【犬の腹水とは】症状や治療法、腹水を抜くリスクなどを獣医さんに聞きました

犬の腹水は心臓病や腎臓病、癌などさまざまな疾患によって引き起こされる症状の一つです。腹水が溜まっているということは、重大な病気があるというシグナルでもありますし、腹水が大量に溜まってしまうと、そのことでも犬は非常に苦しい思いをするため、できる限り早急な対応が必要となります。ここでは犬の腹水の原因や対処法について解説します。

肝臓病や癌などでお腹に液体がたまる腹水

哺乳類の体の中には、横隔膜から骨盤にかけて腹腔という空間があり、この空間の中に胃や腸などの臓器がおさまっています。しかし、病気などが原因で腹腔内に液体が溜まることがあり、この溜まった液体のことを「腹水」と言います。水という字が使われていますが、実際に溜まるのは単なる水ではなく、タンパク質などの成分を含んだ体液や血液です。腹水が溜まること自体が“体の異常”を示している上に、腹水が大量に溜まると胃や腎臓、肝臓、腸など腹部に収まっている臓器を圧迫し、さまざまな悪影響を及ぼします。

犬の腹水の症状は?

お腹が膨らむ

腹水の特徴的な症状といえば、液体が溜まることによるお腹の膨らみです。食べる量は変わらない、もしくは食欲が低下しているにも関わらず、愛犬の胴回りが急に太くなってきたという場合は腹水の可能性があります。毛の長い犬種やもともと太り気味の犬の場合、腹部の膨らみに気付きにくいかもしれませんが、ブラッシングなどのスキンシップの際に違和感を覚えたら腹水の可能性があるので、すぐにかかりつけの獣医師に相談しましょう。

元気消失・食欲低下

腹水が溜まると胃や腸が圧迫されるため食欲が低下します。また、下痢・便秘といったお腹の不調を招くこともあります。こうなると体力が急激に衰え、病気と戦うことが難しくなるため、治療では食欲を取り戻すためにできることを優先するケースが多いです。

呼吸困難

肺が膨らんだり縮んだりすることで呼吸ができるのですが、肺自体に膨らんだり縮んだりする力はありません。肋骨の周りの筋肉や横隔膜が収縮したり弛緩したりすることによって、肺も膨らんだり縮んだりできるのです。しかし、腹水がたまって横隔膜に圧がかかるようになると、横隔膜がうまく収縮できなくなり、肺も膨らみにくくなります。その結果呼吸がしにくくなり、息切れや呼吸困難などの症状を引き起こすことがあります。

腹水と似た症状が現れる「腹腔内出血」

お腹の中で出血を起こし、血液が溜まることがあります。これを「腹腔内出血」と言います。腹腔内出血は、腫瘍の破裂や交通事故などの怪我などにより、お腹の中で出血があった場合に起こります。腹腔内出血が起こると体は貧血を起こし、命に関わる危険性が非常に高い状態となるので、腹水よりもさらに迅速な対応が必要になります。

腹水が起きる原因は?

腹水が溜まる仕組みは、原因となる病気によって異なります。原因となる病気をきちんと治療しなければ、腹水はどんどん溜まってしまうケースも多いので、原因を究明することは非常に大切です。

腹水の原因① 血液の循環不全(心臓病など)

心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心臓から送り出された血液は、動脈を通って全身を巡り、やがて静脈を通って心臓へと戻っていきます。しかし、心臓病やフィラリア症などによって心臓の機能が低下すると、本来送り出されるべき血液が心臓内に溜まるようになります(うっ血性心不全)。心臓部で血液が停滞すると、静脈を通って心臓に戻ろうとしていた血液の流れも妨げられ、静脈内にも徐々に血液が停滞するようになります。そして血管の限界量を超えると、毛細血管から血液中の水分が染み出していきます。その水分がお腹に溜まると「腹水」、胸にたまると「胸水」、肺にたまると「肺水腫」となります。

体のどの部分に水が溜まるかは、心機能が低下している部位や程度によって異なりますが、腹水が溜まるときは心臓の右側に問題があることが多いです。心臓の右側に虫が寄生するフィラリア症や、右心房と右心室の間にある三尖弁が逆流をおこしたりすると、末期の症状として腹水が溜まるようになります。

腹水の原因② タンパク質の低下(肝臓病、腎臓病など)

腎臓病や肝臓病、腸炎などにより血液中のタンパク質が低下することも、腹水の原因となります。タンパク質の一種であるアルブミンは血管内に水分を保持する役割を担っているため、アルブミンの濃度が低下すると血管から水分が漏れてしまうのです。漏れた水分がお腹に溜まり、腹水となります。

腹水の原因③ 腹部の炎症

心臓から送り出された血液は、動脈を通って全身の毛細血管へと送られます。毛細血管には小さな穴が空いていて、そこから栄養分の溶け込んだ液体(血しょう)が外に染み出すことで、体の細部まで酸素や栄養素、免疫などを送り届けることができます。

腫瘍や腹膜炎により腹部に重度の炎症が発生すると、体は炎症を沈めるために、炎症のある部位に免疫を届けようとします。その結果、多くの液体が血管から染み出してお腹に溜まるようになります。この場合に溜まる腹水は、先に紹介した2つのケースと比べて、タンパク質や細胞成分を多く含んでいるのが特徴です。

犬の腹水の治療法について

腹水の治療法は原因となる病気や症状の進行具合により、適した治療が異なります。獣医師と相談して、愛犬にとって最適な治療法を検討してあげてください。

腹水の原因となる病気の治療

腹水は、溜まっていること自体が異常であり、その原因には必ず何らかの病気があります。つまり、原因となっている病気を治療することができれば、腹水も解消することができると言えます。

ただし腹水は、少量では気付きにくいために発見が遅れてしまったり、腹水が大量に溜まっている場合には病気がある程度進行しているケースが多いことなどから、治療がうまくいかずに対症療法になってしまうケースも少なくありません。しかし、すべてのケースで治療困難とは限らないのも事実です。特に早期に発見できれば、回復の可能性も上がります。

利尿剤・投薬で排泄を促す

利尿剤は名前の通り、おしっこを促す薬です。利尿剤によってたくさんのおしっこが排出されると、体全体の水分が減ります。体の水分が減ると血液中の水分も減るので、血液の量が減り、血液の停滞を解消する効果が期待できるのです。

そのため、利尿剤は心臓病による腹水に利用されることが多いです。心臓病が完治に至らない場合でも、血管を拡張させる薬と利尿剤をうまく使って腹水の解消に成功するケースもあります。ただし、使いすぎると脱水を起こし体の至る所に悪影響を及ぼすこともありますし、腎臓が悪い場合には利尿剤を利用できないこともあります。

お腹に針を刺して腹水を抜くことも

何かしらの理由で利尿剤を使用できなかったり、使用してもあまり効果が見られなかった場合は、お腹に針を刺して物理的に腹水を抜くという方法もあります。病気が進行して打つ手がない、利尿剤も使えないといった状態で、腹水の溜まり過ぎにより呼吸がしにくくなっている、食欲が著しく落ちているといった場合には、腹水を抜くことで苦しさを一時的に軽減してあげることができます。

腹水を抜くリスクについても知っておこう

腹水は一度抜いてもすぐ溜まる

腹水を抜く時に気をつけたいのが、原因を解消しない限り、腹水はまたすぐに溜まってしまうということです。しかも一度に多量の腹水を抜くと、その反動で余計溜まりやすくなることもあります。

体の衰弱を招くことも

腹水は単なる水ではなく、細胞やタンパク質などの体に必要な成分栄養分を含んだ体液です。何度も抜いてしまうとその分、体の衰弱を招く可能性がありますし、血圧の急な変化によってショック状態に陥る危険性もあるので、腹水をどの程度抜くかは慎重に検討しなければなりません。

腹水は抜くべき?

腹水が溜まったら安易に抜けばよいというものではなく、病状や状態によっては抜かない方がよい場合もあることは覚えておきましょう。ただし、通院で腹水を抜きながら長期間がんばっている子も多くいます。かかりつけの獣医さんとしっかり話し合って、愛犬にとって最適な方法を選択してあげてください。

食事やマッサージなど、愛犬のためにできることはある?

たとえば末期の癌や心臓病などで積極的な治療が難しい場合、愛犬の苦しみを和らげるためにできることはあるのでしょうか?ここでご紹介する方法はそれぞれにメリット・デメリットがあるので、獣医師やご家族とよく相談し、愛犬にとって一番良いいい方法を選んであげましょう。

腹水は抜くべき?

病気が進行して打つ手がない、利尿剤も使えないといった状態で、腹水の溜まり過ぎにより呼吸がしにくくなっている、食欲が著しく落ちているといった場合には、腹水を抜くことで苦しさを一時的に軽減してあげることができます。もちろん、原因となる元の病気が治っていなければ腹水はまた溜まりますし、腹水を抜くリスクもありますが、通院で腹水を抜きながら長期間がんばっている子も多くいます。

食べ物はどうする?

腹水が溜まると消化能力の低下などにより食欲が落ちます。食欲が落ちると急激に衰弱してしまうため、とにかく愛犬の好きなもの、栄養価の高いものを与えるというケースもありますが、塩分は浮腫みや腹水を悪化させる要因となりますので、基本的には塩分はなるべく制限した食事にしましょう。また、肝臓や腎臓の疾患が原因で腹水が出ている場合は、塩分以外にも食事内容に制限が設けられることもあるので注意が必要です。

どのような食事をどの程度与えるのがよいのかは、原因となっている病気や進行度具合によって異なるため、愛犬の状態を把握しているかかりつけの獣医師からアドバイスをもらいながら決めていきましょう。

マッサージで利尿促進

腹水の治療に利尿剤が用いられるように、尿の量を増やすことは腹水の溜まる速度を遅らせる効果が期待できます。ここでは、排泄を促すためのマッサージ方法をご紹介します。飼い主さんに撫でられる喜びや安心感によって、犬のストレスを軽減させる効果もあります◎ただし、病気の状態によってはマッサージが逆効果になることもあるので、必ずかかりつけの獣医師にマッサージをしても問題ないか、事前に確認を取ってから行うようにしてください。

では、具体的なマッサージのやり方を見てみましょう。犬の腰からお尻には膀胱に効くツボがたくさんあります。ツボを刺激することで排泄を促す効果が期待できるので、犬の背骨に沿って腰からお尻にかけて優しく撫でるようにマッサージします。このとき、絶対にお腹を押したり撫でたりしないよう注意してください。

セカンドオピニオンを利用する

愛犬が徐々に衰弱していくとき、頼れる獣医師の存在はなにより心強いものです。気になることを何でも聞ける、疑問に思ったことを丁寧にわかりやすく教えてくれる、困ったときに親身になって話を聞いてくれる相手がいると、飼い主さんも納得して治療方針を選べるはず。もし、今通っている動物病院で「なんとなく質問しづらい。」「もう少し丁寧な説明が欲しい。」「専門医の意見を聞いてみたい。」と感じているなら、セカンドオピニオンを利用するのもおすすめです。

ただし、慣れない動物病院へ衰弱している愛犬を連れていくことにもリスクはあります。愛犬にとってなにがベストなのかじっくり考えて、飼い主さんが納得できる選択肢を選べるといいですね。

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最後に

腹水は様々な病気の末期症状として現れることも多く、飼い主さんが気付いたときにはすでに大量に溜まっているケースも少なくありません。しかし、腹水の出る原因を特定して適切な治療を受けることで、腹水の量を減らしたり、愛犬の生活の質を改善できる場合もあります。かかりつけの獣医師としっかり相談し、愛犬のためにできることをしてあげましょう。