がん(癌)になった犬を支えるための食事について【獣医師が解説】

愛犬にガン(悪性腫瘍)が見つかったとき、日々の食事について考えることは非常に大切です。ガンになると食欲が落ち、ごはんを食べられなくなったり、ガンの進行とともにどんどん痩せてしまったりするケースは少なくないからです。ここでは日本獣医がん学会に所属されている福永先生に、愛犬がガンになったときの理想的な栄養管理と、ガンと闘う愛犬を支えるための食事について伺います。

ガン(癌)になると食欲不振になることが多いですよね?

ガンを発症した犬が食欲不振に陥るケースはとても多いです。食欲不振に陥る原因はさまざま。まずはその理由を見ていきましょう。

がん性悪液質

食べ物から摂取した栄養素は、体内で分解・吸収され、体を作るもとになったり生命活動を支えるエネルギー源となります。しかし、ガンを患っている犬の体内では、炭水化物、タンパク質、脂質などの栄養素の代謝に異常が生じるため、きちんと栄養をとっているように見えても栄養失調に陥り、衰弱してしまうことがあります。これを「がん性悪液質」と言います。がん性悪液質に陥ると、食欲不振に陥って体重が落ちたり、腹水が溜まったり、免疫に異常が現れるなど様々な症状を引き起こします。

慢性的な痛み

ガンの種類やガンができた場所によっては、痛みが強く現れることがあります。特に神経を圧迫するような場所にガンができたり、ガンが骨に転移したりすると、強い痛みを感じるようになります。また、ガンが肺に転移すると呼吸がしづらくなったり、呼吸のたびに痛みが生じるようになることもあります。慢性的な痛みのせいで食欲が落ちるケースは少なくありません。

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吐き気が現れることも

ガンを発症すると吐き気に苛まれることもあります。特に胃や腸などの消化管にガンができると強い吐き気が現れます。吐き気が続くと、食欲不振になってしまうことも多くあります。

ガン(癌)になると食事が重要なのはなぜですか?

治療の副作用を軽減する

ガンの種類やできた場所によって治療法はさまざまですが、治療を希望する場合には手術、抗がん剤、放射線療法のいずれかを選択していくことが一般的です。日々の食事できちんと栄養がとれていれば、治療をする上で必要な体力をつけることもできますし、治療の副作用を軽減することにもつながります。

QOL(生活の質)を維持する

高齢になった愛犬にガンが見つかったとき、上記のような積極的な治療を受けるべきかどうか、悩まれる飼い主さんも多いと思います。中には、 愛犬への負担を考慮して積極的な治療を希望されない方もいるでしょう。しかし、どのような選択をしたとしても、できるだけ愛犬のQOL(生活の質)を下げることなく生活させてあげたいですよね。

日々の食事についてきちんと向き合うことは、治療の副作用を軽減するだけでなく、犬のQOL(生活の質)を維持し、食欲や体重を維持することにつながります。

ガンは栄養を吸収して成長する

ガンとは、健康な細胞から生まれたがん細胞が免疫をすり抜けて増殖したもので、健康な細胞と同じく、食べ物から取り込まれた栄養を吸収して成長します。そのため、良かれと思って与えた食べ物が、知らぬ間にガンの栄養源となってしまうこともあるのです。ガンの成長をできるだけ妨げ、健康な細胞にきちんと栄養を届けるためには、日々の食事を見直すことがとても大切です。

ガン(癌)になったときの理想的な食事内容を教えてください

炭水化物の摂取は要注意

炭水化物に含まれるブドウ糖は、健康な細胞が活動するための重要なエネルギー源となります。吸収されたブドウ糖は分解されて乳酸となり、その後、肝臓で再びブドウ糖へ再合成されます。

しかし、このブドウ糖はがん細胞にとっても重要な栄養源となります。がん細胞は健康な細胞と同じようにブドウ糖を吸収し、乳酸を作り出しますが、この乳酸をブドウ糖に再合成するためのエネルギーは体が負担することになります。そのため、ガンにかかるとエネルギー源であるブドウ糖をがん細胞に奪われるだけでなく、本来の生命活動から外れたところで生成される乳酸によって、さらに余分なエネルギーを奪われてしまうのです。

そのため、愛犬がガンと診断されたときは、炭水化物の摂取を見直したほうがいいでしょう。白米やパン、麺類などをおやつに与えている場合は特に注意が必要です。

タンパク質は適切な量を

がん細胞は増殖するためにアミノ酸を必要とします。そして十分なアミノ酸が供給されないと、犬の体からアミノ酸を奪い取るようになります。アミノ酸は本来、犬の筋肉や免疫機能を構成している重要なタンパク質なので、ガンによって体内のアミノ酸が不足すると、免疫機能や消化管機能の低下、筋肉量の減少などを引き起こすことがあります。良質なタンパク質を適切に与えることを心がけてください。

脂質でエネルギーを補給

犬は脂質からエネルギーを作り出すことができますが、がん細胞は脂質をエネルギー源とすることが苦手だとされています。がん細胞に奪われることなく、体に必要なエネルギーを補うことができるという点から、ガンの療法食では脂質を主なカロリー源とし、炭水化物を減らすことが効果的なのではないか、と考えられています。

ただし、脂質は種類によってガンに対する働きが異なるため注意が必要です。たとえば、サラダ油やごま油に多く含まれるオメガ6脂肪酸は、がん細胞の成長と転移を促す可能性が指摘されているため、避けた方がいいでしょう。一方、魚や玄米などに含まれるオメガ3脂肪酸は、ガンの成長の抑制効果などが期待できるため、積極的に取り入れたい脂質です。ガンの食事療法で脂質を増やすときは、その種類にも注意しましょう。

また、肉の脂身などに含まれる飽和脂肪酸は、取りすぎるとコレステロール値の上昇を招き、様々な障害を引き起こします。がん細胞に直接影響があるわけではありませんが、体調不良を引き起こす原因となりますので、摂り過ぎに注意しましょう。

ガン(癌)になったとき、食事はどう選べばいいですか?

栄養バランスのとれた食事が大切

愛犬がガンになったときの理想の食事内容は上記の通りですが、「この食材がいいらしい」とその食材ばかり与えてしまうと栄養バランスが崩れてしまいます。食事は体を作る元となるので、きちんと栄養バランスのとれた食事を与えることは何よりも大切です。ガンと闘う体を作るためには、なおさらバランスのとれた食事が必要になります。そのため、食欲があって獣医師から療法食の指示を受けていない場合には、年齢に合った総合栄養食を選択していれば問題ありません◎。ただし、おやつを与えるときは炭水化物を多く含むパンやごはん、クッキーなどは避けるようにしましょう。

ちなみに、ダイエットフードは糖質制限が可能ですが、脂質も制限されているフードが多いため、腫瘍のための食事としては不適切です。(もちろん、ダイエットが必要な子はOKです。)また、小麦や米、トウモロコシなどの穀物が入っていないフードなら糖質制限ができそうに思えるかもしれませんが、グレインフリーのフードは穀物の代わりにマメ科やイモ科の食材でバランスをとっているため、炭水化物の量は変わらないことがほとんどです。いつも総合栄養食を与えている場合は、普段通りのごはんを与えてあげてください。

手作り食は特に栄養バランスを意識して

手作り食は栄養の過不足が出やすいので、手作り食を取り入れている方は特に注意が必要です。市販の総合栄養食をベースにしてトッピングのみを手作りにすれば、バランスをとりやすくなります。犬の栄養学に関する知識がないまま手作りをしている方は、ぜひ市販のフードも取り入れてみてください。

市販のフードというとドライフードを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、市販のフードにはさまざまな種類があり、おいしさにこだわったウェットフードの総合栄養食やヒューマングレードの食材を使った手作り食のような総合栄養食もあります。もし、完全に手作りで療法食を作りたいと考えている場合には、フードに詳しい獣医さんに相談しながら進めると安心です。

市販の療法食もあるけれど

最近はインターネットでも「療法食」と謳われるフードが販売されるようになりましたが、基本的に療法食というのは獣医師の指示のもと処方される食事です。特にガンの場合は犬の状態によって適切な食事内容が異なるため、飼い主さんの独断で市販の療法食を与えることはおすすめしません。気になる療法食を見つけた場合は、必ずかかりつけの獣医師に相談して、許可を得てから取り入れるようにしてください。

犬の状態で食事内容を変える必要があるのですね

食欲があり、獣医師から療法食の指示を受けていない子の場合には、基本的には年齢に応じた総合栄養食で問題ありません。しかし、ガンが進行すると、ガンによって引き起こされる様々な症状により、理想通りの食事を摂ることが難しくなるケースも多いです。かかりつけの獣医師と相談しながら、その子の状況に応じて最適な食事を考える必要があります。

食欲が低下しているケース

ガンは、できた場所やガンの種類によって、異なる様々な症状を引き起こします。中でも食欲不振は、ガンによって引き起こされる代表的な症状です。ごはんが食べられなくなっているときは食事の内容にこだわりすぎず、食欲がそそられるものを優先し、犬が好きなもの、食べられるものを食べさせてあげることもあります。

また、食欲の低下に伴って体重が著しく落ちてしまっている場合には、高栄養・高消化性の療法食(ヒルズのa/di/dやロイヤルカナンの退院サポート消化器サポート高栄養など)が必要になることもあります。

内臓がダメージを受けているケース

内臓にガンができていたり、ガンの影響で内臓がダメージを受けているときには、病状に応じた療法食が選択されることもあります。例えば、腎臓に発生したガンにより慢性腎不全を引き起こしている場合には、腎臓病用の療法食を与えることもありますし、ガンによって肝機能障害を起こしている場合には、肝臓病用の療法食を与えることもあります。ただし、これも犬の体調や病気の進行度によってその都度見直す必要があります。

他にも腫瘍の種類、腹水の有無、吐き気や低血糖の有無など、ガンによって引き起こされる症状はさまざまなので、かかりつけの獣医師と相談しながら、愛犬にとって最適な食事を選択してあげましょう。

ごはんを食べてくれないときの対処法を教えてください

食べることが大好きだった愛犬が、ガンによって食欲不振になり、どんどん痩せていく様子を見るのは、飼い主さんにとっても辛いことですよね。愛犬がごはんを食べてくれないとき、どのように対処したらよいのでしょうか?

まずは動物病院で治療について相談しましょう

ガンによって食欲不振に陥ったとしても、適切な治療でガンを抑えこむことができれば、食欲が改善するケースも多いです。手術によって完治が見込めるガンもありますし、抗がん剤がしっかり効いて、健康な時と同じように過ごせるケースもあります。積極的な治療を希望しない場合でも、対症療法として痛み止めや吐き気止めなどの薬を使うことで苦痛が和らぎ、食欲が戻ってくることもあります。まずはかかりつけの獣医さんと治療法についてきちんと話し合ってみましょう。

食事内容を工夫する

ガンによって犬の食欲が衰えてしまった場合は、食事内容を工夫することも大切です。フードを温めて匂いを立たせたり、ウェットフードなどをトッピングしたりして食欲を刺激してあげましょう。また、噛む力が衰えている場合には、ドライフードをお湯でふやかしたり、食べやすく刻んであげたりして、飲み込みやすくなる工夫をしてあげましょう。

犬が自力でごはんを食べることが難しい場合には、スプーンやスポイトでごはんを口元に運んであげると食べてくれることもあります。 このとき、食事の体勢と与え方にはくれぐれも注意しましょう。食べ物や飲み物が気管に入ると、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。食事の与え方についてはこちらの記事を参考にしてください。

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経管栄養法という選択肢も

ごはんを口元に運んであげると食べてくれることもありますが、続けているうちに犬が嫌がるようになってしまうことも少なくありません。食事の時間がストレスになるのは、飼い主さんにとっても犬にとっても辛いことです。また、薬がきちんと飲めれば良くなる可能性が高い病気でも、愛犬が薬を飲んでくれないばかりに悪化してしまうというケースもあります。

このような場合は、チューブを使って犬の食道や胃に直接食べ物や薬を送り込む「経管栄養法」も有効です。 経管栄養法とは、チューブを使って犬の食道や胃に直接食べ物や薬を送り込む方法のこと。愛犬の体にチューブを通すことに抵抗を感じる飼い主さんは多いと思いますが、毎回口から強制的に食べさせる方法と比べると、犬へのストレスはかなり少なくなります。また、経管栄養法によって良質な栄養を摂取することで全身の状態が良くなると、再び自分でごはんを食べようとする子もいます。無理な延命を希望されない方でも、一時的な食事管理の方法として経管栄養法を試してみるのも良いかもしれません。

ただし、犬の状態やガンの進行度によっては経管栄養法が最善策とは言えない場合もあるので、かかりつけの獣医さんとしっかり相談して決めましょう。

なにかいいサプリメントなどはありますか?

ガンに効果があると言われる食品成分

がんを予防、抑制したり、免疫力を高めるのに効果があるとされている食品成分には以下のようなものがあります。

  • βグルカン
  • オメガ3脂肪酸
  • にんにく
  • サメ軟骨
  • キチン・キトサン
  • カテキン
  • 核酸

ただし、これらの成分は犬や猫では有効性や安全性が十分に立証されていないものも含まれているので、むやみに摂取すればよいというものではありません。サプリメントは薬ではなくあくまで食品の分類になるので、サプリメントだけで治療しようとするのではなく、治療の補助として上手に活用していきましょう。また、サプリメントを取り入れる際は必ずかかりつけの獣医師に確認してから取り入れるようにしてください。

きのこ由来のβグルカン

上記の中では、きのこ由来のβグルカンは比較的安全に利用できます。βグルカンを配合したサプリメントを2つご紹介しましょう。

■犬猫用Dーフラクションプレミアム

マイタケから抽出したβグルカンを配合した液状のサプリメント。液状なので容器にそのまま入れてもいいですし、食事に混ぜて与えることもできます。

(公式サイトはこちら )

■リンパクト®デリタブ

 3種のキノコから抽出されたβグルカンなどの成分を錠剤にしたサプリメント。小粒なので飲み込む力が衰えている犬や小型犬でも食べやすいでしょう。

(公式サイトはこちら

ペットフードにも含まれているオメガ3脂肪酸

魚油に多く含まれるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸も、腫瘍に効果があると言われる成分の一つです。関節炎の症状を改善したり、健康な心臓を保護する効果が見込まれていることから、多くのシニア犬用フードにも配合されています。オメガ3脂肪酸が含まれるサプリメントを2つご紹介します。

■アンチノール

(引用元:Vets Pets

■モエギキャップ

ソフト錠剤のサプリメント。モエギガイや魚から抽出した脂肪酸により、犬の健康をサポートします。そのまま与えるか、ごはんに混ぜて与えてください。

(公式サイトはこちら )

最後に

愛犬にガンが見つかり、次第にごはんを食べなくなってしまうと、飼い主さんも非常に辛い思いをすることになります。食欲を改善するためにトライする価値のあることは色々あるので、かかりつけの獣医さんと相談しながら試してみてください。