【獣医師監修】老犬が下痢をする原因と対策。食事はどうする?絶食すべき?

年を取った愛犬が下痢をしたら、どう対処したらいいのか困惑する飼い主さんも少なくないでしょう。ここでは老犬が下痢をする原因や予防法、さらに愛犬が下痢をした際の対処法などを詳しく解説します。悩んだときはぜひ参考にしてください。

ドッグフード?ストレス?老犬の下痢の原因とは

(画像:Instagram / @pyu_camera

犬は比較的下痢をしやすい動物ですが、年齢とともに体調に変化が起こると、特に下痢を起こしやすくなります。ここでは老犬が下痢をしやすくなる理由をご紹介します。

老犬の下痢の原因① ドッグフードが合わない

犬の腸には、腸内の健康を維持し、老化を防いでくれる善玉菌と、腐敗や毒素を生成して体の健康を害する悪玉菌、それから健康なときは害がないのに、体が弱ると悪さをする日和見菌が生息しています。本来、これらの細菌は一定のバランスを保って健康状態を維持していますが、加齢によって善玉菌が減ると悪玉菌が悪さをするようになり、消化不良を引き起こして下痢をしやすくなってしまいます。

また、老犬になると消化液の分泌が減少し、消化吸収の機能が衰えます。そのため、若い頃に問題なく食べられていたフードやおやつを消化しきれず、軟便や下痢を繰り返すことが多くなります。

老犬の下痢の原因② ストレス

老犬はストレスを感じやすく、その結果体調を崩してしまうこともよくあります。慣れない来客の後に下痢をしたり、ペットホテルに預けた後にウンチが緩くなるのは決して珍しいことではありません。ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、消化液の分泌をさらに低下させてしまうことが原因です。

老犬のストレスについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事

愛犬にいつまでも元気で過ごしてもらうためには、ストレスのない生活をさせてあげることが何よりも大切です。ここでは、愛犬にストレスを感じさせないために、どのようなことに気をつけてあげたらいいのか、動物行動学に詳しい獣医師の菊池先生にお話を伺いま[…]

老犬の下痢の原因③ 環境の変化

犬はもともと環境の変化があまり得意ではありませんが、老犬になると今まで以上に環境の変化が苦手になります。近所で工事が始まったり、庭に野良猫が来るようになったりすると、それが大きなストレスとなって下痢をすることもあります。

また、一緒に暮らしている家族の暮らしに変化が現れたときも要注意。お母さんが働き始めて留守がちになる、子供が一人暮らしのために家を出るなど、お家から家族がいなくなることにストレスを感じる犬は多いです。反対に、お父さんが在宅ワークになる、子どもが突然ずっとお家にいるようになる、という変化もシニア犬にとっては大きなストレスになることがあります。

老犬の下痢の原因④ 体温調節も苦手に

おなかが冷えることによって下痢をすることもあります。老犬になると体温調節機能が低下するため、寒い季節やクーラーの効き過ぎたお部屋にいると体が冷えてしまい、下痢をしやすくなるのです。

老犬の下痢の原因⑤ 病気が原因なことも

色々な理由でシニア犬は下痢をしやすくなりますが、中には病気が原因となっていることもあるので注意が必要です。高齢になると免疫力が低下し、様々な病気にかかりやすくなるのです。発症すると下痢をすることがある、シニア犬によく見られる病気をいくつかご紹介します。

  • 腫瘍(ガン)
  • 尿毒症(腎臓病)
  • 腸炎
  • 肝臓病
  • 糖尿病
  • 子宮蓄膿症

犬が下痢をしたときの対処法は?下痢止めの薬は使ってもいい?

(画像:Instagram / @mt0315

老犬が下痢をしたらまずは動物病院へ

老犬の下痢は消化不良やストレスが原因であることが多いですが、病気が原因のこともあるので自己判断で済ませず、必ず動物病院へ連れて行きましょう。受診する際は、愛犬の便をラップなどで包み、袋に入れて持参します。動物病院へ連れて行くことが愛犬の負担になるようであれば、まずはかかりつけの獣医師に電話で指示を仰ぐのもおすすめです。

動物病院では以下のようなことを聞かれるので、きちんと答えられるようにしておくと診断がスムーズです。

  • 元気や食欲はあるか。
  • 直近でフードを変更したか。
  • 周辺の工事や来客など、環境の変化があったか。
  • 下痢をしているのはいつからか。
  • どのくらいの頻度で下痢をしているか。
  • 便の形状や色、臭いはどうか。
  • 愛犬に普段と異なる点はあるか。
  • 嘔吐はしたかどうか。どんな物を吐いたか。

市販の下痢止めは使わない

最近は犬用の下痢止めが市販されていて、インターネットなどで気軽に購入できるようになっています。しかし、飼い主さんの勝手な判断で市販の下痢止めを飲ませることは絶対にやめましょう。下痢を引き起こしている原因によっては、下痢止めを使うことでより状態が悪化することもあります。例えば、感染症によって下痢をしているときに下痢止めを使うと、ウイルスや悪い細菌を排出しようとしている体の働きを妨げることになります。下痢止めを使用したいときは、必ずかかりつけの獣医師に相談して許可をもらってからにしましょう。

血便や嘔吐が見られる、ごはんを食べない時はすぐ動物病院へ!

(画像:Instagram / @wankorokoro_

愛犬が下痢をしてしまったら、自宅で様子を見ていても大丈夫なのか、すぐに獣医師に診てもらった方がいいのか、判断が難しいこともありますよね。ここではケース別に緊急度を解説します。

元気も食欲もある場合

下痢をしていても普段と変わらず元気で、食欲もある場合は、ストレスや消化不良などから生じる一過性の下痢である可能性が考えられます。しばらく自宅で様子を見ていても問題はありませんが、老犬の場合は容態が急変するケースも多いため、よくよく注意して様子を見ていてあげてください。また、元気があっても下痢が3日以上続くようであれば、動物病院へ連れて行くようにしましょう。

下痢が続く、血便が出たときは?

下痢が3日以上続くまたは断続的に繰り返している場合は、食物アレルギーや感染症などが考えられます。老犬の場合、下痢が続くと脱水症状を引き起こすこともあるため、早めに動物病院を受診しましょう。また、タールのように黒くてドロドロした便や真っ赤な下痢便は、胃や腸のどこで出血している可能性があります。重度の炎症や腫瘍ができていることも考えられるため、この場合は早急に動物病院へ連れていきましょう。夜間であっても、救急病院へ連れて行くことをおすすめします。

嘔吐・発熱など他の症状があるとき

下痢に加え、嘔吐や発熱、食欲不振など他の症状が見られる場合は、何かしらの病気が原因です。体を丸めて震えていたり、飼い主さんが触ろうとしたときに怒ったりするのも、病気のせいで体のどこかに痛みが出ているのかもしれません。こんなときはすぐに動物病院へ連れて行く必要があります。

老犬の下痢ではどんな治療が必要になる?

(画像:Instagram / @pino_hana

老犬が下痢をしたとき、原因によって治療の内容は異なります。下痢をする原因はさまざまなので、まずはかかりつけの獣医師としっかりコミュニケーションを取って、原因を特定する必要があります。

病気以外のことが原因の場合

食べ物やストレス、環境の変化など、病気以外のことが原因で下痢をしている場合には、環境を見直すことで改善できる場合があります。もしかすると飼い主さんが気付いていないだけで、犬にとってストレスとなる要因があるかもしれないので、問診では愛犬の居住環境や環境の変化についてできるだけ丁寧に伝えてください。フードの選び方や切り替え方で悩んでいる場合も、気軽に動物病院で相談してみましょう。

病気が原因の場合

病気が原因で下痢を引き起こしている場合には、元の病気を治療することが何よりも大切です。しかし、症状として下痢が現れる病気は非常に多くあるため、どの病気なのかを特定するために様々な検査が必要になることもあります。検査が多くて不安になった時は、なんのための検査なのか、その検査をすることで何がわかるのか、獣医さんに聞いてみましょう。費用面で不安がある時は、そのこともきちんと伝えてください。獣医さんとしっかりコミュニケーションを取ることで、安心して治療を受けさせることができます。

老犬の下痢を予防するためにできること

様々な体の変化から、老犬は下痢をしやすくなりますが、飼い主さんが日頃からケアをしてあげることで、ある程度下痢を予防することは可能です。ここでは愛犬のためにできるケアについて解説します。

老犬の下痢の予防法① 胃腸に優しいドッグフードを選んで

シニア期になったばかりの犬は、運動量が低下して代謝が衰えるものの、まだまだ食欲旺盛であることが多いです。太りやすい時期のため、シニア初期の犬用フードの多くは、低カロリーでお腹にたまるよう作られています。しかし、消化器の働きが衰えてくると、こういったフードは胃腸への負担が大きくなります。胃腸をケアするために、少量で必要な栄養をきちんと補給できるフードを選びましょう。

また、胃腸をケアするためには消化しやすいフードを選ぶと良いのですが、フードの成分ラベルだけで消化の良いフードかどうかを判断することは難しいです。ウンチの量が多いときは消化しづらい成分が多く含まれている可能性がありますので、フードを変えたときはウンチの量も一緒にチェックしてあげるとよいでしょう。

他にも、善玉菌を増やして腸内環境の悪化を防いでくれるフードも市販されています。愛犬の下痢に悩んでいる方は、そういったフードに切り替えてみるのもおすすめです。ハイシニアの犬におすすめなフードはこちらの記事に詳しくまとめています。

関連記事

一概にシニア犬と言っても、シニア期にさしかかったばかりの犬とハイシニアの犬では最適なフードが大きく異なります。そこで今回はハイシニアの犬に最適なフードの選び方、おすすめのフードについてご紹介したいと思います。   愛犬がハ[…]

 フード・おやつの与えすぎに注意

いくら胃腸に優しいフードを選んでも、たくさん量を与えてしまうと消化不良を引き起こして下痢になる可能性が高くなります。愛犬が可愛くて、ついたくさん食べさせたくなってしまうかもしれませんが、フードやおやつを与える際は適正な量を守りましょう。

また、フードやおやつが古くなっている場合も注意が必要です。古いフードは酸化している可能性が高く、消化不良や嘔吐を招く恐れがあります。古くなったフードは与えないように注意しましょう。

フードの切り替えは慎重に

愛犬に最適なフードを見つけたからといって、急に切り替えることはお勧めできません。突然新しいフードを与えたり、フードを頻繁に切り替えたりすると、腸内環境が新しいフードに順応しないため、逆に消化不良を起こしてしまう可能性も考えられます。3~4週間かけて、少しずつ慎重に切り替えるようにしましょう。シニア犬のためのフードの選び方と切り替え方は、こちらの記事を参考にしてください。

関連記事

年を取った愛犬に健康でいてもらうためには、日々の栄養管理が非常に大切です。年齢に応じて最適なフードを選び、愛犬の健康を栄養面からサポートしましょう。ここではシニア犬用フードの特徴や選び方について解説します。 愛犬がシニアになったらフードの[…]

 腸内環境を整える栄養をプラス

整腸作用のあるリンゴやサツマイモ、無糖のヨーグルトを与えることも下痢予防に効果的です。フードに混ぜて与えたり、おやつ代わりに与えるとよいでしょう。リンゴやサツマイモは消化しやすいようにすりつぶしたり細かく切って与えてください。また、腸内環境を整えるサプリメントを取り入れるのもおすすめ。どのサプリメントを選べばいいか悩んだときは、かかりつけの獣医師に相談してみてくださいね。

部屋を暖かく

老犬は体温調整が苦手なため、冷えから下痢になってしまうことも少なくありません。寒さや冷え対策が下痢予防につながるため、冬場は暖房で部屋を温め、夏場はクーラーを効かせすぎないように注意しましょう。冷たい空気は犬が過ごす地面の近くに溜まりやすいため、愛犬の様子をよく見て、適切に温度調節をしてあげてください。

ストレスを与えない

ストレスが引き金となって老犬が下痢をすることはよくあります。下痢を予防するために、愛犬にストレスを与えないようにしましょう。特にシニア犬の場合、ストレスのせいで急激に体調を崩してしまうことがあります。愛犬のストレスサインを見逃さず、快適な環境を作ってあげてください。老犬のストレスサインについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、合わせて読んでみてください。

関連記事

愛犬にいつまでも元気で過ごしてもらうためには、ストレスのない生活をさせてあげることが何よりも大切です。ここでは、愛犬にストレスを感じさせないために、どのようなことに気をつけてあげたらいいのか、動物行動学に詳しい獣医師の菊池先生にお話を伺いま[…]

老犬が下痢をしたらご飯はどうする?絶食すべき?

(画像:Instagram / @izumi320

老犬に下痢の症状が見られるときは胃腸が敏感になっているため、フードの与え方には注意が必要です。以下の内容を参考に、愛犬の胃腸のケアをしてあげて下さい。

絶食した方がいいの?

犬が下痢をすると絶食を勧められることがありますが、飼い主さんの独断で絶食させるのは危険です。特にシニア犬の場合、体調や体格によっては絶食をさせない方がいいこともあります。絶食をさせるときは必ず事前に動物病院を受診してください。

吐き気がなく、下痢も軽度なのであれば、絶食はさせずにササミのおかゆなどの消化の良いフードを少量与えて様子を見ます。

食事を与えるときの注意点

下痢をしている愛犬に食欲があるからと言って、いつもと同じようにフードを与えてしまうと、状態が悪化する可能性があります。消化管への負担を軽くするために、まずは少量のフードをお湯でふやかし、少しずつ与えて様子を見ましょう。問題なければ徐々に量を通常量にしていきます。脂の多いトッピングやおやつを与えるのも避けてください。

最後に

老犬はストレスや消化機能の衰えから、若い頃よりも下痢をしやすくなります。ただ、中には病気が原因で下痢をしていることもあるので、「年のせいかな。」で済ませず、上記の判断基準をもとに、正しく動物病院を受診するようにしてください。対応に悩んだときは、かかりつけの動物病院に相談して指示を仰ぎましょう。