食べ物を飲み込む力が衰えたシニア犬は、誤嚥性肺炎にかかりやすくなります。誤嚥性肺炎は重篤になるケースが多く、命に関わることもありますので、シニア犬の飼い主さんは具体的な症状や対処法についてきちんと理解しておきましょう。ここではシニア犬の誤嚥性肺炎について、獣医師の丸田先生にお話を伺いました。
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老犬に多い「誤嚥性肺炎」とはどんなものですか?
誤嚥性肺炎とは
通常、口の中に入った食べ物や液体などは食道へ、空気は気管へ運ばれます。しかし、この分別がうまくできず、食べ物や液体が気管へ入ってしまった状態を誤嚥(ごえん)と言います。さらに、この誤嚥が原因で肺に炎症を起こしてしまったものを誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と言います。特にシニア犬や子犬は免疫力が低いため炎症を引き起こしやすく、重症化しやすいです。
老犬になると誤嚥しやすくなる
犬の喉の奥には「喉頭蓋」という蓋があって、食べ物を飲み込もうとすると、この喉頭蓋が気管を塞ぎます。しかし、老犬になると喉頭蓋がうまく機能しなくなるため、誤嚥しやすくなり、誤嚥性肺炎を発症することが増えるのです。気管に入り込む恐れがあるのは食べ物や水だけではありません。唾液や嘔吐物などを誤嚥することもあります。
誤嚥性肺炎にかかるとどうなる?
肺は体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するという重要な役割を担っている臓器です。そのため、誤嚥性肺炎を引き起こすと呼吸が苦しくなります。肺のダメージが大きいと呼吸困難に陥り、最悪の場合死に至ることもあります。後述する誤嚥性肺炎の症状が見られたときは、深夜であってもすぐに動物病院へ連れて行くようにしましょう。
誤嚥性肺炎を引き起こす原因は何なのでしょうか?
誤嚥性肺炎の原因① 食べ物や水など
犬の口の中には歯周病菌などの様々な細菌が潜んでいます。口を通った食べ物や水、唾液の中にはそれらの細菌が混じっているため、誤嚥すると細菌も一緒に肺へと送られ、肺の中で炎症を引き起こすのです。
誤嚥性肺炎の原因② 胃酸
嘔吐物を吸い込んでしまった(誤嚥した)ときも誤嚥性肺炎を引き起こします。この場合は細菌というより、胃酸によって肺がダメージを受けます。嘔吐物には胃液が含まれていることが多く、少量吸い込んだだけでも強力な酸によって肺の組織が激しく損傷します。嘔吐物の誤嚥は重症化しやすいので、特に注意が必要です。
(尚、麻酔や鎮静の処置をするときは嘔吐するケースが多く、誤嚥性肺炎を防ぐために絶水絶食の時間を設けます。)
誤嚥性肺炎になるとどんな症状が見られますか?
誤嚥性肺炎はどんな時に発症しやすい?
飲み込む力が衰えているシニア犬の場合、ごはんを食べた後やお水を飲んだ後に誤嚥性肺炎を起こしやすいです。また、嘔吐をした後も嘔吐物が気管に入ってしまうことがあるので注意しましょう。てんかんや脳腫瘍がある犬の場合は、発作が起きたときに発症する可能性があるので注意が必要です。
誤嚥性肺炎の症状は?
誤嚥性肺炎になると呼吸がしづらくなるため、以下のような症状が見られます。
- 呼吸が荒い
- 呼吸音が小さい
- 咳
- 異常な呼吸音(ゼーゼー、ヒューヒューと音がする
- 鼻水
- 元気がなく、ぐったりしている
- 食欲がない
- 発熱
ひどい場合には呼吸困難に陥り、舌が青くなるチアノーゼという現象が見られることもあります。こうなると命に関わる状況ですので、早急な処置が必要となります。
誤嚥性肺炎の治療ではどんなことをしますか?
誤嚥性肺炎の検査
まず、いつから具合が悪くなったのか、嘔吐はあったかなど、飼い主さんにお話を伺います。そして聴診器で呼吸音を聞くなどして、そのときの犬の様子から誤嚥性肺炎が疑われる場合は、胸部のレントゲン撮影をします。レントゲンで肺に白い影が写っていれば、肺に炎症が起きていると確認できます。尚、レントゲン撮影は麻酔なしで行われるのが一般的です。
誤嚥性肺炎の治療
誤嚥性肺炎は重篤になるケースが多く、入院が必要になることも少なくありません。呼吸困難に陥っている場合は酸素室で入院することもあります。抗生剤や、呼吸を楽にするための気管支拡張剤などを投与しながら様子を見ます。発熱で体力が落ちてしまうこともあるため、点滴や輸液などで全身状態を回復させる処置を行う場合もあります。また、気管支を加湿して呼吸をしやすくし、霧状にした薬剤を肺に届けるネブライザーという吸入器具を使用することもあります。
誤嚥性肺炎は完治する?
誤嚥性肺炎の生存率は75%と言われますが、重篤な場合は呼吸困難に陥り、残念ながら治療の甲斐なく命を落としてしまうことも少なくありません。特にシニア犬は誤嚥性肺炎で命を落とすケースが多いので、くれぐれも誤嚥しないように注意してあげることが大切です。
誤嚥性肺炎を予防するためにできることはありますか?
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愛犬を誤嚥性肺炎から守るためには食事の与え方が非常に大切です。愛犬の体に負担をかけないよう、食事の内容や食べるときの姿勢などを工夫してあげてください。
食事環境を見直して
シニア犬は飲み込む力が衰えてしまうため、フードを与えるときは床に直接食器を置くのではなく、台などの上に置くようにしましょう。食事の際に頭の位置を高くすることで飲み込みやすくなります。食事時間の間隔が開くことで空腹になってしまうのも良くありません。勢いよく食べると誤嚥しやすくなります。少量の食事を頻回に与えることで、ある程度は予防することができます。
寝たきりの子の食事は要注意
寝たきりになって自力で食事ができない犬は、飼い主さんが食べさせてあげなくてはなりません。食べさせるときの体勢は、特に注意してください。
まず、愛犬にごはんを与えるときは、上半身を支えるのがポイントです。座ったり、伏せの体勢ができるのであれば、愛犬をお膝の上で座らせて飼い主さんが上半身を支えてあげます。このとき、犬の頭のてっぺんが一番高いところにくるようにしてください。愛犬のあごを持って顔を上に向かせた状態でごはんを与えるのは、誤嚥しやすくなるので絶対にやめましょう。
座ることが難しい犬の場合、クッションなどを脇の下(横向きで寝ている場合は肩の下)に差し込んで上体を起こしてあげるといいです。体力が落ちている老犬は体勢を整えるだけで疲れてしまうこともあるので、体勢を整えたらしばらく落ち着くのを待ってからごはんを与えるようにしましょう。詰まらせないよう、様子を見ながら少量ずつ与えてください。
食べ物を工夫する
ごはんの内容を工夫することも誤嚥を予防する上で大切です。愛犬が食べやすい大きさ、硬さのフードを与えてください。咀嚼力(噛む力)が弱ったときはフードをふやかしたり、ウェットフードを小さなお団子状に丸めたり、とろみをつけてあげると食べやすくなります。
また、ごはんの合間にしっかり水分補給をしてあげましょう。食道を潤った状態に保つことで、ごはんを飲み込みやすくなります。
最後に
噛む力や飲み込む力が弱まったシニア犬にとって、誤嚥性肺炎は特に注意したい病気の一つです。食事の後、嘔吐した時などは注意して愛犬の様子を見守ってあげてください。呼吸が苦しそうな様子が見られたら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。