えるときは無糖のヨーグルトや無塩の味噌、犬用のチーズを選ぶとよいでしょう。
最後に
愛犬のために手作り食を始めようと考えている方はなら、まずは気軽にトッピングを手作りすることろから始めてみましょう。今までの総合栄養食をベースに、見た目の1/3程度の量を手作りするのであれば、栄養バランスが崩れることもありません。愛犬と一緒にいろいろ試しながら、愛犬のお気に入りを探してあげてください。