犬は人間よりも早く年を取るため、どんなに大切に思っていてもいつかお別れの時はやってきます。愛犬が亡くなってから後悔するようなことはしたくないと思っていても、愛犬との最終章をどのように過ごすべきなのか、悩んでいる飼い主さんも多いでしょう。そこで今回はペットロスカウンセラーであり、動物医療グリーフケアの第一人者である阿部先生にお話を伺いました。
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愛犬の年齢を実感するだけで不安に…
愛犬はかけがえのない存在
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飼い主さんにとって、長い時間を一緒に過ごしてきた愛犬はかけがえのない存在ですよね。可愛い表情や思いもよらない行動で家族に笑顔を運んでくれますし、飼い主さんが疲れているときにはそっと寄り添い、悲しみに暮れているときには一生懸命慰めてくれることもあるでしょう。そんな愛犬のことを誰よりも心を開ける相手だと感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、犬は人間よりも早く年を取っていきます。いつまでも小さな子どものように感じられても、いつの間にか飼い主さんを追い抜いてシニアになっていきますよね。体力は少しずつ衰えて運動量も減っていき、やがて目が見えにくくなったり、耳が聞こえにくくなったりしていきます。
大切な存在をなくすときに感じる「グリーフ」
愛犬のこうした変化は、つらいお別れが近づいていることを飼い主さんに思い起こさせます。人は大切なものを失ったときだけでなく、大切な存在を失うかもしれないと想像したときにも「辛い」「悲しい」「切ない」「不安」といったさまざまな感情が湧き起こります。年齢とともに愛犬の体に変化が現れたり、病気が見つかったりしたときに、飼い主さんがこうしたグリーフ(=悲嘆)を感じるのはごく自然なことなのです。
不安や悲しみはいつまで続くでしょうか?
グリーフは大きく4段階に分けられます。例えば、動物病院で愛犬にガンが見つかったと告げられたとしましょう。このとき、飼い主さんが受けるショックは相当なものです。頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなることもあるでしょう。これが1つ目の衝撃期。現実から逃避して身を守っている状態です。
少しずつ頭の中が整理されてくると次にやってくるのが悲痛期です。衝撃期よりも冷静になる一方、真の心の痛みを感じるようになります。深い悲しみに苦しみ、自分を責めたり孤独感に苛まれたり、ときには強い怒りを感じることもあるかもしれません。
やがて時が過ぎると、少しずつ現実を受け入れられるようになってくる回復期に入ります。前向きに物事を考えたり、楽しい思い出を振り返ったりすることができるようなります。愛犬が生きている間は、この3つの衝撃機、悲痛期、回復期を行ったり来たりしながら過ごします。
そして4つめの再生期は、愛犬が亡くなってから、回復期の後に現れます。回復期を迎えると、悲しみを抱えながらも前向きな人生を取り戻していこうと思えるようになるのです。
愛犬との最終章、どのように過ごせばいいですか?
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飼い主さんのそばは一番安心できる場所
犬にとって、大好きな飼い主さんがいるところは最も安心できる場所です。長い間たくさん愛情を注いでくれて、一緒に多くの幸せな時間を過ごしてきた飼い主さんのそばは、犬にとって一番リラックスできる「安全地帯」と言えます。愛犬に幸せなシニアライフを過ごしてもらうためには、最期までこの「安全地帯」を守ってあげる必要があります。
飼い主さんの不安は愛犬に伝わる
愛犬が病気がちになったり、徐々に体力が衰えたりしたとき、飼い主さんが不安や悲しみを感じるのはごく自然なことです。しかし、犬はそういった飼い主さんの感情の変化を敏感に察知します。
たくさんの笑顔を向けてくれていたはずの飼い主さんが自分を見て涙を流し、いっぱい話しかけてくれた優しい声が暗く、沈んだ声になってしまったら、犬はその変化に戸惑い、不安を感じてしまうでしょう。一番リラックスできるはずの「安全地帯」が脅かされ、ストレスを感じるようになるかもしれません。
シニア犬はストレスに弱い
シニア犬は若い頃よりもストレスを感じやすくなります。来客後に下痢をしたり、ペットホテルに預けた結果ごはんを食べなくなったり、ちょっとしたストレスで体調を崩してしまうのは珍しいことではありません。反対に、飼い主さんがしっかり「安全地帯」を守ってあげることができれば、犬はストレスを感じることなく、最期まで安心して過ごすことができます。ストレスのない生活は免疫力を高めることにも繋がるので、精神面にも肉体面にもいい影響があるのです。
闘病生活で注意することはありますか?
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辛いときこそ安全地帯を意識して
愛犬が年を取って病気がちになってくると、飼い主さんは「愛犬の体にいいことをしてあげないと!」と色々なことに気を使うようになります。なんとかお薬を飲ませようとしたり、安静に過ごさせようとお出かけをやめてしまったりして、愛犬と一緒に苦しい闘病生活を乗り越えようとする方もいるでしょう。
しかし犬は、体が高齢になっても、心はいつまでも小さな子どものように幼いままです。思うように体を動かせなくなったり、苦しい発作が起きたりして不安を感じやすくなっているときに、飼い主さんの様子まで変わってしまったら、犬はとても不安になってしまいます。辛い時こそ、愛犬の「安全地帯」を守ることをぜひ意識してあげましょう。
犬は自分の病気を理解できていない
愛犬に病気が見つかると、つい病気や治療のことばかりに気を取られてしまうかもしれません。しかし、犬は自分がどんな病気にかかっているのかわかりません。そもそも病気になっていることすら、気付いていないかもしれません。ちょっと体はしんどいけれど、大好きな飼い主さんと一緒に楽しく過ごしていたいのに、飼い主さんは全然お出かけに連れて行ってくれなくなって、ごはんの中に苦いお薬が入っていて、ごはんの時間も真剣そうな顔でこちらの様子を見ている・・・。こうなってしまうと、そこは安心してリラックスできる場所ではなくなってしまいますよね。安らげる場所がなくなって、長い間緊張状態が続いてしまった犬は、体力よりも先に気力が衰え、ごはんを食べなくなったり、歩けなくなってしまうこともあります。
病気を悪化させないために環境を整えてあげるのは大切なことですが、それと同じくらい、愛犬の「安全地帯」を守ってあげることも大切なこと。愛犬との幸せな最終章を過ごすためには、病気を主体にするのではなく、愛犬を主体にした日常生活を続けてあげてください。
愛犬の安全地帯を守るためには
嫌いなお薬を上手に飲めたら、「わぁ、よくがんばった!えらいねー!よかったねー!」と明るく声をかけてあげましょう。どうしても嫌がるときは無理やり飲ませるのではなく、時間をあけて気分転換をしてから再チャレンジするのも一つの手です。
自力で歩くことができないのであれば、飼い主さんが抱っこしてあげたり、カートに乗せたりして愛犬が好きな場所へ連れて行ってあげるのもいいでしょう。お出かけ先で一緒に座って景色を眺めたり、その場の空気の匂いを嗅ぐだけで、幸せな時間を過ごせるはずです。
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ペットロスを和らげてくれるお守り
愛犬の体を労わりながら「安全地帯」を確保してあげるのはとても難しいことです。特に愛犬の具合が悪いと、飼い主さんもついネガティブな思考に引っ張られてしまうものですよね。しかしどんなに苦しい状況でも、愛犬の前では優しく話しかけることができた、愛犬を不安にさせないために温かく見守ってあげることができたという達成感は、後になって飼い主さんを助けてくれます。
「最期まであの子は幸せそうだった。」
「病気になってからも楽しい時間をたくさん過ごせた。」
「亡くなる前に大好きだった場所に一緒に行けた。」
こうした楽しかった思い出が、愛犬とお別れをした後お守りのようになって、深い悲しみの中で飼い主さんを支えてくれることでしょう。
最後に
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愛犬が年を取ったとき、飼い主さんは今まで以上に多くの判断を求められます。病気をしたらどんな治療方針にするのか、どこまで治療をしてあげるべきなのか、最期はどんな風に看取ってあげるのか…。悩んだときはぜひ、愛犬の目線になって考えてあげてください。今まで長い年月を過ごしてきた飼い主さんが、誰よりも愛犬の気持ちを理解しているはずです。家族みんなでしっかり考えることが、愛犬との幸せな最終章を過ごすヒントになると思います。