シニア犬は震えることが多くなります。足だけ震えることもあれば、全身がブルブル震えることもあります。そんな愛犬の様子を見て、不安を感じる飼い主さんも多いでしょう。ここではシニア犬が震える原因と注意すべきポイント、自宅での対処法などを獣医師の石川先生に伺います。
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老犬の後ろ足や全身が震えるのはよくあることですか?
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考えられるさまざまな原因
老犬が震えるのは珍しいことではありません。ただ、震える理由はさまざまなので、何が原因で震えているのかを把握する必要があります。年齢的な問題から震えることもありますし、寒さやストレスなど、生理的な原因から震えることもあります。また、病気や痛みのせいで震えることもあり、このようなケースでは適切な治療が必要になります。愛犬が震えているのを見て、「きっと寒いからだろう。」「年だから震えているのだろう。」と決めつけず、きちんと原因を把握して、適切に対処してあげましょう。
まずは動物病院で診てもらおう
犬が震えているとき、それが痛みによるものなのか、老化現象によるものなのかを飼い主さんが判断することは難しいです。「最近よく震えるようになったな。」と感じたら、まずはかかりつけの動物病院に相談してください。病気の早期発見に繋がる可能性もありますし、老化が原因で震えている場合でも、改善のためのアドバイスを貰えることがあります。
老犬の震えで考えられる原因について教えてください
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痛みによる震え
体のどこかに痛みがあると、震えることがあります。そのままにしておくと愛犬のQOL(生活の質)を大きく低下させてしまうので早めに対処してあげたいですよね。体に痛みが現れる病気は色々ありますが、関節疾患や椎間板ヘルニア、腫瘍などはシニア犬がかかりやすい病気なので注意が必要です。早期治療によって痛みを和らげ、症状の進行を遅らせることができるので、愛犬の様子に違和感を感じたら早めに動物病院を受診してください。
特に関節疾患を発症するシニア犬は非常に多いです。関節疾患についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、気になる方はぜひあわせてご覧ください。
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痙攣による震え
シニア犬が痙攣発作を起こすのは珍しいことではありません。痙攣発作の中には全身を激しく震わせるものもあれば、体の一部だけが震えたりつっぱったりするものもあります。腎臓病や心臓病、てんかん、脳腫瘍などの病気が原因となっている可能性があるので、発作が落ち着いたら必ず動物病院を受診してください。なお、発作を起こしているときはむやみに声をかけたり抱き上げたりせず、その時の様子を動画で撮っておくとよいでしょう。痙攣発作を起こした時の対策についてはこちらの記事で詳しく紹介しているので、ぜひあわせてご覧ください。
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筋肉低下による後ろ足の震え
老化によって足の筋肉が徐々に衰えていくのは、人も犬も同じです。犬は高齢になると約80%が、後ろ足から弱り始めるとも言われています。足の筋肉量が低下すると、歩くのはおろか立つことも辛くなるため、足の震えが起こりやすくなります。
恐怖やストレス
苦手なことや恐ろしいことに遭遇したときに愛犬の足が震えているのは、恐怖やストレスが原因と考えられます。加齢によって視力や聴力が衰えると、余計に不安な気持ちを感じやすくなるので、若い頃より震えることが多くなるかもしれません。
若い頃は平気だったことが、シニアになってから強いストレスを感じるようになるケースもあります。シニア犬とストレスについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
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体温調節機能の低下
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そもそも犬は人よりも地表に近いところで生活するため、気温の低い時期は寒さをダイレクトに感じてしまうものですが、シニアになると体温調節の機能も低下します。そのため、若い頃よりも寒さを感じやすくなると言われています。
動物病院ではどんなことをするのでしょう?
まずは震えている原因が生理的なものなのか、体調不良によるものなのかを調べます。飼い主さんの話を聞いたり、触診をしたりして、痛みのサイン、緊張や恐怖、発熱、寒冷刺激、筋疲労の有無を調べます。
問診や触診で痛みのサインが認められた場合は、何が原因で痛みが出ているのかを調べていくことになりますが、痛みが出る病気は非常に幅広く、多くの検査が必要になることもあります。考えられる病気は、関節疾患、骨の疾患、内臓疾患、腫瘍(ガン)、神経疾患、筋疾患、内分泌疾患、代謝性疾患など。まずは麻酔なしでできる血液検査やレントゲン、エコーなどの画像検査をすることが多いです。この検査で何がわかるのか、どこまで検査をすべきか、かかりつけの獣医さんとしっかり相談しながら進めていきましょう。
色々な検査をして、生理的な要因や病気の可能性が除外された場合に、年齢による震えと判断することになると思います。
注意すべき老犬の震えについて教えてください
緊急性の高いケース
震え以外に食欲不振や下痢、嘔吐などの症状が見られる場合は、体調不良によるものだと考えられます。できるだけ早めに動物病院で診てもらいましょう。中でも、以下なようなケースは緊急度が高いと考えられます。早急な処置が必要な場合もあるので、もしかかりつけの動物病院が開いていない夜間などの時間帯に異変が現れた場合は、24時間対応している救急病院などに相談してください。
- 咳が出る
- 呼吸が荒い
- ぐったりしている
- 意識が朦朧としている、意識がない
痛みが原因で震えているケース
体に痛みがあるときはできるだけ早めに適切な処置をしてあげる必要があります。犬は痛みを感じているとき、以下のような行動を示すことがあります。愛犬が震えているときは特に注意して、様子を見てあげてください。
<犬が示す痛みのサイン>
- 後ろ足をかばう、引きずる
- ふらつく
- 体を丸めて震える
- 段差を避ける
- 元気がなくなる
- 寝ている時間が長くなる
- 動きたがらない、散歩に行きたがらない
- 体に触ると「キャン」と鳴く
- 触ろうとすると怒る
- トイレの失敗が増える
自宅でできる震え対策を教えてください
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老犬の震え対策① 環境を見直す
筋力の低下や関節疾患などで足に震えが出ているときは、滑るフローリングの上は歩きにくくなります。関節にかかる負担も大きくなるので、愛犬がよく歩く場所にはカーペットやコルクマットなどを敷いてあげてください。ソファーや玄関などの段差も苦手になってくるので、愛犬がよく昇り降りする場所にはステップやスロープを取り付けてあげるとよいでしょう。
老犬の震え対策② リハビリで筋力をつける
筋力が衰えると運動量も徐々に減っていきますが、そのままにしておくと筋力はますます衰え、やがて寝たきりになってしまうこともあります。無理のない範囲でお散歩に連れ出したりマッサージをしてあげたりして、愛犬の筋力アップを図りましょう。シニア犬の筋力トレーニングはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
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老犬の震え対策③ 冷やしすぎないように注意
愛犬が寒がっているようであれば、毛布を敷いたり暖房をつけたりして、体を暖めてあげましょう。特に夏の冷房は地面に近い方が冷気が溜まりやすいため、こまめに愛犬の様子を確認し、温度を調節してあげてください。
また、急激な温度変化も高齢犬にとっては大きな負担となります。お散歩に行く時はできるだけ室内と外気温の差が少ない時間帯を選びましょう。寒い時期は服を着せてあげるのもおすすめです。
老犬の震え対策④ 体重管理も大切
関節に痛みが出ていたり、足の筋力が衰えているときは、体重管理も非常に大切です。シニアになっても愛犬がたくさんごはんを食べてくれると安心するという飼い主さんは多いと思いますが、だからと言って食べさせすぎはNG。肥満になると足にかかる負担が大きくなりますし、心臓病や糖尿病のリスクも高まります。肥満のリスクやシニア犬のダイエット方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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最後に
シニア犬が震えているとき、考えられる原因はいくつかあります。原因によって対処法が異なるので、まずはかかりつけの動物病院に相談してみましょう。震えている原因をきちんと把握して、愛犬にとって最適の処置をしてあげられるといいですね。