老犬に多い子宮蓄膿症とは?症状や治療費用について

子宮蓄膿症は避妊手術をしていない中齢〜高齢のメス犬がかかりやすい病気です。発見が遅れると短時間で死に至ることもありますが、早期治療ができれば完治する確率は高い病気です。病気を正しく理解し、早期発見・早期治療に繋げましょう。

子宮蓄膿症とは?

子宮蓄膿症は犬の子宮の中に膿がたまる病気です。初期段階では無症状なことも少なくありませんが、悪化すると様々な合併症を引き起こし、死に至ることもあります。

子宮の内部に膿が溜まる病気

子宮蓄膿症は犬の膣から入り込んだ細菌が子宮の中で増殖することで引き起こされます。子宮に溜まった膿が陰部から出てくる「開放性子宮蓄膿症」と、膿が子宮内に留まる「閉鎖性子宮蓄膿症」がありますが、膿が子宮の中に溜まり続ける閉鎖性子宮蓄膿症の方が重症化しやすいです。膿が出てこないので飼い主さんが異変に気づきにくく、治療が遅れてしまうケースもあります。

恐ろしい合併症のリスクも

子宮に溜まった細菌の毒素が血液に混じって全身を巡るようになると、致死率の高い合併症を引き起こします。発熱・低血圧などの重篤な症状を引き起こす敗血症や、腎臓が正常に働かなくなる腎不全、全身に細かい血栓ができるD I Cなどは、子宮蓄膿症にかかった犬が陥りやすい合併症です。また、膿がパンパンに溜まって子宮が破裂すると、体内に膿が漏れて腹膜炎を起こすこともあります。

子宮蓄膿症は1日1日と状態が悪化します。これらの合併症を引き起こす前に、早急に治療をする必要があります。

避妊することで予防できる

発症すると短期間で重症化する子宮蓄膿症ですが、避妊手術で予防することができます。高齢になって体力が落ちると麻酔のリスクも高くなるので、妊娠させる予定がないのであれば、若いうちに避妊手術を受けることをお勧めします。愛犬が年を取ってしまった場合も、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。

子宮蓄膿症にかかりやすい犬

どの犬種であっても子宮蓄膿症になる可能性がありますが、ここでは特に注意すべきケースをご紹介します。当てはまる飼い主さんは愛犬の様子をしっかり見てあげてください。

出産経験のない高齢犬

若い犬でも、避妊をしていないと発症する可能性は十分ありますが、年齢が上がるにつれて発症のリスクは高まります。特に妊娠しないまま発情期を何度も経験している高齢犬は注意しましょう。長い間妊娠していない犬も発症しやすいです。

発情期の後は要注意!

子宮蓄膿症は、犬の発情出血(生理)があってから1~2か月の間に発症することが多いので、発情期を迎えた後は特に注意してください。

犬は1年に1〜2回、定期的なサイクルで発情期を迎えます。そして発情期を迎えた後は、妊娠をしているかどうかに関わらず、妊娠・出産・授乳をするための「発情休止期」に入ります。この発情休止期になると、妊娠しやすくするために子宮までの通り道がいつもよりも広がっているので、大腸菌やブドウ球菌などの細菌も子宮に入り込みやすくなります。そして、胎内の子犬を攻撃しないよう、異物に対する攻撃力(免疫力)が弱まっているため、細菌を追い出す力も弱くなっています。さらに、子宮内には子犬のために豊富な栄養が蓄えられているため、細菌が増殖しやすい環境になっているのです。

子宮蓄膿症の症状は?

子宮蓄膿症は初期段階では無症状ですが、進行とともに様々な症状が現れます。以下に挙げる症状がみられたら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

多飲多尿

子宮内で繁殖した細菌が毒素を排出し、その毒素が全身を巡るようになると、腎臓の機能が低下します。腎臓には血液中の老廃物を濾し取って、水分を凝縮して尿を作り、体外へ排出する働きがありますが、腎機能が低下すると尿を凝縮することができず、薄い尿を多量にするようになります。大量の水分が体から出ていくため、水を飲む量も増えるのです。

元気消失・食欲低下

毒素が全身に巡ると元気がなくなり、食欲の低下や嘔吐、下痢などの症状が見られます。これらは他の病気でもよく見られる症状ですが、子宮蓄膿症の場合は早急な治療が必要になりますので、避妊をしていない犬でこの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。歩く際に後ろ脚がふらふらする、全身に力が入らない、体が熱っぽい、などの場合も子宮蓄膿症の可能性が考えられます。

腹囲膨満(腹部の膨張)

子宮内に大量の膿がたまると、犬の腹部がいつもより膨らんで見える場合もあります。お腹の膨らみに気付いたら、すぐに動物病院へ連れて行ってください。パンパンに腫れた子宮が破れて体内に細菌が漏れ出ると、短時間で命を落とす危険性があります。

陰部からの膿

開放性子宮蓄膿症の場合は、子宮内に溜まった膿が陰部から漏れ出てきます。一見血液のように見えるので、発情出血と見分けがつきにくいかもしれません。発情出血がいつもより長引いている、いつもよりドロっとしたものが出る、出血が終わったのにまた出血が始まったなど、いつもの生理周期と少しでも違うようであれば獣医師に診てもらいましょう。

陰部をしきりに舐める

膿が陰部から漏れ出てくると、それを気にして犬が陰部周辺を舐めることがあります。愛犬が頻繁に陰部を舐めたり、気にしているような様子を見せる場合は、子宮蓄膿症の可能性があります。

子宮蓄膿症はどうやって診断するの?

動物病院では、以下の流れで診断を下すことが一般的です。いざというときに獣医師からの質問にスムーズに答えられるよう、ポイントをチェックしておきましょう。

問診と身体検査

避妊手術をしてない犬の場合、飼い主さんに発情期の時期を確認します。そして少し前に発情出血があった場合は、問診と触診で子宮蓄膿症の症状がないかどうか確認します。このとき多飲多尿や腹部・陰部の腫れ、陰部からの出血などの症状が見られたら、子宮蓄膿症を強く疑います。

超音波検査・レントゲン検査

子宮蓄膿症が疑われる場合は、腹部の超音波検査(エコー)を行うことが多いです。超音波検査では正常な子宮であれば何も映りませんが、子宮の中に液体が溜まっていると、それを映し出してくれます。子宮蓄膿症の症状が現れていて、超音波検査で水分の溜まった子宮が見つかったら、子宮蓄膿症である可能性が極めて高いです。

超音波検査で異常が見つかれば、レントゲン検査をする必要はあまりありませんが、全身の状態を確認するために実施することもあります。

血液検査

子宮蓄膿症は悪化すると全身に影響が現れるため、血液検査で全身の状態を確認する必要があります。血液検査では他の臓器に異常が出ていないかを確認するとともに、白血球の数値から病気の進行具合や全身の状態を判断することもできます。他にも、麻酔をかけることができるかどうか、どの種類の麻酔薬を使用するべきか、すぐに手術を行える状態なのか等、治療方針を決める上で重要な情報を得ることができるのです。

子宮蓄膿症の治療方法

子宮蓄膿症の治療は手術をして完治を目指すことが一般的ですが、手術が難しい場合は投薬で治療する場合もあります。特に手術や麻酔のリスクが大きい高齢の犬や、短頭種などの麻酔リスクの高い犬は、かかりつけの獣医師としっかり相談しましょう。

卵巣と子宮の摘出手術

全身麻酔をかけて行う手術では、卵巣と子宮を取り出し、その後、腹腔内を洗浄します。子宮蓄膿症は急速に症状が悪化するため、診断がついたらすぐに緊急手術となることが多いですが、あまりにも全身の状態が悪い場合は点滴や投薬などで症状を和らげてから手術をすることもあります。

合併症を引き起こすことなく、無事に手術を終えることができれば、再発の可能性はなく、術後は健康な状態で過ごすことができるでしょう。ただし、手術前に深刻な腎不全を引き起こしていると、手術を無事終えても腎臓の機能は低下したままとなり、慢性腎不全の治療が必要になるケースもあります。

抗生物質やホルモン剤などの投薬治療

体力が落ちていて手術や麻酔に耐えられない場合は、細菌を抑える薬や膿を体外に排出させる薬を使って治療をすることもあります。しかし、投薬での治療は治るまでに時間がかかりますし、状態が改善しないこともあります。また、一度は完治しても、子宮や卵巣が体内にあるままだとまた発情期は来ますし、再発の可能性も残ります。かかりつけの獣医師とよく相談して治療方針を決めましょう。

治療費用はどのくらい?

子宮蓄膿症の治療にかかる費用は、症状の進行度合や手術内容によって異なりますが、検査、麻酔、手術、入院費用を含めるとおよそ10~15万円程度が目安となっています。病院によっても治療費用は異なりますので、かかりつけの獣医師に相談するといいでしょう。

手術後の合併症に注意

子宮蓄膿症は手術が成功した後も様々な合併症を起こす可能性があるため、術後数日は状況チェックと輸液管理が必要となります。手術後の全身状態が悪くなく、血栓などもできていなければ、数日後に退院できるでしょう。手術後、1週間程度は食欲の低下や出血、震えなどの症状が見られることもあります。退院後も犬の体調不良が続くようであれば、すぐに獣医師に相談しましょう。

最後に

子宮蓄膿症は発見が遅れると命を奪う恐ろしい病気です。早期に発見することができれば完治を目指すことができるので、避妊をしていない場合は発情期の後、特に注意して愛犬の様子を見るようにしてください。